メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

【公演評】宙組『神々の土地』

朝夏まなとラストステージで魅せる“男役の美学”、軍服と黒燕尾の饗宴に酔う

さかせがわ猫丸 フリーライター


拡大『クラシカル ビジュー』公演から、朝夏まなと=岸隆子撮影

 宙組公演、ミュージカル・プレイ『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』、レビューロマン『クラシカル ビジュー』が、8月18日、宝塚大劇場で初日を迎えました。確かな実力で宙組を力強く、あたたかく率いてきたトップスター朝夏まなとさんが、この公演で退団します。

 16年の宝塚人生を締めくくるのは、2014年、ドラマシティで初主演した『翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-』でも組んだ上田久美子先生のオリジナル作。宝塚では珍しい革命目前のロシアを舞台に、国を憂え、愛と葛藤に揺れながら運命を生きた帝国軍人ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフを描いています。抒情的な演出と独特の世界観で宝塚に新風をもたらせた上田先生の作品は朝夏さんと相性も良く、最高のあてがきになったと言えるでしょう。

 芝居・ショーともに、タカラジェンヌの勝負服ともいえる軍服と黒燕尾の饗宴で、集大成にふさわしい華やかさに満ちています。宝塚の伝統を継ぐ“男役の美学”を体現する朝夏まなと渾身のラストステージ、いよいよ開幕です。

軍服姿の朝夏に男役の集大成を見た

拡大『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』公演から、ドミトリー役の朝夏まなと=岸隆子撮影
 歴史に詳しくなくても、ラスプーチンという名前は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ロマノフ王朝を影で操り滅ぼしたと言われる人物で、現代でも裏で操る例えに使われることが少なくありません。そんなラスプーチンの暗殺事件をヒントに、宝塚らしい創作で彩られた今作品には、古きロシアの香りが満ちています。

 国のために生きる青年が密かに持つ、恋という名の脛の傷――。ひたすらに国を思い、感情的にふるまうことのない主人公ドミトリーは、高潔な貴公子でした。

――1915年冬、民衆の不満が高まるロシア。帝国軍人ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏)は、皇帝ニコライ二世(松風輝)を護る近衛騎兵として、帝都ペトログラードへの任務を命じられた。皇帝一家はラスプーチン(愛月ひかる)という怪僧に操られ、ロシア帝国の崩壊は時間の問題と言われている。第一次世界大戦の前線を退いて赴かねばならないことに戸惑うドミトリーに、故セルゲイ大公妃のイリナ(伶美うらら)は、皇帝一家を救ってほしいと願うのだった。

 宝塚の男役を最高にカッコよく見せる衣装ベスト3があるとしたら、間違いなく入るのが軍服でしょう。詰襟と肩章、ウエストのベルトで強調された逆三角形のスタイルに、ロングブーツの長い脚が映え、戦いに挑む男のりりしさを象徴する軍服。手足が長く、ノーブルさが持ち味の朝夏さんに最も似合う衣装です。雪原の中、深いモスグリーンのロングコートを着た朝夏さんが、銀橋でライフルを構え銃砲を響かせると、たちまち劇場は極寒の地ロシアへといざなわれました。

 朝夏さん演じるドミトリーは、ニコライ二世の従兄弟で、有能な軍人として将来を嘱望されています。両親を亡くした後、伯父のセルゲイ大公邸に身を寄せていましたが、皇帝を狙ったテロルで大公が命を落とした後も、未亡人となったイリナとともに暮らしていました。若く美しいイリナに、ドミトリーが想いを寄せているであろうことは想像に難くありませんが、彼がその想いを表すことはありません。

 舞踏会に出ず猟をするドミトリーを探しに来たイリナと、雪原の中、向かい合うシーンは、透き通った静かな時間が流れます。互いに手を取り、コートを脱ぎながら踊るタンゴの美しいこと。2人の気持ちがひそかに通じ合っていることをここで感じさせる心憎い演出でした。

 腰の据わった軍服姿の朝夏さんは、これぞトップスターとうなるオーラに満ちています。派手に動かなくても、多くを語らずとも、にじませる雰囲気だけで演じる、これぞ宝塚男役の集大成かもしれません。

◆公演情報◆
ミュージカル・プレイ『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』
レビューロマン『クラシカル ビジュー』
2017年8月18日(金)~9月25日(月) 宝塚大劇場
2017年10月13日(金)~11月19日(日) 東京宝塚劇場
[スタッフ]
『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』
作・演出:上田久美子
『クラシカル ビジュー』
作・演出:稲葉太地
公式ホームページ

・・・続きを読む
(残り:約2448文字/本文:約4170文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

さかせがわ猫丸の新着記事

もっと見る