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舞台『OTHER DESERT CITIES』

寺島しのぶ、家族とは何かという普遍的な問題をシンプルに

真名子陽子 ライター、エディター


拡大舞台『OTHER DESERT CITIES』に出演する寺島しのぶ=安田新之助撮影

 7月6日(木)から東京芸術劇場シアターウエストにて『OTHER DESERT CITIES』が上演される(7月29日(土)~31日(月)/大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)。「ウィットにとんだ辛辣さで心を打つ傑作」と賞賛され、2012年には、トニー賞5部門にノミネートされた作品。本作は家族劇で、元映画俳優の父・ライマン役に中嶋しゅう、元脚本家の母・ポリー役に佐藤オリエ、その妹・シルダ役に麻実れい、TVプロデューサーの弟・トリップ役に中村蒼、そして主人公の長女・ブルック役に寺島しのぶ、と錚々たるメンバーがそろい家族の物語を紡ぎ出す。

 大阪で取材会が開かれ、寺島しのぶが作品の見どころや、絶大な信頼を寄せる本作の演出家・熊林弘高について語ってくれた。

家族だから、肉親だからこそ傷つけてしまいたくなる

拡大舞台『OTHER DESERT CITIES』に出演する寺島しのぶ=安田新之助撮影
――台本を読んだ時に、「これ、私」と思ったそうですが、その理由を教えて下さい。

 私自身、親に迷惑がかからないところで、好きなことがやりたいということを常に考えていました。でも、こういう環境で育つとそこから抜け切れなくて、結局、そこへ戻っていくんですよね。うっとおしい存在でしたが、自分が大人になって親の気持ちがわかったり、無意識のうちに親に似てきたり……という経験を経て、ブルックの事が理解できるんです。

――この作品の魅力はどんなところでしょうか?

 アメリカ、カリフォルニア州でのお話で、洋物というと難しいというイメージがあるけれど、核となる部分は家族の話で宗教色などもなく、シンプルに家族とは何かという普遍的な問題を感じ取っていただけるような作品になると思います。舞台上にはセットがほとんどないんです。何もない状況で芝居をするというのは、役者の力量に課せられているところがあって、こういうセットで演技をさせていただくのは久しぶりです。

 演出の熊林さんは、あまり仕事をしない演出家ですけど(笑)、すごく才能があって、時間があれば海外の演劇を見に行って、とにかく知識が豊富な方なんです。いろいろなものを取り込まれていて、日本の演劇をやっている感覚がないんです。共演者もオリエさんや麻実さん、中嶋さんといった演劇界のレジェンドと言われる方たちで、その方たちが熊林さんならやりたいという、それぐらいおもしろい演出をされる方なんです。今はまだ本読みの稽古だけですが、非常に楽しいですし、わかりやすいです。

――セリフに毒や棘があってとても面白く、ユダヤ人作家らしいなと感じたのですが、違和感などはないですか?

 台本を読んで、これはちょっと?と思わないというのは、私自身がかなり役とリンクしているのかなと思います(笑)。家族だから、肉親だからこそ傷つけてしまいたくなる。他人だったらちょっと気を遣って言うところを、家族だから言ってしまうことってあると思うんです。この物語は、母と娘の関係がすごく強くて、娘は母を超えられない、母は娘に押し付ける、娘はそれに反発していく。そして、お互い同じ作家としてぶつかり合うんですね。これを母親に言ったらダメだよね、これは母親が言ったらいけないよね、という禁止ワードってどの家族でもあると思うんです。そういう母と娘の関係が、私の中ではすごくリアルに感じられるので、違和感や難しいとは思わないです。肉親は死ぬまで切り離せないし、切り離せないことによって生きていられるという瞬間があったりしますよね。

セットがないので、役者の肉体に表現を頼るしかない

拡大舞台『OTHER DESERT CITIES』に出演する寺島しのぶ=安田新之助撮影

――この作品で楽しみにされていることは、やはり熊林さんの演出ですか?

 そうですね。それが一番です。以前からお話はあったのですが、タイミングが合わなくて。今回のお話を頂いたときに、これが会うべくして会う作品だったんだなと思いました。熊林さんは、役者が思いもつかない動きをさせるんです。こうやってみてくださいということが、すごく腑に落ちるんです。今、役者さんに対して好きにどうぞという演出家が多いのですが、そういうのではなく、緻密に目の動きも演出されますし、どちらかというと映像的な演出をされる方かもしれないですね。セットがないので、役者の肉体に表現を頼るしかないんです。役者にとっては過酷なんですけど、それが挑戦だったりするんです。やっていて楽しいですし、とても充実しています。

――熊林さんの演出は、役者以外は入れないそうですね。

 出演者全員が稽古を見られるわけではなく、今日はこの人とこの人のシーンを1時間でやるとなると、他の人は入ってはいけないんです。緊張するような張りつめたシーンを創るのでもなく、熊林さん自身が稽古って恥ずかしくない?とおっしゃるんです。役者ががんばって恥をさらす場所だから、それを敢えて人に見せることはないし、できたときに皆に見せたらいいんじゃないという考え方です。それが、非常に心地いいですね。稽古場では、意外といろいろなことを考えるんです。誰かがいるというだけで視線が揺れたりするので、邪魔が入らないのが良いです。そういう繊細さを持った演出家なので、役者としてはすごくありがたいです。

自分の環境が変わると、家族の在り方も変わってくる

拡大舞台『OTHER DESERT CITIES』に出演する寺島しのぶ=安田新之助撮影
――ほかに、父と弟が出てきますが、その関係性などを教えてください。

 母親とは犬猿の仲で、似すぎているからそうなってしまうんだけど、いつもお父さんがクッションになってくれるんです。でも、お父さんもお母さんの操りがないとうまくしゃべれなくて、少し鬱の症状があるんですね。中村くん演じる弟トリップは、全員を俯瞰で見ていて、優等生で親も心配していない。でも、その心配されていないことが、彼の中で闇になっていく。そこもとても深いなと思うのですが、どの登場人物にもいろいろな悩みがあって、そのあたりがうまく折り重なっていったらいいなと思います。トリップは私が演じるブルックを最後まで見届けてくれる存在になっていくので、彼の役割はすごく大きいです。私も弟がいて、若いころはけっこう自由に過ごして、弟がこれ以上やったらやばいんじゃないと言ってくれる存在だったので、似ているかもしれないですね。

――ブルックを演じることで感じることは?

 私も家を出たいと思っていたけれど、結局、家族からは離れられなくて、そのことで自分も得しているんだなと思うところもありました。子供のとき、結婚する前、結婚した後、子供を産んだ後と、自分の環境が変わると、家族の在り方も変わってくるんだなと感じます。

 とくに子供を産んでから、父や母といる時間が長くなりました。親に対する反発はないですし、今は「ありがたい」のひと言しかないです。10~20代のときは、そういう気持ちにはまったくならなかったです。そうやって人生を歩んでいく中で、これからまた変わるかもしれないですしね。自分を探す――どこかに、なにか共通点を見つけられる演劇だと思います。

――子供が生まれてどういうところが変わったのでしょうか?

 今まで父との会話はあまりなかったのですが、彼(息子・眞秀くん)を通じて会話が生まれたり、食事会をして輪ができたり、鎹(かすがい)になってくれている気がします。5月の初お目見えのときは、父の楽屋に彼がいて私が楽屋を訪ねたり……その時々の状況が家族の形を変えていくんだなと思います。

――親になられて、ご両親の気持ちがわかるようになったりしましたか?

 そうですね。どうやって育てられたかは覚えていないですし、彼には主人と私なりの育て方しかできないですけど、私自身は愛情をいっぱい注がれて育ったんだなと思います。ちょっと前までは、弟の方がいっぱい愛を注がれていると思っていました……いろいろなことが、日々変わっていきますね。

1回読んで、これだ!という直感で作品を選ぶ

拡大舞台『OTHER DESERT CITIES』に出演する寺島しのぶ=安田新之助撮影

――お話を伺っていると、いろいろな方に共感してもらえる要素がありますね。もう一つ、この作品はミステリーなんですか? その面白さもあるのでは?

 そのミステリーの作り方によりますけど、熊林さんがいかにお客さまを引っ張って、最後まで緊張を途切れないようにするかですね。本を読んでいる限りでは、ん? ハッピーエンド?と思うのですが、ハッピーエンドにはならないと私は思いますね。単純に家族の在り方を見つけた、というだけでは……。人間ってそんなもんじゃないよねという感じです。どういう結末になるのか楽しみですし、とてもおもしろい演出をされていますので、期待していてください。ハリウッドか、ヨーロッパか、というとヨーロッパ風になっていくんじゃないかと思います。

――舞台や映画など、どういう基準で作品を選んでいるのでしょうか?

 1回読んで、これだ!という直感です。あと、出来上がったときや見終わったときに、この役は寺島しかできなかったよねと言ってもらえる作品に出たいなと思っています。より感覚を研ぎ澄まして、これは逃したくないという作品、役を、これから先もやっていきたいです。

――最後にメッセージをお願いします。

 セットも含めてコンテンポラリースタイルと言いますか、とてもおしゃれな演劇ですし、無の空間を埋められる先輩たちとお芝居できることが、とてもうれしいです。新しいものを見てみようという感覚で、足を運んで頂けたらいいなと思っています。

■あらすじ
2004年のクリスマスイブ―――
遠く離れた砂漠の国では、イラク戦争が継続していた。
そしてカリフォルニア州にある砂漠の街・パームスプリングスでは休暇に集まった家族が、ある危機を迎えていた。

「これは小説じゃない。回想録なの」

数年ぶりに帰郷した娘の宣言は、家族に投げつけられた爆弾だった。
ずっと昔に封印し、お互いに語らずに来た過去を、赤裸々に書いた回想録を出版するというのだ。有名人の両親は、体面を守るために娘と激しく対立する。

お互いを理解出来ないまま、家族はそれぞれの真実によって、相手を打ち負かそうとする。やがて事態は、修復不能なまでに壊れて行き……

◆公演情報◆
『OTHER DESERT CITIES〈アザー・デザート・シティーズ〉』
2017年7月6日(木)~26日(水) 東京・東京芸術劇場シアターウエスト
2017年7月29日(土)~31日(月) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
[スタッフ]
作:ジョン・ロビン・ベイツ
翻訳・台本:早船歌江子
演出:熊林弘高
[出演]
寺島しのぶ、中村蒼、麻実れい、中嶋しゅう、佐藤オリエ
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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