メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

麻実れいが「普通の母親」を演じる(上)

第二次世界大戦下の朝鮮半島近くの離れ小島に住む家族を描く『すべての四月のために』

大原薫 演劇ライター


拡大麻実れい=宮川舞子撮影

 11月11日より初日を迎える『すべての四月のために』に麻実れいが出演する。作・演出は鄭義信。『たとえば野に咲く花のように』『焼肉ドラゴン』『パーマ屋スミレ』で1950年代から1970年前後までの在日コリアンの家族を描いてきた鄭が、今回初めて第二次世界大戦下の朝鮮半島を舞台とした作品を紡ぎ出す。

 1944年春、日本植民地下の朝鮮半島の離れ小島。海のそばにある小さな理髪店を営む朝鮮人夫婦の英順(麻実れい)と洪吉(山本亨)。一家の次女・秋子(臼田あさ美)と萬石(森田剛)の結婚が決まったが、実は萬石は長女・冬子(西田尚美)への思いを捨てきれずにいた。二人の結婚式の最中、日本軍人の篠田(近藤公園)が「理髪店を日本人専用にする」という辞令を持ってくる。

 苛烈な状況の中でも、未来への道筋を何とか手繰り寄せようとするひたむきな人々を描く新作で、麻実は理髪店店主の英順を演じる。際立つオーラで演劇界で独自の存在感を放つ麻実が演じる「普通の母親」とはどのようなものか、話を聞いた。

暑い夏も寒い冬も、きっと春の日のためにある

拡大麻実れい=宮川舞子撮影
――台本を読みましたが第二次世界大戦の最中、日本植民地下にある朝鮮で、理髪店を営む一家に起こる様々な出来事が描かれています。

 この作品にあるメッセージをきちんと台詞としてお届けできるのではないかと思いますね。(森田)剛君が演じる萬石は日記をつけるのが好きな青年という設定なんです。なんで彼が日記を書いているかというと、「たとえ今が大変であっても、自分の子供や孫の時代にはとても幸せなものになっているはずだ」というメッセージなんですね。英順も「いろいろなことがあるけれど、最後には素晴らしい春が訪れる。暑い夏も寒い冬も、きっと春の日のためにあるんだ」と信じているところがあります。鄭さんが描く世界はとてもあたたかいんです。もちろん厳しさや暗さ、辛さは描かれていますが、それをギリギリのところですくい上げているところがあると思いますね。

 たとえば、萬石が結構厳しい台詞を言って行動に出るシーンがありますが、そこでは鄭さんは剛君にちょっとおかしい動きをつけている。きっとお客様に笑いを起こさせようとしているんだと思います。辛い話の場面でも、お客様に「きついな」と感じさせないようにするのが、鄭さんのあたたかさであり優しさであり、愛だと思いますね。

――麻実さんが英順を演じる上でポイントとしているところは?

 普通の母であることがまず、一番ですね。夫がいて娘四人がいて、その後から家族が増えていくわけです。英順が営んでいるのは、島の中で唯一の理髪店で、皆が集うところでもある。そして、散髪した若い兵士たちを戦争に送り出さないといけない。あたたかいおばちゃんですが、怒るときは怒る。そんな普通の母親像が演じられたらと思います。

――初登場シーンは、英順が夫の洪吉をスリッパで殴るところから始まります。

 そう、ポカポカとね(笑)。鄭さんが「ターコさん(麻実)だったらスリッパで殴っても、お客様は大丈夫ですから」とおっしゃるの(笑)。「この女、狂暴につき」みたいな感じでね(笑)。

◆公演情報◆
PARCO PRODUCE
『すべての四月のために』
2017年11月11日(土)~11月29日(水) 東京・東京芸術劇場プレイハウス
2017年12月8日(金)~12月13日(水) 京都・ロームシアター京都 サウスホール
2017年12月22日(金)~12月24日(日) 福岡・北九州芸術劇場 大ホール
[スタッフ]
作・演出:鄭義信
[出演]
森田剛/臼田あさ美、西田尚美、村川絵梨、伊藤沙莉、小柳友、稲葉友、津村知与支、牧野莉佳、斉藤マッチュ、浦川祥哉、近藤公園、中村靖日、山本亨/麻実れい
公式ホームページ
〈麻実れいプロフィル〉
宝塚歌劇団雪組男役トップスターとして活躍し、1985年退団。以降、多くの話題作に出演。リサイタルなどでも活躍。おもな出演作は、『炎 アンサンディ』『8月の家族たち』など。芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、読売演劇大賞最優秀女優賞、毎日演劇賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋舞台演劇賞個人賞など受賞多数。

・・・続きを読む
(残り:約2074文字/本文:約3791文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

大原薫の新着記事

もっと見る