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アメリカの話題作、VR…ベネチア映画祭の冒険

カンヌ一極集中に対する老舗映画祭の新しい方向

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

『シェイプ・オブ・ウォーター』拡大金獅子賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督)
 1932年に始まった世界最古の映画祭であるベネチア国際映画祭は、今年は大胆な賭けに出たように見える。再任後、今年で6年目となるディレクターのアルベルト・バルベラは今年のセレクションについて「我々が提案するのは、現在のスナップショットや現代映画のまとめのようなものでなく、未来の捉え方や未来に向かう方向を示すような映画である」と述べた。

米アカデミー賞の前哨戦

 1990年代あたりから、世界の映画祭はカンヌへの一極集中が進んだ。一番効率よく世界に売るために誰もがカンヌを目指すようになった。カンヌと共に3大映画祭として知られるベネチアやベルリンには巨匠の作品が集まりにくくなり、それぞれが明確な個性を出すよう迫られた。ベネチアは、その会期半ばに始まるトロント国際映画祭がビジネスの場として重要視され始めたこともあり、2000年頃から次第に二つの作戦を取った。

 まず第一はアメリカのアカデミー賞の前哨戦の役割を果たして話題を集めることであり、第二は社会派やアート系の突出した作品を揃えることである。

 さらに今年は新しい要素を加えた。VR(ヴァーチャル・リアリティ=仮想現実)部門を設けて、世界初のコンペを行ったことだ。これは、伝統的な「映画館ファースト」主義を掲げてネットフリックスを批判した今年のカンヌ国際映画祭に対する挑戦状と言えるかもしれない。

 数年前からベネチアは、アカデミー賞で話題になりそうなアメリカ映画の秀作をトロントに先駆けて上映することに力を入れてきた。最近だと『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)や『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)、『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)、『スポットライト 世紀のスクープ』(トム・マッカーシー監督)などが初上映されて話題を呼び、アカデミー賞につながった。

 今年の金獅子賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』や脚本賞のマーティン・マクドナー監督・脚本の『3つのビルボード』(こちらはその後トロントで観客賞も)は、間違いなくアカデミー賞の最有力候補だろう。

 そのほかジョージ・クルーニー監督の1959年を舞台にした痛快な風刺劇『サバービコン』やダーレン・アロノフスキー監督がジェニファー・ローレンスを主演に据えたホラー『マザー!』、アレクサンダー・ペイン監督の辛辣なSF『ダウンサイズ』などもアカデミー賞をにぎわしそうだ。21本のコンペのなかにここまでアカデミー賞を取りそうなアメリカ映画を入れ込んだのは今年が初めて。これまで『ゼロ・グラビティ』や『スポットライト』はベネチアではコンペ外上映だったが、今年は大胆にすべてをコンペに集めた。

 ディレクターのバルベラ自身は「我々が選んだ映画がアカデミー賞を取るようになって、アメリカのマーケットの中でのベネチア映画祭の位置が根本的に変わった」と述べて、むしろアメリカ側の希望であるとしているが、実際はベネチアがかつての栄光を取り戻すための手段として取り入れている感じが強い。

アート性や社会性の強化、強烈なドキュメンタリー ・・・続きを読む
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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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