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デヴィッド・ルヴォー演出『黒蜥蜴』

中谷美紀、最後まで騙していただこうと出演を決めた

真名子陽子 ライター、エディター


拡大中谷美紀=舞山秀一撮影

 2018年1月から、デヴィッド・ルヴォーの演出で上演される舞台、『黒蜥蜴』。その黒蜥蜴を演じる中谷美紀の取材会が大阪で行われた。

 まず、梅田芸術劇場のプロデューサーから、今回の上演に至った経緯が説明された。デヴィッド・ルヴォー×梅田芸術劇場の作品は今作が3作目。出会った当初から企画があがっていたそうで、『黒蜥蜴』について、ルヴォー氏と構想を練る時間を十分に取ることができたという。その中で、最も重要である黒蜥蜴役に真っ先に名前が挙がったのが中谷だったそうだ。

 作品については、三島由紀夫をリスペクトし、三島のエッセンスを残しつつも現代に通ずるエンターテインメント作品にしたいというルヴォー氏の意図から、いろいろな要素を取り入れたムーブメントが入る予定で、音楽はタンゴを用いることが決まっており、映画のセットを模したサウンドスタジオと呼ぶセットは近未来をイメージしている。そして、制作発表会見では、他の『黒蜥蜴』作品をまったく見ていないというルヴォー氏がイメージする『黒蜥蜴』を、パフォーマンスとして表現。中谷が着ていた衣装は、ルヴォー氏自らデザイナーとミーティングをして決め、本番の舞台にも登場するそうだ。

 取材会で中谷は、三島作品の言葉について、ルヴォー氏の印象や衣装を着たときの心情の変化、3日間にわたってルヴォー氏により行われたワークショップの内容などを、素直な表現と言葉で語ってくれた。

詐欺師のように言葉巧みに魔法にかける

拡大中谷美紀=舞山秀一撮影
記者:まずはこの作品への意気込みをお願いします。

中谷:ご存じのとおり、江戸川乱歩の原作を、三島由紀夫さんが戯曲化された素晴らしい作品です。ルヴォーさんの演出と相まって目くるめく世界をお届けさせていただきますが、如何せん私の舞台経験が浅く、とても緊張しています。少々、荷が重すぎたかなと思いながらも、ルヴォーさんがとても大きな懐で導いてくださっていますので、本番までに黒蜥蜴を見いだせるように励みたいと思います。ぜひご支援ください。よろしくお願いいたします。

記者:作品としての『黒蜥蜴』の印象は?

中谷:読み物として読みごたえがあり、三島作品の中ではわかりやすい、エンターテインメント性がある作品だと思います。一方で、いざ演じるとなると、「新聞記者たちの万年筆は自分から叫び出し…」といったような詞的で文学的な文章ですので、記憶するのが大変なんですね。万年筆が叫んでいる様子をイメージしながら覚えていくのですが、そのようにすべてイメージしていきますので、覚えるのにとても時間がかかっています(笑)。

記者:出演のオファーがあったときのお気持ちは?

中谷:喜ぶというより恐れのほうが勝っていました。ところがルヴォーさんにお目にかかって、人の心をあやつる天才ですので、そんな私の思いは重々わかっていらっしゃって、不安な気持ちもすべて受けとめてくださいました。

記者:ルヴォーさんと初めて会ったのはニューヨークだったそうですね。

中谷:お話を頂いて決めかねていたときに、実際に会ってお話をしてみたらどうかと言っていただきまして、せっかくなので、単純にお目にかかってみたいという思いもあってニューヨークへ飛びました。ルヴォーさんがニューヨークで他の作品を上演されていましたので、朝食をいただきながらミーティングをいたしました。

記者:ルヴォーさんとお話をされて出演を決められたんですね。

中谷:はい。大概、優れた演出家の方々は、詐欺師のように言葉巧みに私たちを魔法にかけてしまわれるので、その魔法にかかりまして。どうせなら最後まで騙していただこうと思いました(笑)。先日、ワークショップが開催されたのですが、ルヴォーさんは事あるごとに役者の近くに言って囁かれるんですね。私には、「きみはクリエイティブだね」と囁かれたんです。ルヴォーさんが思い描くクリエイティブはもっと高いところにあって、私がそこに達していないのはわかっているのですが、でもそう言ってくださったことがとてもうれしかったんです。一応、クリエイティブになろうと努力しておりますが…とお返しして。騙し、騙され、騙されたふりをし、と言う感じでしょうか。お互いに騙しあいなんでしょうね。明智と黒蜥蜴の関係ではないですが、役者と演出家の関係もきっと騙しあいなのではないかなと感じました。

記者:そう思われた演出家はルヴォーさんが初めてですか?

中谷:今まで出会った演出家の皆さまも、やはり言葉が巧みでいらっしゃいました。言葉とともに生きてこられた方々ですので、それぞれの形で騙していただいたように思います。

人前で表現するのに取り払うものは自我

拡大『黒蜥蜴』制作発表会見から=舞山秀一撮影
記者:ワークショップに参加されて、その内容で興味深かったことは?

中谷:25人ほどの役者が一堂に会したお稽古場で、両手を広げてもぶつからない間隔で円陣を組むんですね。パンっと手を打ちまして、そのエネルギーとリズムを次の方へリレーしていくんです。その際に、声も出していくのですが、同じエネルギー、同じリズムで渡してくださいというエクササイズでした。役者の皆さまはバックグラウンドが各々あります。私は映像で育てていただいた人間ですし、井上芳雄さんはミュージカル界のプリンスと呼ばれている方で舞台の上で育って来られた方ですし、元宝塚歌劇団の朝海ひかるさんもいらっしゃいます。さまざまなバックグラウンドの人間が一堂に会した時に、たったそれだけのエクササイズで空気がひとつにまとまるんです。それは演じる人間だけでなく、企業研修などにも役立つのではないかなと思ったほど、チーム形成をするうえでものすごく助けられました。

 ほかに、ペアになって、ひとりがこの世に存在しない言語を用いてスピーチをして、もうひとりが通訳をするんです。通訳の方は相手の方が何を言っているのか、もちろんわからないのだけども、相手が言ったことを想像して通訳をするんです。そのようなエクササイズも行いました。

記者:ワークショップで得たものは大きかったですか?

中谷:人前で表現するのにもっとも取り払わなければいけないのは自我であり、虚栄心や恥ずかしさだと思うのですが、恥を忍ばず、少々みっともないことを堂々と、いい歳をした人間たちがするというのは、心の良いエクササイズになりました(笑)。

黒蜥蜴の愛し方に共感する

記者:共演者の相楽樹さんは黒蜥蜴のことを悲しい女性と言っていました。中谷さんはどういう女性だと思いますか?

中谷:悲しくもあり、幸せな人でもあるなと思います。というのは、黒蜥蜴は自分に心がないと思っています。しかし、血も涙もない人間だったはずの黒蜥蜴が、唯一のライバルである明智小五郎に出会うことで、人間らしい恋心、愛と言うものを知る――そういう意味ではそのような相手に出会えた事は幸せだと思います。その一方で、美に執着するあまり、美以外に関心がなく、人間らしい血の通った生活をしてこなかったという意味では、とても悲しい人間だとも思います。

記者:黒蜥蜴の愛し方は独特だなと思います。

中谷:でも、どこか共感してしまうんです。私も美しいものが大好きなので、美しいものに触れるために生きているようなところは、少々共感してしまいます。

記者:制作発表では衣装を着て登場されましたが、いかがでしたか?

中谷:不思議なもので、人は仮面をつけるとなんでもできるような気持ちになったりしますよね。私だけかもしれませんが、衣装を着ける前はやはり自分なんです。お稽古場で、私服でお稽古するのが苦手。苦手と言うか、自分の洋服を着たまま表現すると、どこかで自我が働いてしまって心のブロックが外れないのですが、衣装を着るとその気になるもので、衣装がもの言わずして多くを語ってくれるような気がします。やはり衣装を着けると衣装がお芝居をしてくれますね。

記者:これまで黒蜥蜴というと美輪さんだったり麻実さんだったり…。

中谷:あっ、それは言わないでください…プレッシャーが…。

記者:いろんな方が演じてこられましたが、中谷さん自身はどんな黒蜥蜴を演じたいと思っていますか?

中谷:お二人のお名前が私の心に突き刺さるのですが…“私の黒蜥蜴は”なんておこがましくて言えず、「デヴィッド・ルヴォー版・黒蜥蜴」を、探りながら作っていきたいと思っています。具象で作っていくこともできるのですが、おそらくルヴォーさんはト書きを無視して、ルヴォーさんの新しい世界観でお見せすることになると思います。映画の手法も用いたいともおっしゃっていましたので、身体表現なども含めた新たな『黒蜥蜴』になると思います。

早く三島の言葉から自由になりたい

拡大『黒蜥蜴』制作発表会見から=舞山秀一撮影
記者:作品の魅力を中谷さんはどのように捉えていますか?

中谷:この耽美な世界で行われる残酷かつ官能的な愛の物語。残酷なのですが、でも美しい。なんとも言えない胸がひりひりするような愛の物語が魅力ではないでしょうか。おそらく原作より三島がこだわったのは二人のラブストーリーで、かなり特化して描いていらっしゃいます。ルヴォーさんはそこをフィーチャーされていて、「これはラブストーリーだね。ロマンティックだね」と何度もおっしゃって、そこを突き詰めていらっしゃるのではないかなと思います。

記者:ルヴォーさんの演出がどのようになるのか楽しみですが、中谷さんがルヴォーさんへ期待することは?

中谷:ワークショップなどでご一緒して感じたのは、私自身もいつもそれを望んでいるのですが、ただ主役だけが引き立つ作品ではなくて、全体のバランスをとても大切にしてくださる演出家という印象があります。アンサンブルの皆さまの身体的な動きや、心の解放にもとても時間をかけて丁寧に向き合っていらっしゃいますので、そういったお姿からも学ぶことが多くあります。自分自身もアンサンブルの方々の動きから、自分のキャラクターを鏡のように見せていただくことができるのではないかと期待しています。

記者:新しい中谷美紀さんが生まれるかもしれませんね。

中谷:そうなるといいですね。それにはきっと心を解放して、鎧をすべて取り払わないといけないので、そこまでたどり着くには言葉をすべて覚えないといけないのですが…(笑)。早く三島の言葉から自由になりたいなと思います。

記者:「クリエイティブだね」という言葉以外に、印象に残ったルヴォーさんの言葉は?

中谷:「人生は短い」。これを日本語でおっしゃったんです。ちょっとずるいんです(笑)。ところどころキーポイントになる言葉を日本語でおっしゃるんです。それがとてもチャーミングで、こうやって人を騙してこられたんだなと、その片鱗が見えました(笑)。「人生は短い」、10秒くらいして「でも深い」、「だから、長い」とおっしゃるんです。それが時折でてくるんです。ワークショップ中だったり休憩時間だったり。(井上)芳雄さんと歓談していると、急にポツリとおっしゃったり、会見の合間にもおっしゃっていました。あと、「それも、人生」。私たちはどちらかというとネガティブな、仕方がないよと言う意味で使うことが多いと思うのですが、とてもポジティブな意味でお使いになられていて、とてもおもしろいです。

記者:その言葉に、返事はされるんですか?

中谷:「よっぽど大変なことがあったんですね。何があったんですか、ルヴォーさんの人生に」とお聞きしました(笑)。そうしたら「まあね」って誤魔化されるんですけど。「ひとつの悲劇が終わったと思ったら、またひとつの新たな悲劇がおこり…」というようなこともおっしゃって。どこまで本当かわからないですよ。如何せん言葉の魔術師でペテン師ですから(笑)

“言葉から自由に”を目標にしています

拡大『黒蜥蜴』制作発表会見から=舞山秀一撮影

記者:舞台は4回目の出演ですが、舞台に対する思いは?

中谷:恐ろしいところだなと思います。『猟銃』という作品で、セリフはなく身体だけで表現をしてくださるフィジカルアクターの方がいてくださったんです。その方がおっしゃったのは、「僕たちはゴールデンジェイルにつながれているんだ」と。演劇の世界は“黄金の牢獄”だとおっしゃっていました。まさに、この世界を表現しているのではないかなと思います。

記者:やり終えた達成感などはいかがでしたか?

中谷:達成感と言いますか、ようやく終わったという感じです。毎公演、指折り数えて千秋楽を待っています。というのも、毎度、身体を自らナイフで削っているような感覚に陥りまして、早く終わらないかなといつも思ってしまいます。これまで、死んでしまう役が多く、エネルギーをかなり消耗してしまうんですね。

記者:『猟銃』はセリフがとても美しく響いて感動しました。舞台に立つうえでのスタンスや心がけはありますか?

中谷:言葉が借り物にならないように、“言葉から自由に”を目標にしています。優れたパフォーマーを見ると、楽器にしても、声にしても、踊りにしても、とらわれていなくて自由だなと感じます。20年ほど前に初めてヨーヨー・マの演奏を聞いたときに、楽器がそこにあるのを忘れてしまうくらい、楽器から自由になっているように見えました。シルヴィ・ギエムの踊りを見てもそうですが、そういった姿をみると、私はまだまだ自由になれていないなと、まだまだとらわれているなと思います。

記者:そこへ到達するまでは舞台に立ち続けますか?

中谷:……毎回、これが最後と思いながら演じています。ですから、今回もこれが最後と思って挑みたいと思っています。

◆公演情報◆
『黒蜥蜴』
2018年1月9日(火)~28日(日) 東京・日生劇場
2018年2月1日(木)~5日(月) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
[スタッフ]
原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィッド・ルヴォー
[出演]
中谷美紀、井上芳雄/相楽樹、朝海ひかる、たかお鷹/成河 ほか
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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