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橋本さとし『アダムス・ファミリー』で再び見せる

僕の経験や3年分の人間的な成長を役に込めたい

米満ゆうこ フリーライター


拡大橋本さとし=岸隆子撮影

 存在感たっぷりの主役も、味と渋味のある脇役も何でもこなせる橋本さとし。演技力に加え、関西出身者特有の笑いのセンスや、にじみ出る大人の男のセクシーさは彼ならではだ。その橋本が、おばけ一家の父親ゴメス役を演じ、読売演劇大賞優秀男優賞を受賞したミュージカル『アダムス・ファミリー』が戻ってくる。同作は、もともとは1990年代の映画やCMなどで世界中に親しまれ、2010年にブロードウェイでミュージカル化。日本では白井晃の演出により2014年に初演された。橋本が大阪市内で会見を開き、今作に込める熱い思いを話してくれた。

ゴメスは定番にしたい、演じ続けたい役

記者:3年ぶりに再演が決まりました。

橋本:僕ら役者は瞬間瞬間を生きる職業です。映像や歌はDVD、CDなどで残せるエンターテインメントですが、舞台はその瞬間瞬間の空気感で勝負している。初演のときに一本一本、出し切って演じていましたし、千秋楽は「もう出ないよ」というぐらいの気持ちで終えました。再演が決まって、初めは喜びよりも、これ以上、何が出せるのかなと自問自答するところがあって。ミュージカルはテンションをキープしておかないと、ちょっとでもテンションが落ちたら、お客さまにそれが伝わって寒いシーンになってしまうんです(一同笑)。毎回、毎回、フレッシュな気持ちで楽しんでもらうという心の負担は、コメディだからこそ大きくなる。

 ただ、役者という欲張りな生き物ですので、『アダムス・ファミリー』のゴメスは、僕としては持ち役の一つで、賞までいただいた。予想以上の評価をもらったキャラクターです。再演の際、ほかの役者がゴメスをやったら嫌だな、誰にも渡したくないという正直な気持ちがあります(一同笑)。ゴメスはやり続けたい、僕の中の定番にしたい役ですので、再演が決まったのは、やはりうれしいことですね。

記者:作品の魅力は何でしょうか。

橋本:『アダムス・ファミリー』はゴシック調の現実離れしたルックスのキャラクターが登場しますが、見ていくうちに、この不気味な人たちが、家族愛に包まれたハートウォーミングで人間味あふれる人たちなんだと気付く作品だと思います。作品では、このおばけ一家と対極にいる普通の人間の家族が描かれています。夫婦関係がうまくいってなかったり、父親が息子のことを理解していなかったり、冷え切った人間の家族がおばけ一家の家を訪れるんです。理想の家族の形が、実はおばけ一家だったというシニカルな部分もあり、こんな家族っていいなと思えるミュージカルです。そこを普通にやるんではなく、ファンタスティックな設定にすることで、より楽しめるのがこの作品の魅力だと思います。

 外国のミュージカルを日本人がやるのは、どこか違和感がある場合がある。そこを音楽やドラマの力で、日本人だけれどアメリカ人になり切って、演出家と一緒にカバーしていくんです。でも、『アダムス・ファミリー』はずるいですよね、国籍とかは関係なく皆、おばけですから(笑)。違和感を乗り越えて、観客が楽しめる作品だと思います。初演では、お気に入りのキャラクターのコスプレをして見ている観客もいました。ステージにも客席にもゴメスの妻のモーティシアがいる状況でしたね(笑)。今回も色々な形で楽しんでほしいですね。

拡大橋本さとし=岸隆子撮影

記者:ゴメスは橋本さんにとって理想のお父さんですか。

橋本:理想にはなりきれない、ごく普通のお父さんですね。家族を引っ張っていく強いタイプではなくて、妻のモーティシア、娘のウェンズデーを愛していてその二人の板挟みになる。そこで揺れ動く、頼りない、愛に満ちたやさしいお父さんです。「こういう人、いる」と共感できる。めちゃくちゃ優柔不断なんですが、最後には愛情でカバーする。僕もそういう父親になりたいなと思わせてくれるキャラクターですね。初演のときは3年前で、僕もまだ3歳若かった。年を重ねて僕の経験や人間的な3年分の成長をゴメスに込められたらと思います。ベースに流れるものは一緒ですが、愛情については、より人間的なおばけのお父さんにしたいですね。

記者:『アダムス・ファミリー』にはおなじみのビジュアルや動きは意識されましたか。

橋本:顔芸があるんですよ。ゴメスはいつも「八ちゃん眉毛」という、眉毛が下がった困った顔をしているんです(笑)。それを演出の白井さんが「もっと下げて、もっと八の字で」と指示されて、正直、そんな眉毛にするのは限界だったんです(一同笑)。でもその顔の表情のおかげでゴメスのキャラが出来上がりました。動きやキレも大切です。ゴメスはスペインの血が流れているので、情熱的であるように意識しましたね。どこかにアルゼンチンタンゴの動きを取り入れたり、熱い南米系のノリでいったり。人との距離感も近すぎるくらい暑苦しくしました。ダンスの振付も難しいんですよ。お客さんには分からないような微妙なカウントの取り方があって、それがこの作品の全体の空気感や動きを作っていることもありますね。今井清隆さんや僕を含めて、あまり踊れない人たちが、ブーブー文句を言いながら稽古場でダンスの練習をしていたんですが、本番に入るともう楽しくて楽しくて。

白井さんの演出の細かさは日本で3本の指に入る

拡大橋本さとし=岸隆子撮影

記者:「八ちゃん眉毛」とありましたが、白井さんの演出は細かいのですか。

橋本:細かいです(笑)。演劇人ですね、白井さんは。本当にお芝居が好きで、自分の作品への愛着が強い。愛着を越えて執着ではないかと(一同笑)。その執着は細かくてしぶとくて、妥協しない。白井さんもお忙しいので、劇場で『アダムス・ファミリー』が毎日見られないんです。でも、記録用に映像で録画したものを白井さんに送って、白井さんはほかの作品の演出をした後、家でそれを見て、ダメ出しを書いてFAXで送って、次の日に楽屋に張ってもらうんです(一同笑)。まだ、あるのかと(笑)。カンパニーを進化させて、役者に油断を与えない、かつ、ピリピリもさせない。天才的な演出家です。実はダメ出しは千秋楽の日にもあったんですよ。「明日から、僕らやらなくていいのに、このダメ出しをどこに生かせばいいの?」と疑問でした(一同笑)。それほど、演劇を愛する熱い方です。

記者:今まで色々な演出家の方とお仕事をされていますが、その中でも特に細かいと?

橋本:そうですね。鈴木裕美さんも細かくて、ダメ出しに2時間ほどかけられますが(笑)。鵜山仁さんも静かにしぶといです(笑)。色んなタイプの演出家がいらっしゃいますが、その中でも白井さんは日本で3本の指に入ると思います(笑)。でも、役者にとってはありがたいですし心強い。役者はほっといたら自分の器の中だけで演じてしまうので。それを「そうはさせない。もっと面白いものになるよ」というやり方はありがたいですね。稽古中、嫌になるときもあるんですが(笑)。白井さんは関西出身にもかかわらず、求める笑いがとても洗練されていて、大人のシニカルさなんです。僕も関西出身ですが、もっとドストレートなお客さんが笑いやすいものをついついやりがちです。白井さんは爆笑ではなく、ムフフという笑いを求められる。それぞれの笑いに対する感じ方や考え方をすり合わせるんですが、そこが稽古場で一番時間がかかったかも知れないですね。

拡大橋本さとし=岸隆子撮影
記者:白井さんは稽古場で演じられることもあるのですか。

橋本:役者もされているので、稽古場で見本を見せてくれると、めちゃくちゃ面白いんですよ(一同笑)。得した気分になりますが、それを実際やれと言われるとできない。劇団☆新感線のいのうえひでのりさんも同じタイプです。白井さんやいのうえさんがやったほうが面白いと思うからこそ、悔しい思いをして悩むわけです。そういう方が演出すると、芝居心や役者の気持ちを分かってくれる。それに、これ以上ダメ出しをすると、役者が萎縮してしまうというギリギリの線で止めてくれるんです。そのさじ加減が絶妙ですね。自由に一回演じさせてくれた上で、白井さんがアイデアを出す。役者が何を提示していくかという以上に、しぶとく、役者を追い込んでいくんです(笑)。

記者:白井さんとは再演をやるにあたって、現時点でお話はされましたか。

橋本:まだなんです。でも噂では白井さんのスイッチが入ってきたと聞いていますので、遠隔操作のように、プレッシャーを受けています(笑)。

記者:前回の千秋楽のダメ出しが再演で生きますね。

橋本:再演をやる意味がありますよね(笑)。あのとき、白井さんは千秋楽と気が付いていたのか、夢中になってわけが分からない状況だったのか、知りませんが。そんな演出家は今のところ、白井さんだけです(笑)。でも、彼が演出したからこそ、子供も大人も幅の広い年齢層に受け入れられる作品になったと思います。ブロードウェイ・ミュージカルですが、向こうとは全然違う作品になっています。舞台セットもモノトーンの絵本を開いていくような演出になっています。

歌とセリフの融合を違和感なく表現したい

拡大橋本さとし=岸隆子撮影

記者:今回モーティシア役は前回から続投の真琴つばささんに加え、壮一帆さんが新キャストに加わります。

橋本:僕としては、そこが一番楽しみなところですね。前回、真琴さんとは舞台上で噴き出しそうになるぐらい楽しんで演じました。僕たち二人が楽しむことによって、愛が見え、温かい空気が流れる。初演のときは「世界中で俺のモーティシアはこの人しかいない」というぐらい、真琴さんのはまり役だと思っていました。見かけからしてすでに、彼女はモーティシアですよね(一同笑)。そこのポジションにダブルキャストで壮さんが加わることで、どうなるのかなと思ったのですが、チラシを見たら「新しい俺のモーティシアがここにもいる!」という気持ちになりました(笑)。何の違和感もなく溶け込んでいらっしゃいますので、壮さんの新しいプランによって、僕の新しいゴメスが生まれそうです。相乗効果を期待していますね。私生活では二人の奥さんを同時に持つなんて、絶対にできないことです(笑)。役者冥利に尽きますよね。

記者:ゴメスの娘役ウェンズデーを演じる昆夏美さんに対してはいかがですか。

橋本:昆夏美ちゃんは『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などの重厚な作品から、映画『美女と野獣』の吹き替えまでされて、日本のミュージカル界になくてはならない役者の一人になったと思います。小柄で華奢なのに、大きな劇場でも一人で空間を埋めるエネルギーはすごいです。同業者としては、性別は違っても悔しいぐらい。僕の中では今、一番楽しみな女優さんで、ウェンズデーも昆さんしかできないんじゃないかと。普通の娘だったら、自分の恋を分かってほしいとお父さんを味方につけようとする。でも、ウェンズデーはお父さんに銃を突き付けて、脅迫しますから(笑)。そんなとんでもないシチュエーションなのに、かわいく見える。弟を拷問しながら楽しく歌うシーンの昆さんのソロナンバーは、悔しいけど、圧巻です。

記者:ほかに作品の魅力はありますか。

橋本:音楽の良さですね。タンゴやバラード、ミュージカルのビッグナンバーまで色んなジャンルの音楽がミックスされていて、作詞・作曲のアンドリュー・リッパさんはゴシック調のアダムス・ファミリーの世界観を音楽でみごとに作り上げている。音楽だけ聴いていても、一曲一曲が楽しめますね。

記者:橋本さんは今年、ブロードウェイの演出家マイケル・メイヤーさんが手掛けた『お気に召すまま』にも出演されるなど、『アダムス・ファミリー』をはじめ、多くのブロードウェイ作品で仕事をされています。改めてブロードウェイ作品に対して思うところはありますか。

橋本:メイヤーさん演出のシェイクスピア作品『お気に召すまま』は、そこまでやっちゃっていいの?と思うぐらいぶっ飛んでいましたね(笑)。イギリス人の演出家ジョン・ケアードとはまた全然違う。アメリカの方ですから。アメリカのブロードウェイで生まれて成長してきた作品は、日本人がやると多少違和感があり、アメリカ人がやるから格好良くてセクシーで成り立つものがたくさんあるんです。単純に歌詞一つをとっても違いがある。英語だと音符一つで語れるのに、日本語は一つで表現できる言葉はない。『You』で済むのが『あなた』になるんですから。常に僕らはそのズレと闘っています。

 僕らがやるからには、ブロードウェイのお客さんではなくて、日本で見に来るお客さんを喜ばす作品にしないといけない。そこを違和感なく、楽しめるように表現するというのは大きな課題であり、仕事でもあります。ミュージカルでいうと、タモリさんではないですが、「突然歌い出して気持ち悪い」「歌い出すと急に客席を向く」とかまだまだ偏見がありますよね。歌とセリフがどうしても別個に考えられがちです。これからの日本のミュージカルも歌とセリフがスムーズに境目なく表現できるようにしないといけないと思います。セリフをしゃべる中、感情の爆発として歌に変わっていくように、歌とセリフの融合を違和感なく表現していきたいです。

◆公演情報◆
ブロードウェイ・ミュージカル
『アダムス・ファミリー』
2017年10月28日(土)~11月12日(日) 神奈川・KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
2017年11月18日(土)~19日(日) 大阪・豊中市立文化芸術センター・大ホール
2017年11月24日(金)~25日(土) 富山・オーバード・ホール
[スタッフ]
台本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
作詞・作曲:アンドリュー・リッパ
原案:チャールズ・アダムス
翻訳:目黒条/白井晃
訳詞:森雪之丞
演出:白井晃
[出演]
橋本さとし、真琴つばさ/壮一帆(Wキャスト)、昆夏美、村井良大、樹里咲穂、戸井勝海、庄司ゆらの、梅沢昌代、今井清隆 ほか
公式ホームページ

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

「三度の飯よりアートが好き」で、国内外の舞台を中心に、アートをテーマに取材・執筆。ブロードウェイの観劇歴は20年以上にわたり、ブロードウェイの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて、現地で取材をしている。

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