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責任を追及されるべき麻生氏の「武装難民」発言

「軽率でばかばかしい」ではすまされない

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

拡大講演する麻生太郎副総理=9月23日、宇都宮市
 9月28日に国会が冒頭解散されて以来、報道は衆議院選挙一辺倒になっている。北朝鮮関連のニュースはあまり目立たなくなった。が、最近ソウルへ出かけた人の話を聞くと、北朝鮮の水爆実験以後は、ソウルの人々は北朝鮮の出方に強い関心と注意を向けるようになったそうだ。それまでの、北朝鮮はいつもの「脅し」を繰り返しているに過ぎないという空気がずいぶんと様変わりをしたと言う。実際、韓国の康京和外交部長も中国の王毅外交部長もそろって朝鮮半島が緊張状態にあると発言をしている。麻生太郎副総理が朝鮮半島からの難民が予想されることに触れ「武装難民」「射殺ですか」という発言が報じられたのは国会解散直前の23日のことだ。

我が目を疑った「射殺」発言

 朝日新聞は以下のような麻生太郎副総理の発言を伝えている。

 「麻生太郎副総理は23日、宇都宮市内での講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れたうえで、『武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない』と語った」

 「射殺」という刺激的な言葉に、これが副総理の言うことかとまず我が目を疑ったが、朝日新聞に続き読売新聞でもほぼ同じ内容の発言が報じられたので、発言そのものは事実であろう。SNSでは一斉に非難の言葉が並んだ。そこでは武装難民という言葉そのものが、一般的な用語ではなく麻生副総理が作った造語であることも指摘されていた。

 8月下旬の北朝鮮のミサイル発射ではJアラートを鳴らしてきた日本政府だが、ミサイル迎撃やJアラートによる避難誘導よりも、難民保護のほうが具体的な朝鮮半島の危機対応であろう。これまで難民保護対策が出てこなかったほうが不可解なことで、麻生副総理がこのタイミングで軽率極まりない発言をしたのは、実際の危機が近づきつつあることを示しているのかもしれない。日本政府もようやくリアルな対応を考え始めているとすれば、むやみに危機を煽る情報が出なくなったのは総選挙のためばかりではないのではないか。

新宿ではヘイトスピーチデモが再開

 宇都宮で麻生副総理の発言があった日、新宿ではヘイトスピーチデモが行われていた。昨年のヘイト対策法成立以来、幾分、下火になったかのようなヘイトスピーチデモだが、ここに来てまた新宿でのデモが再開されている。参加者こそ減ったが、相変わらず警官に守られる形でデモは繰り返されている。こうしたデモが新宿のような外国人居住者の多い地域で繰り返されるのは、暗黙のうちに政治家の支援があると参加者が感じ取っているからだ。もし不穏当な発言をした麻生副総理を安倍首相が即刻罷免すれば、ヘイトスピーチデモを繰り返すようなレイシストたちも少しは態度を改めるだろう。

安倍首相は麻生発言を問題にせず

 しかし、安倍首相は麻生副総理の発言を問題にもしなかった。先日の小池百合子都知事による朝鮮人虐殺被害者追悼集会への追悼文見合わせに続いた麻生副総理の発言である。これは治安維持に不安を残す。まず加害者を出さないという姿勢を明瞭にして、被害者を出さずに済む。武器を携帯した難民は当然予想される。それを武装解除させ、どう保護するのかは、 ・・・続きを読む
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筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

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