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伊礼彼方、役者の哲学まるごと掘り起こしたい/下

日本初上陸、キャロル・キングの半生描くミュージカル『Beautiful』に出演

桝郷春美 ルポライター


伊礼彼方、役者の哲学まるごと掘り起こしたい/上

ノーと言えなかった10代

拡大伊礼彼方=森 好弘撮影(撮影協力:梅田芸術劇場)

――伊礼さんは昔から、はっきりと自分の意見が言えたのですか?

 いや、実は逆なんです。言えなくて、ため込んでしまってパニック障害のような状態だった時期があります。ノーと言えなかった。やりたくないことを、やらざるをえない状況を自ら作り出していたというか、ノーと言ったところで結局、やらなきゃダメなんだと上から押さえつけられた経験をしました。

――それはいくつぐらいの時ですか?

 17~20歳までの間です。

――多感な時期。

 そうですね。すごく精神的にキツくて僕、一年ぐらい記憶がないんです。それで立ち直って、そこから変わろうと決心して、自分が思うことを素直に言ってみようと思ったんです。初めはすごく考えて、考えて、でも言葉が出ない。言いたいのに、言う勇気が出なくて葛藤していました。

――よく立ち直れましたね。

 そうですね。死にたいとは思わなかったのが、救いだったと思います。

――自分の状況はわりと冷静に見えていた?

 はい。どうしてそうなったのかと自問自答しても、理由は全くわかりませんでした。家から出るのが嫌で、7~8カ月ぐらいずっと家に引きこもっていた時に「外に出よう」と小学校からの友達に誘われたんです。

 外に出たところで状況は変わらないだろうと思ったし、何より怖かったのですが、「出ていきなさい」と親にも言われ、それでいざ出て友達と遊んで食べてしゃべって、ゲラゲラ笑っている時、自分の状況を忘れられたんです。でも帰って一人になった時に、また不安に襲われる。ということは、楽しい時は忘れられるんだ、というヒントを得ました。

――なるほど。

 それがきっかけで、僕はお笑い好きになりました。笑っている時だけは、自分の状況を忘れられたから。それからバラエティ番組を見まくってゲラゲラ笑って、忘れる瞬間がどんどん増えていったんです。きっかけは確か、ナイナイさん(お笑いコンビ「ナインティナイン」)の番組で武田(真治)さんも出ていた「めちゃイケ」(「めちゃ×2イケてるッ!」)でしたね。笑うことで、徐々に自分が変わっていって、初めて自分の言いたいことを言えた時は開放感がありましたね。

――その時、どうして言えたのですか?

 怖いから。またあの状態に戻りたくない、ここから抜け出したいという気持ちだけがありました。自分を助けたいから言おうと思ったんです。

自分を助けるのは自分しかいない

拡大伊礼彼方=森 好弘撮影(撮影協力:梅田芸術劇場)
――自分で自分を助けた。

 その時、自分を助けるのは自分しかいないって思ったんですよ。自分の感情は、自分で吐き出すしか方法はない。誰も助けてくれないし。だから、自分の人生をこれからも生きていくためには発言していかなきゃいけないと思って、言うようになれたんです。それで、一度言えたら、その後はどんどん言えるようになって、すると今度は自分が傷つきたくないからといって言い続けてしまったんです。人を傷つけるまでに。

――言われたくないという一心で言った結果が相手を傷つけた。

 はい。僕は当時、音楽活動をしていたんですがサポートメンバー達が去って、一人になって、皆の存在のありがたみがわかった時に、あ、言い過ぎていたんだとようやく気づいて、そこからまた自分の言う・言わないのバランスを考えて生きるようになりました。

――それは、周りから人がいなくなって初めて、言い過ぎたと気付いた。

 そうです。

――ターニング・ポイントは一人?

 言われれば、そうですね。

――何かが変わる時というのは、一人になるものなのでしょうか。

 そうかもしれませんね。大事な人たちがいなくなって、一人になって気づくことがある。それから、人のアドバイスがあって前に進んでいきました。

◆公演情報◆
ミュージカル『Beautiful』
2017年7月26日(水)~8月26日(土) 東京・帝国劇場
[スタッフ]
脚本:ダグラス・マクグラス
音楽・詞:ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ワイル
演出:マーク・ブルーニ
振付:ジョシュ・プリンス
[出演]
水樹奈々/平原綾香(Wキャスト)、中川晃教、伊礼彼方、ソニン、武田真治、剣幸 ほか
公式ホームページ
〈伊礼彼方プロフィル〉
沖縄県出身の父とチリ出身の母の間に生まれる。幼少期はアルゼンチンで過ごし、その後、横浜へ。中学生の頃より音楽活動を始め、ライブ活動をしていたときにミュージカルと出会う。その後、ミュージカルやストレートプレイ、コンサートなど、ジャンルや役柄を問わず、幅広い表現力と歌唱力を武器に多方面で活動中。最近の主な出演作は、『王家の紋章』『お気に召すまま』『サバイバーズ・ギルト&シェイム』『あわれ彼女は娼婦』『グランドホテル』『ピアフ』など。12月には、ミュージカル『メンフィス』への出演を控えている。
伊礼彼方official web site

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筆者

桝郷春美

桝郷春美(ますごう・はるみ) ルポライター

福井県小浜市出身、京都市在住。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当後、フリーランスとして雑誌やウェブサイトに執筆。社会と表現の関わりを軸に、ドキュメンタリー映画、美術、舞台などジャンルを問わず、人物インタビューや現地取材を行う。

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