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『父を探して』アレ・アブレウ監督インタビュー

父なき祖国ラテンアメリカをめぐる少年の旅

叶精二 映像研究家、早稲田大学・亜細亜大学・東京工学院講師

映画『父を探して』拡大映画『父を探して』 (C)Filme de Papel
 2013年にブラジルで制作されたアレ・アブレウ監督による長編アニメーション映画『父を探して(原題/O Menino e o Mundo、英題/Boy and the World 「少年と世界」)』は、世界的な高評価を得た。2014年のアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞(グランプリ)と観客賞を同時受賞、第88回米アカデミー賞長編アニメーション部門にも南米製作作品として初のノミネートという快挙を達成。2016年の時点で世界各国で44の映画賞を獲得している。日本では昨年(2016年)3月に公開された。

 この作品のヴィジュアルは実に斬新だ。主人公の少年は、髪の毛3本に真円の顔、縦棒2本の目、四角い胴体に細い黒線の手足という極端に抽象化された素朴な造形。画面設計は舞台劇のように平面的で大胆な余白もある。全編台詞らしい台詞はなく、観る者の想像力・考察力を刺激する。疑似空間を設計して小物から人物の表情まで全てを緻密に描き混む3D-CGとは正反対だ。いわば観客の主体的参加によって生まれる映像体験であり、アニメーションの広大な可能性に眼を開かされる快作だ。

 物語は、家を出た父を探して都市へ向かう少年を追いかける。少年は、行く先々でブラジルが抱える都市の諸問題(大量消費、廃棄物、軍政、情報氾濫、格差、自然破壊など)や抗議する群衆と出会う。めくるめくイメージの連鎖で時空を超えた出会いと別れが交錯する。

メディア芸術祭受賞作品展の様子 この写真のみ、撮影/土居伸彰氏拡大文化庁メディア芸術祭受賞作品展の様子=撮影・土居伸彰氏
 製作から4年、日本公開から1年を経た今年、『父を探して』は第20回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞した。

 アブレウ監督は9月15日に行われた贈呈式や受賞作品展などのため、初来日を果たした。同芸術祭関連行事のほか、6日間の凱旋上映、トークショーなどのイベントも並行して進行中だ。

 去る9月16日、多忙をきわめるアブレウ監督にインタビューを行う機会を頂いた。好機とばかりに謎多き映画『父を探して』の制作動機・テーマ・技術などを広範に伺った。決してメジャーとは言えず、資料も少ない本作について監督本人が語った貴重な記録と考える。既に作品を観賞された方々にとって、興味深い内容であると思う。また、未だ本作と出会っていない一人でも多くの方に興味を持って頂ければ幸いである。(取材・構成/叶精二)

アレ・アブレウ
1971年、サンパウロ生まれ。13歳からサンパウロの美術館でワークショップを受講したのみで、アニメーションはほぼ独学である。1991年にアニメーション制作スタジオ「Filme de Papel」を創設し、広告映像やイラストレーションなどを手がけつつ、アニメーション作品制作を行う。1993年に短編第1作『Sírius』を監督。2007年には長編第1作『Garoto Cósmico(Cosmic Boy)』を監督、同作は2009年ブラジルアカデミー賞最優秀アニメーション映画賞を受賞した。2013年に長編第2作『父を探して』を監督。
フィルモグラフィー
1993年 『Sírius』(短編)
1998年 『Espantalho』(短編)
2007年 『Passo』(短編)
2007年 『Garoto Cósmico(英題/Cosmic Boy)』
2009年 『Vivi Viravento』(短編)
2013年 『父を探して(原題/O Menino e o Mundo)』

「Filme de Papel」公式サイト
映画『父を探して』公式サイト DVD、Bru-ray好評販売・レンタル中!
『父を探して』《監督来日&凱旋上映》 期間 : 9月16日(土)~9月21日(木) 場所 : シアター・イメージフォーラム
第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展(『父を探して』の原画を含む) 会期 : 9月16日(土)~9月28日(木) 会場 :東京オペラシティ アートギャラリー

1枚の絵から枝を広げていく映画作り

アレ・アブレウ監督(撮影筆者拡大アレ・アブレウ監督=撮影・筆者
――映画『父を探して』は、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。

アブレウ 当初私は、アニメーションによるドキュメンタリー映画『カントラチーノ(仮題)』のためのキャラクター作りに取り組んでいました。ブラジルだけでなく、ラテンアメリカ全域の歴史をたどる内容で、たくさんの資料を集め、制作の準備を進めていました。

 しかし、ノートに少年のキャラクターを描いてみると、彼が「別の作品を作れ」と自分を呼んでいるような気持ちになりまして、ドキュメンタリーを離れてどんどん違った方向へと進んでいったのです。

――この作品は、明確な物語に沿って展開するというより次々と現れる豊かなイメージで進行します。とてもドキュメンタリーが起点だったとは思えません。シナリオや絵コンテを描いてから制作を開始されたのでしょうか。

アブレウ 私は広告デザインや絵本を手がけていたこともあって、全てを絵から考え出していきます。私の映画作りは、植物のように1枚の絵から枝を広げていくのです。時々、自分の絵から声が聞こえて来るのです。もちろん絵コンテは自分で描きますが、その声に突き動かされて作っているという気持ちになることもあります。この作品ではたくさんの絵コンテを捨てて描き変えましたし、結末も分からないまま制作を続けていました。

 作中には少年・青年・老人と3人の重要なキャラクターが登場します。彼らもどういう人物でどういう関係で繋がっていくのかは考えずに、まずノートにエスキース(素描)を描いていったのです。

アブレウ監督による少年のポーズ集拡大アブレウ監督による少年のポーズ集 (C)Filme de Papel
――自らが描くイメージ画から作品の起点を探り、結末を決めずに絵コンテと同時進行で制作するというスタイルは、宮崎駿監督とよく似ていますね。宮崎監督も「自分は映画に作らされている」という言い方をよくなさいます。

アブレウ 宮崎監督も同じでしたか! 私は、描いた絵がどのように作品にはまるのかをパズルのように考えながら作品を作っていくという感じですね。まるで暗闇に向かって銃撃戦をしている気分なのですが……(笑)

映画『父を探して』ポスターヴィジュアル拡大映画『父を探して』ポスターヴィジュアル (C)Filme de Papel
――絵作りについてお伺いします。セルアニメーションは塗りつぶしのキャラクターと写実的な背景という異なる質感の絵を合成して画面を作りますが、この作品は全く違います。重ねた線や水彩画のようなキャラクター、油彩のような厚塗りの空間や大胆な余白の活かされた背景と実に様々な絵が使われていますが、どのシーンにも絵としての一体感がありますね。 ・・・続きを読む
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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、早稲田大学・亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。早稲田大学・亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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