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加藤和樹インタビュー/上

『レディ・ベス』再演、同じものを作ろうとは思っていない

真名子陽子 ライター、エディター


拡大加藤和樹=岸隆子撮影

 2014年に初演されたミュージカル『レディ・ベス』が、10月から帝国劇場と梅田芸術劇場メインホールで再演されることが決まった。エリザベス1世の人生を、『エリザベート』『モーツァルト!』を手がけた、ミヒャエル・クンツェ、シルヴェスター・リーヴァイ、小池修一郎のゴールデントリオで描いた作品で、メインキャストは、初演時とほぼ同じキャストで上演される。

 エリザベス1世=ベスがひとりの女性として恋心を抱く吟遊詩人ロビン・ブレイク役・加藤和樹の取材会が大阪で行われ、初演時に感じたことや再演に対する思いを話してくれた。その後のスターファイルの単独インタビューでは、2018年1月に柚希礼音とW主演するミュージカル『マタ・ハリ』のことや10月にリリースされるアルバムについても語ってくれた。

初演は個人的にとても課題が残った作品

拡大加藤和樹=岸隆子撮影

記者:初演の時の印象と再演への意気込みをお願いします。

加藤:初演の時は、初めての東宝作品でしかも帝国劇場ということで、全力でやるしかないという状況でしたし、一つ一つに真摯に向き合うしかなかったです。公演期間が長く、稽古期間を入れると半年以上やっていましたので、本番を重ねるにつれて湧き上がってくる感情がありました。いろんな感情に気づくたびにべス役の二人(花總まり・平野綾)と話をして、少しずつ変えながら演じていた記憶があります。そして、個人的にとても課題が残った作品です。

記者:その課題とはなんでしょう?

加藤:歌です。Wキャストが山崎育三郎さんで、彼の歌の表現力に少しでも近づきたいという思いがありました。でも、それではダメなんだ、自分は自分のロビンを作らないといけないんだ、とも思っていました。

記者:ロビンはどんな人物としてとらえていましたか?

加藤:基本は自由気ままに生きている人間なんですけど、でも何も考えていないわけではないんですよね。太陽ではなく風のような人だなと感じていました。自由気ままに過ごしていたけれど、ベスに触れたことによって変わっていく……とても男気がある奴だと思います。

記者:風のような、というのは山崎さんと相談しあったりしたのでしょうか?

加藤:いや、それはなかったです。ロビンのバックボーンについてはそれぞれ考えていましたので。僕の中のロビンは、親を知らずに一人で生きてきて、そして仲間に出会って、その日暮らしで、いろんな苦労を知っている人。でもそれは、あくまで僕が作ったロビン像で、育三郎くんは育三郎くんのロビン像があったと思います。もちろん、小池先生がつけてくださる演出については、二人で考えながら作っていきました。

花總さんは説得力が、平野さんは勢いがある

拡大加藤和樹=岸隆子撮影

記者:初演で作ったロビンと、約3年経った加藤さんが作ろうとしている再演でのロビンに違いはありますか?

加藤:どうでしょうね。具体的にこうしたい、こうしようというのは、まだ何もなくて。実際に稽古に入って役として立ったときに感じることを大切にしようと思っています。でも、自然と変わってくるような気がします。自分が年月を重ねたように、キャストの皆さんもそれぞれのフィールドで活躍されて経験を積んでいらっしゃるので、それがどう混じり合うかが楽しみです。

記者:ベスへの接し方が、最初はクールでしたが、どんどん恋い焦がれるようになっていったという印象がありました。

加藤:王族に対してあんな失礼なことをする人っていないですよね(笑)。でも、そのフランクさや誰にも壁を作らないという人間に、ベスは初めて会ったと思うんですね。そんな失礼な奴が気になって気になって、そして恋に落ちて……そのべスをロビンはとてもかわいいなと思っていて、王女としてのプライドや強さを崩したいと。王女だけど一人の女性なんだから、いろんな世界を見るべきだよ、俺はこんなに自由に生きている、君はどうなの?と。ケンカを吹っかけているわけではないけれど、知らないより知ったほうが楽しいし、彼女を楽しませたいという気持ちもあって、ロビンも変わっていったと思います。

記者:ベスの二人の印象は?

加藤:花總さんは説得力がすごいです。戴冠式を終えた後の女王の風格がすごいんです。だからこそ戴冠する前のべスがとてもキュートで、ずるいなあと思いましたね。こんなかわいさを持っているんですか?と(笑)。平野さんはちょっとぶっきらぼうなところがあって、すごく勢いがあるなと感じました。若いころのべスを表現するのに、そういうところがぴったりだと思いましたし、ロビンに対して向かってくる姿がツンデレなんです。かわいいなっ、くそったれと(笑)、思っていましたね。それぞれ違うベスでしたので、毎日刺激的でした。

拡大加藤和樹=岸隆子撮影
記者:それぞれのベスに対して接し方は変わったりするんですか?

加藤:変わります。意識的に変えているのではなく、変わるんです。リアクションや距離感、見つめる目やタイミングも全然違います。戴冠式を見守るシーンでグッとくるポイントも違うんです。やっぱり人が違うと芝居も違いますし、花總さんと二日連続してやっても違います。変わっていくものだし、だからこそ最後まで前へ進んで行けたんだと思います。

記者:ミュージカルとしての見どころはどんなところにあると思いますか?

加藤:派手なダンスナンバーがあるわけではないのですが、登場人物それぞれの個性の強さがありますし、様式美の素晴らしさや衣装やセットも豪華ですし、あとはやはり歌ですね。どの曲もとても心地よくて聴いていて飽きないです。ちゃんと芝居と気持ちの流れを汲んだ音楽なんですよね。

記者:好きなナンバーはありますか?

加藤:ベスが歌う「我が父は王」が好きなんです。舞台袖で聞いているんですけど、いつも泣きそうになるんです。強いなこの子は、と。まだ10代なんですよね。何かを背負って生きることってないじゃないですか。でもベスは王女になる定めを持って生まれて、それを受け入れなければならない使命感があって。だからこそ、一人の女性として幸せの中で揺れ動くベスが、とても人間らしくて素敵だなと思います。

記者:長い公演期間の中、本番を経ていく中で何かつかめたことはありましたか?

加藤:やっていく中で役が体に入ってきて、力を抜けるようになりました。でも、慣れるということではないです。いつまでたっても慣れないですね。日によって声のコンディションも違いますし。でも、毎日変わっていくものなんだなと思えたときに、ちょっと気持ちが楽になりました。必ず同じことをやらなきゃいけない、となるとダメなんです。もちろん、同じことをするんですけど、例えば、立ち位置を少し間違えてもそれが良かったりするときもある。失敗から生まれる良さもあるんですよね。もちろんダメな失敗もありますけど、引きずらないようになりました。

ミュージカルなんですけど、芝居が大事

拡大加藤和樹=岸隆子撮影

記者:初演を踏まえて、新たに挑戦したいことはありますか?

加藤:自然な流れで芝居が作れたらいいなと思います。もちろん小池先生が求めるものがありますが、自然と生まれてくる気持ちを大事に、みんなと一緒に芝居を作れたらと思います。形も大事ですけれど、それだけではないところを追求していきたいです。

記者:初演では課題が残ったということですが、再演が決まった時の気持ちは?

加藤:頑張らなきゃいけないなと。課題を克服することは一生ないと思うんです。ずっとついてくると思います。でも、あの時よりステップアップしたと思っていただけるように努力をしてきたつもりです。うまく歌えばいいということではなく、そのときの心情にあった声で、その心情にあった歌い方をしたいと思います。

記者:初演から3年の間に自分自身の表現方法は見つかりましたか?

加藤:結局、芝居なんですよね。歌があってのミュージカルなんですけど、いろんなミュージカル作品をやる中で突き詰めていくと、芝居が大事なんだと思ったんです。歌がうまい、テクニックがあるというのは大切ですけど、いくらうまくてもそこに気持ちがなければやるほうも気持ちがのってこないと思いますし、お客さんにも伝わってしまうと思うんです。感情的になって歌えなくなってもいいんじゃないかとさえ思います。実際、感情的になると歌なんて歌っていられなくなるじゃないですか……もちろん、ミュージカルだから歌うんですけど。矛盾してますね(笑)。

 それぞれの表現に気持ちがないとウソになりますし、その役の感情を大切にして歌いたいし、芝居をしたい。そのギリギリのバランスを追求していきたいです……なかなか難しいですけど。やっぱり、歌いながらちょっと声が高いなとか思ってしまうんですよね。でも、役に入りこむとそんなことがなにも気にならなくなるんです。その感覚を知ってしまったので、そこへいきたいと思ってしまいます。何とも言えない感覚なんです。

拡大加藤和樹=岸隆子撮影

記者:ベスとの別れのシーンで知らない間に涙が出ていたそうですね。

加藤:そうなんです。ベスとの別れのシーンで、イモーテルの花を渡したときにベスがふと微笑むんですね。公演の始めは泣いていなかったのですが、ある時、そこでボロ泣きしたんです。でも、泣く日もあれば泣かない日もある。泣くと決めているわけではないんです。

記者:相手が同じでも、泣く日と泣かない日があるんですか?

加藤:はい、そうなんです。

記者:日によって変わるんですね?

加藤:変わります。日々、相手から受け取るものも違いますし、こちらから出すものも変わりますし。笑顔で送るときもあります。ある時、僕がボロ泣きした後に、仲間の三人組を見たら三人とも号泣していて、それは面白かったですね(笑)

記者:そんなに号泣したのは初めてですか?

加藤:そうですね。それまではちゃんと見送っていたはずなのに、やっぱりあきらめきれない感情が出てきて。最初にグッときたのは、女王になると決めたベスが去ったあとに、(山口)祐一郎さん演じるアスカムと二人で残るシーンがあって、祐一郎さんが、私は君も導いた、と歌いながら僕の肩に手を乗せるんですね。始めは乗るか乗らないかくらいの強さだったのが、ある時、手にすごく力を込めて肩をつかまれたんです。その時に、自分の存在は無意味じゃなかったんだ、自分がしたことはベスにとって意味のあることだったんだって、その手が言ってくれたんですよね……もうダメでした、泣きましたね。

 相手から受け取るものがすごく大事なんだなって感じましたし、それをなくしちゃいけないなと思いました。泣こうと思って泣いたらつまらないです、ウソになりますし。だから泣けなかったら泣けなかったでいいですし、泣いてくださいと言われれば、そこへ感情を持っていきます。あそこまで自分の感情に素直に芝居ができたことはなかったです。

記者:今回、初めて見る方も2回目の方もいらっしゃると思います。それぞれの方へメッセージをお願いいたします。

加藤:2回目の方は、まったく別の作品を見ると思って見に来ていただきたいです。同じものを作ろうとは思っていないので、生まれ変わった気持ちで舞台に立ちます。ひと味もふた味も違う再演の『レディ・べス』を楽しみにしていただきたいです。初めて見る方は、ベス=エリザベス1世は、一度は聞いたことがある名前だと思います。決して遠い存在ではなく、同じ人間で通じる部分が女性としてあると思います。選択を迫られるときがあると思うんですね。激動の中で自分の運命を受け入れていく強い女性の象徴だと思います。そこをぜひ見ていただきたいです。(個別インタビューへ続く)

◆公演情報◆
ミュージカル『レディ・ベス』
2017年10月8日(日)~11月18日(土) 東京・帝国劇場
2017年11月28日(火)~12月10日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
[出演]
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞・修辞:小池修一郎
[出演]
花總まり/平野綾(Wキャスト)、山崎育三郎/加藤和樹(Wキャスト)、未来優希/吉沢梨絵(Wキャスト)、平方元基/古川雄大(Wキャスト)、和音美桜、吉野圭吾、石川禅、涼風真世、山口祐一郎 ほか
公式ホームページ
〈加藤和樹プロフィル〉
アーティスト、俳優。2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年にMini Album『Rough DiamondでCDデビュー。俳優としては、ドラマ『仮面ライダーカブト』『ホタルノヒカリ』『インディゴの夜』などに出演するほか、アニメ『家庭教師ヒットマンREBORN』や時代劇アニメ『義風堂々』、話題のアニメ『B-Project*鼓動アンビシャス』などで声優としても活躍。近年の主な舞台出演作品は、『罠』『フランケンシュタイン』『1789 -バスティーユの恋人たち-』『№9-不滅の旋律-』『ペール・ギュント』『タイタニック』など。2018年1月から『マタ・ハリ』、4月から『1789 -バスティーユの恋人たち-』再演への出演が決まっている。
加藤和樹オフィシャルサイト

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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