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K・ギルバート「嫌中・嫌韓本」の悲劇

安倍首相と自民党こそ、儒教の具現者?

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

自分とは縁のない本と思っていたが……

 ケント・ギルバートという人について、私はほとんど知識をもたない。知っていることといったら日本で弁護士をしているアメリカ人で、モルモン教の信徒らしいこと。最近ではウヨクの論客としてその方面からもてはやされているらしいこと。

『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)拡大ケント・ギルバート著『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)=講談社のサイトより 
 そしてその風貌に関しては、(残念ながらある時期からテレビというものをほとんど見ないので)話は古くて恐縮だが、大橋巨泉氏が司会をしていた『世界まるごとHOWマッチ』という番組で、石坂浩二やビートたけしとともに準レギュラーメンバーとして活躍していたときの記憶にとどまる。

 そしてさらにこの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)という本に至っては、ちまたでよく売れているとは聞くものの、タイトルからして書店に山と積まれている嫌中・嫌韓本の類いの一冊に違いない。ならば見るのも触るのも御免被りたく、自分とはまったく縁のないものと思っていた。

 それがどうしてこんな原稿を書いているかというと、たまたま青木理さんが連載エッセイのなかでこの本を取り上げているのを読んで、わが眼を疑ったからである。それはたとえば、青木さんもそれこそ「嫌々ながら」引用している次のような箇所……。

 〈道徳心や高い倫理観を失った中国人は、自らの利益のためなら法を犯すことすら厭いません。彼らは、息をするように嘘をつきますが、そこに罪悪感は微塵もありません〉(P41)
 〈利他の精神は、自己中心主義の中国人や韓国人には、まったく存在していません。常に自分自身と身内の利益しか考えていない〉(P91)

 あるいは次のようなところ。

 〈中国人の自尊心の異常な強さは(略)コンプレックスの裏返しですが、都合が悪くなったり自分が不利になったりしたときに、何でもかんでも他人のせいにしてしまう気質がよく現れています〉(P137)

 これらの文章はどれも、その主格さえ替えれば、まるで「安倍首相」や「政権与党」のことを言っているように私には読めてしまう。特に3番目の文章は、痛いところを突かれると急にキレ出して、ポイントがずれた民進党批判に終始したり、「印象操作だ!」とヒステリックに繰り返したりした先の国会での安倍首相の態度を、まさに言い表しているかのようだ。

 最初これを読んだときは、青木さん一流の皮肉だと思った。わざわざそれと思われるところを選んで引用しているのではないか、と。しかし実際にこの本を手に取ってパラパラめくってみると、そういう記述がない頁を見つけるほうが難しいのである。それはどういう具合かといえば、 ・・・続きを読む
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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

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