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前川喜平氏の「出会い系調査」に不足していたこと

「夜の世界」に関わる立場から、リスクマネジメントと調査方法を考える

角間惇一郎 一般社団法人GrowAsPeople代表理事

混沌とする加計学園問題について思うこと

 はじめまして。角間惇一郎と申します。7年ほど前から、性風俗産業に関わっている方々に対する調査とセカンドキャリアサポートを行う一般社団法人GrowAsPeople という団体で代表理事をしています。

前川喜平・前文科事務次官前川喜平・前文科事務次官は「出会い系バー」で仕事をする女性の「調査」をしていたと語ったが…
 今年2月、性風俗産業で働く女性のデータをまとめた「夜の世界白書 2016年度」を発行しました。 

 加計学園問題で、前川喜平前文科事務次官の発言や行動に世間の注目が集まっていることは既にご存知かと思います。「総理のご意向」の有無、文書流出、国家戦略特区制度について等々、多様な論点が入り混じることで、「そもそも問題の本質は何か?」「解決すべき課題は何なのか?」、この点が極めてわかりにくい状態になっていると感じています。

 流石にこの状況はよくないと考えたのでしょう。「問題の本質を冷静に見極める必要がある」というようなニュアンスを伝えようとする識者の記事をよくお見かけするようになりましたが、状況はまだまだ混沌としていると言わざるを得ません。

 今回、加計学園問題の渦中に突如出てきた、「風俗的」なものの扱いについて思うところがあり、この機会に社会に共有させていただきたいことがあるため筆を取りました。私の立場から語りたいことは「風俗的」な世界を「調査」するということについてです。

「風俗的な世界を調査」するとは?

 まず、「前川氏が出会い系バーの店舗に出入りしていたことが調査だったか否か」を判断できるかどうかということです。本当に調査だったかどうかは本人の意思次第なので、前川氏が調査だと言いきっていたのなら「そうなのですね」と受け止めなければいけません。

 調査であったことの証拠がないのと同時に、調査でなかったことの証拠もないので、調査か否かは本人の意向で決まります。『疑わしきは罰せず』は社会の原則です。ただ調査だったとしても、店舗へ出入りすることの是非については考えなければいけません。

 モラルや感情的嫌悪感を除外して考えると、出入り自体が違法と判断されていない店舗に客として出入りすることは批判すべきことではありません(利用に公費を使っていたのだとしたら問題ですが、今のところそういう事実は確認できていませんし)。

 また、出入りしていたことが即ち、売買春に関わっていたかも断定することは出来ません。出会い系バーのシステムについてこの記事で解説することは割愛しますが、出会い系バー店舗内で何らかの性的な行為が行われることはありません。これは、あくまで男女の出会いのきっかけを作っている場にすぎないためです。

 店舗内で出会い、「その後二人に何があったのか」ということは個人の記憶の中にしか残らない事実なので、周りがいくら騒いだところで真実が明るみになることはありません。例えば、「どこからが浮気か」の線引きが各個人で異なるのと同様、感情的な嫌悪感こそ生まれるでしょうが是非は問えないのです。適法の範囲内で個人が何をするか、何を考えているかは本人の自由なのです。

 長年夜の世界の方々と話をしていて思うのですが、曖昧な境界線が存在する世界こそ、所謂「風俗的な世界」の特徴です。これはどこからが調査だったか否かについてと同様のことです。ただ、前川氏のような立場の方が出入りするには秘匿性が低い環境ではありました。調査の名目だとしてもリスクが高い行為であったことは間違いありません。ここで言うリスクとは、世の中と家族のイメージを損なうということです。

 個人的な感想ですが、世の中や家族から白い目で見られることはしんどいことです。先ほど述べたように、調査の有無、出入りの是非は問うだけ無駄ですが、案の定、読売新聞に店舗に出入りしていた事実を記事にされてしまっていることからも、前川氏のリスクマネジメントが甘かったことは間違いありません。

より「まし」な調査方法は?

「私は前川さんに救われた」という女性の証言を掲載した「週刊文春」(2017年6月8日号)「私は前川さんに救われた」という女性の証言を掲載した「週刊文春」(2017年6月8日号)
 前川氏が主張されているとおり「調査で“店舗に出入り”していた」のだとしても、ネガティブな印象を狙って出入りの事実が切り取られ報道されてしまった以上、修正すべきポイントがあるわけです。

 前川氏の社会的立場を考慮すると、リスクマネジメントは無視できません。また調査するからにはその後の影響力の最大化を考えなければいけません。ならば下記のように取り組むべきでした。

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