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【公演評】こまつ座『円生と志ん生』

「名人はいかにしてつくられたか?」を通して描く、「言葉」の力に託す希望

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大『円生と志ん生』公演から、左から、大森博史とラサール石井=谷古宇正彦撮影

 9月8日に初日の幕を開けた、こまつ座『円生と志ん生』。タイトルだけ聞くと落語の話なのかなあと思う。確かに、昭和の名人とうたわれた六代目三遊亭円生と五代目古今亭志ん生の話なのだが、この作品で描かれるのは2人が真の名人として花開く以前のことである。

 実はこの2人、終戦直後の中国・大連に600日ほど滞在していたことがあった。2人が芸を開花させたといわれるのはその後のことだから、この600日が「芸の肥やし」であったことは間違いない。ところが、2人ともにこの時代のことをまったく語っていない。いったい何があったのか? ……そこに興味をそそられたのが、井上ひさし氏がこの作品の筆をとるきっかけだったという。いわばこの作品、「名人はいかにしてつくられたか」という話とも言えそうだ。

 人柄も芸風も対照的なコンビと、これまた典型的なキャラクターが揃った女性4人組が、非日常的な大混乱を乗り越えていくという構図はわかりやすく、重くなりがちなテーマにも親しみやすさを加えてくれる。スターファイルのインタビューで「今、強くて芯がある女性の役をやると面白いかもしれない」と話していた大空ゆうひも、その言葉どおり一皮むけた女優ぶりを見せてくれている。

円生と志ん生、対照的な名コンビ

拡大『円生と志ん生』公演から、左から、大森博史とラサール石井=谷古宇正彦撮影

 生真面目で万事きっちりとしていて、でも何故か女性にはモテる六代目円生、気分屋で無計画、愛嬌だけで出たとこ勝負の五代目志ん生。いってしまえば努力家タイプと天才肌という、よくあるコンビである。これを見ると最近人気の漫画『昭和元禄落語心中』の八代目八雲(菊比古)と二代目助六(初太郎)を思い出す(実際、八雲のモデルは円生、助六のモデルは志ん生ではないかと考察する向きもあるようだ)。

 稀代の名人役を演じるのは、大森博史(円生)とラサール石井(志ん生)。ラサール石井に至っては、志ん生さながらに頭も丸坊主にして挑む気合の入りぶりだ。どんな悲惨な場面でも必ず笑わせてくれる2人のコンビぶりが楽しい。

 太平洋戦争の最中、時局にふさわしくない落語は「禁演落語」として自粛することになっていく。そんな窮屈なご時世を嫌った2人は満州に渡るのだが、程なく終戦後のとんでもない混乱に巻き込まれていく。

 それにしても2人が骨の髄まで落語好きなのに恐れ入る。もはや性と言っていいのかもしれない。貧乏のどん底に突き落とされても、窮地に陥っても、常にマクラのネタにできないか、噺を練り上げる参考にできないかと考えている。先輩格の志ん生はことあるごとに円生にアドバイスし、円生はその言葉に耳を傾ける。ああ、名人というのはこうやって作り上げられていくのかと唖然とさせられる。

◆公演情報◆
こまつ座 第119回公演
『円生と志ん生』
2017年9月8日(金)〜9月24日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
2017年9月30日(日)~10月1日(日) 兵庫県立芸術文化センター
ほか、10月8日(日) 仙台公演、10月14日(土) 山形公演 予定
【スペシャルトークショー】
★9月11日(月) 1:30公演後 樋口陽一(比較憲法学者)― 井上ひさしにとっての笑い ―
★9月14日(木) 1:30公演後 大空ゆうひ・前田亜季・太田緑ロランス・池谷のぶえ
★9月17日(日) 1:30公演後 大森博史・ラサール石井
★9月21日(木) 1:30公演後 雲田はるこ(漫画家)―『昭和元禄落語心中』ができるまで ―
※アフタートークショーは、開催日以外の『円生と志ん生』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第、ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。
[スタッフ]
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
[出演]
大森博史、大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえ、ラサール石井/演奏・朴勝哲
★大空ゆうひインタビューはこちら

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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