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吉田鋼太郎、蜷川幸雄の遺志を継ぎ始動

シェイクスピア・シリーズ『アテネのタイモン』の演出と主演を担う

真名子陽子 ライター、エディター


拡大吉田鋼太郎=安田新之助撮影

 蜷川幸雄の遺志を継ぎ、彩の国シェイクスピア・シリーズの2代目芸術監督に就任した吉田鋼太郎がいよいよ始動する。上演する演目は、シェイクスピア作品でも上演機会が少ない『アテネのタイモン』。財産を失い破滅していく主人公のタイモン役を吉田が演じ、且つ、自身が演出をすることでも注目の作品だ。

 「蜷川さんから受け継いだ“血”と、僕に流れている“血”の両方を融合させて演出していきたい」と芸術監督の就任会見で述べた吉田。大阪で開かれた取材会で、蜷川さんとの思い出や共演者について、今作品にかける思いを大いに語った。

藤原竜也は一緒に蜷川作品をやってきた仲間

吉田:蜷川幸雄さんの後を継ぐというのは重責です。蜷川さんの作品を楽しみにしていたお客様、蜷川さんの魂を受け継いだ作品を見られないだろうかと思ってくださっているお客様はたくさんいらっしゃるだろうと思います。蜷川さんとお芝居をさせてもらっていた僕が、非力ではございますが蜷川さんの魂を受け継ぎ、お見せしたいと思っています。蜷川さんがシェイクスピアの37作品すべてを上演しようと言う目標を掲げて始まったシェイクスピア・シリーズ。結局32本までやって5本残されて逝かれました。しかもその5本が難物で、ほとんど日本で上演したことがない作品ばかりです。

 今回の『アテネのタイモン』もほぼ日本で上演されたことがない作品ですが、これが面白いんです。シェイクスピア作品はそれぞれ、喜劇、悲劇、歴史劇などと分類されますが、これは問題劇と言われています。『尺には尺を』や『終わりよければすべてよし』と一緒に分類される作品です。やりたい放題、書きたい放題、筆の赴くままに書きなぐったような非常にダイナミックな作品です。物語の構造上の矛盾や、なぜこのシーンが?という疑問点もあるのですが、それはシェイクスピア作品にはよくあることで、それらを補うおもしろさがあります。今後、いつやるかわからない作品ですので、この機会にぜひ見ていただきたいなと思います。

記者:共演者の藤原竜也さんに自ら声を掛けたということですが、その理由は?

吉田:彼は蜷川作品を一緒にやってきた仲間です。シェイクスピア作品、古典作品をやる俳優として彼を信頼し、尊敬しています。今作品の彼の役はアペマンタスという哲学者なんですが、毒を吐き散らす役で彼にピッタリなんです(笑)。戯曲に年齢設定は書いていないんですね。哲学者と言うと、ある程度年を重ねた聡明で冷静な人、でも言うことは辛辣というイメージを持ちがちですが、そのままだとおもしろくないなと。世の中や生き方、人に対して一家言をもっていて、それをすごい勢いでしゃべり散らす――それを若い人がやった方が、リアリティがあるんじゃないだろうか、迫力が出るんじゃないか。藤原くんはまだ30代半ばなので、ピッタリだと思いました。彼はお酒飲んで調子よくなると、毒を吐くんですよね。そのイメージがあるんです(笑)。やはり、蜷川さんの元で一緒にやってきたという心強さもありますし、それは横田(栄司)くんにも言えます。

記者:柿澤勇人さんについてはいかがでしょうか?

吉田:彼は以前から蜷川さんのシェイクスピア・シリーズをやりたがっていたのですが実現せず、すごく残念がっていました。『デスノート THE MUSICAL』で共演した時に、すごくストレートでエネルギーのある俳優だなと感じたんですね。少し怖いくらいのパワーを持っています。それってシェイクスピア作品にピッタリなんですよ。今作も猪突傾向型の軍人の役なんですけど、彼にピッタリの役だと思っています。

お前たちの言葉でしゃべってくれ

拡大吉田鋼太郎=安田新之助撮影

記者:これまでの蜷川さんの演出によって気づかされたことや感じたことはありますか?

吉田:『NINAGAWA マクベス』に代表されるような、あっと驚くような構想、着想。例えば、仏壇のセットや桜の花吹雪などのビジュアル、音楽を含めた美しくてダイナミックな世界。そこに共感しますし、観客として見させていただいても素晴らしいと思います。でも晩年の蜷川さんが大事になさっていたことは、言葉=セリフなんです。シェイクスピア作品に関しては、セリフ術があればある程度、お客様に伝えることはできるんですが、そうではないと。芝居はセリフがお客様に伝わらなければ意味のないもの、わからないものになってしまう。どんなに美しいビジュアルを持ってきてもセリフがわからなければ、何も通じないとおっしゃっていました。シェイクスピア作品をやる俳優の個の肉体、個の人生を通過したセリフでないとお客様に届けることはできない、それができて初めてお客様に届けることができるんだと、非常にこだわっていました。

 最後に『NINAGAWA マクベス』(再演を重ねている作品)に出演させてもらったときも、ご自身がお作りになった美しい世界には一切触れないんですよね。むしろちょっと恥ずかしそうなんです。なんでこんなもん作ったんだろうって感じで(笑)。とにかくしゃべってくれ、お前たちの言葉でしゃべってくれと言われました。ただ、シェイクスピアの言葉を自分たちの言葉でしゃべるのは非常に難しいんです。言葉自体が難解だし日常会話ではないので、言葉そのものに頼ってしまうんです。セリフに俳優が感じていること、俳優の人生を付け加えてしゃべらないと、この時代にやる意味がない…そこが一番共感するところであり、一番難しいところでした。避けて通りがちなんですよね。シェイクスピアの言葉をいかに個の俳優の言葉でしゃべるか、ということをおっしゃっていました。

記者:今作の演出で、ここは外せないというところは?

吉田:論争劇的様相を示している作品です。特に後半、世の中を恨んだタイモンがお金は二度と見たくないと、憎悪と恨みを持って森へ逃げるのですが、皮肉なことにそこで大金を拾うんです。そこへ、その金を目当てにいろんな奴らが集まってきて、論争が始まります。絶対に生(なま)の論争、人と人が目の前できっちりと自分の意見をぶつけあっているという風にしないとつまらない芝居になるので、そこはきっちりとお見せしたいと思います。

最後は投げっぱなし。お客様が何を感じるか楽しみ

拡大吉田鋼太郎=安田新之助撮影

記者:演出家の立場を超えて芸術監督として就任されました。

吉田:僕は蜷川さんがやり残したシェイクスピア作品を演出する、ということだけの芸術監督なので、まずは、シェイクスピア作品の演出と芝居をちゃんとやっていくことが、一番にやることだと思っています。

 でも、蜷川さんがさいたま芸術劇場でシェイクスピアをやることによって、あの街(劇場がある与野本町駅付近)がすごい活性化したんです。だから今、街の人がすごく寂しがっているんですよね。いかに蜷川さんが芝居によってあの街を活気づけていたかがわかります。良い芝居をして、あの街にまたお客様に来てもらうようにしなければいけないなと思います。

記者:今回、演出をしつつ主役でもあります。それについてはいかがでしょうか?

吉田:自分の劇団を持っていまして、主演・演出を20年ほどやっていますので、戸惑いはないです。自分の役に代役を立てて稽古を始めるのですが、自分でやる役を代役の方で見るので、すごく客観的に見られるんです。代役の方がやった後に自分が入るので、時間はかかりますが理想的な稽古のやり方なんですよね。周りの方には負担をかけてしまいますが、僕としては楽なんです。

記者:この作品は恨みや憎悪で終わるとのことですが、お客さんはその思いを引きずって帰ることになるんですか?

吉田:そうですね~それは嫌ですよね(笑)。後半は憎悪のシーンが続きますが、お客様がご覧になってどう思われるかはまだわからないですよね。演出家としては、裏切られた人間と言うのは最終的に絶望と恨みだけを抱えて死んでいくんだぜ、ということを提示する芝居ではないと思っています。シェイクスピアが書いた通りに演出をしなければいけないですし、蜷川さんは新しいシーンを付け加えたり、演出家の思いを表すためだけの演出はされなかったんですね、戯曲のままの演出でした。

 そういう意味でもこの作品は実験的な作品ですし、あまり見られない作品です。『リア王』や『ハムレット』のように、最後に救われるシーンはないんです。投げっぱなしです。なので、お客様が投げっぱなしをされて何を感じるか、楽しみでもあります。

記者:シェイクスピア作品の魅力は?

吉田:不変ですよね。400年ほど前の芝居なのに今やっても古くない。当時の人たちの気持ち、登場人物の気持ち、今の人たちの気持ちは同じで、何も変わらない。しかもダイナミックに感情の柱を描いているのでわかりやすいです。例えば『ハムレット』を見て、自分はこんなこと絶対しないだろうと思ったとしても、どこかでちょっと似ているかもしれない、この言葉は言うかもしれない、と思うところが必ずシェイクスピア作品にはあるんですよね。『ロミオとジュリエット』も、今はあんな純愛はないんじゃないかと思うかもしれないけれど、でも、スマホばかり見ている女子高生も、ああいう気持ちになるかもしれないと思うんです。

 ただ、役者にとってはとてもハードルの高い作品です。セリフ量は多いし、難しいし、大きな声を出さないと成立しないシーンもあるから体力も使う。なるべくなら避けて通りたい作家だけど、いざやってみると、大変な分、やり終えた後の達成感がありますし、シェイクスピア作品をやることによって成長したと必ず思えるんです。俳優にとっても、ご覧になるお客様にとっても、優れた作品だと思います。

「何やってんだ、鋼太郎!」と言われるような…

拡大吉田鋼太郎=安田新之助撮影

記者:蜷川さんの遺志を引き継がれましたが、それについて、蜷川さんはどんな言葉を吉田さんにかけると思いますか?

吉田:こわいな~(笑)。「何やってんだ、鋼太郎!」と言われるような気がして。とにかく怖いんです、あの人は(笑)。褒めてもくれるんですが、良い気になってると怒られるんですよね。油断できないんです。だから、いつもそばで『何やってんだよ」と言われているつもりでやっていこうと思います。調子に乗ったらダメだと思っています。

 『オイディプス王』の再演のときに、初演でOKだったシーンをそのままやったんですね。OKだったから良いと思うじゃないですか。そうしたら「鋼太郎、なんだそれ!」って言われたんです。初演では良いと言ったけど、そこから変わってるんですよね、蜷川さんは。次へ次へと、新しいものへと。その時感じたもの、その時に生まれてくるものを大事にされる方でしたので、油断せずにいきたいと思います。

記者:夢に出てくることはあるんですか?

吉田:よくありますね。亡くなってから5~6回あります。

記者:それは良い夢ですか?

吉田:いや、たいてい悪い夢ですね(笑)。準備不足の状態で稽古に行って、ごまかそうとしたけれどバレる。そういう内容ばかりですね。とてもリアルです。

記者:蜷川さんの遺志を受け継ぐことについてのお気持ちは?

吉田:蜷川さんの稽古では、びっくりすることが多々あったんです。その経験が今後、活かされると思っています。蜷川さんと直接、演出のやり方やお芝居に対する考え方、吉田鋼太郎はどういう役者とか、蜷川幸雄がどういう演出家とか、そういったよもやま話のようなことはしたことがないんです。そんなことが出来る雰囲気でもないですし。あくまで稽古の中で、コミュニケーションを取っていたんですね。厳しいダメ出しに応える自分、応えられない自分、そのやり取りがコミュニケーションでした。蜷川さんと一緒にするようになって15年ほどですが、最後の2~3年は蜷川さんからダメ出しをもらわないようになったんです。蜷川さんの稽古には、ちゃんとした演技プランを持っていかなければならないのですが、そのプランにOKを出してくれた。それがコミュニケーションでしたし、作品のワンシーンの演出を任せてくれたこともコミュニケーションだったと思っています。

 稽古場で酸素ボンベを付けて呼吸を整え、小さい声でしか指示を出せなかったのに、激すると「違う!」と出ないはずの大きな声を出されて命がけで演出をされていました。小さい声で「違うんだよな、これ違うんだよな…俺がやりたいことはこれじゃないんだよな」とおっしゃっていたこと。その時に僕もそのシーンを見て、「違うだろうな、これは蜷川さんがしたいことと違うだろうな」と思っていたこと。蜷川さんの横にいて感じたこと、そのコミュニケーションが蜷川さんの“何か”を受け継ぐ糧になっていくのではないかと思っています。

蜷川さんが嫌で逃げ出した自分が跡を継ぐ……運命って不思議

拡大吉田鋼太郎=安田新之助撮影

記者:十代のときにシェイクスピア作品に出会ったとのことですが、蜷川さんとのご縁について改めて思うことは?

吉田:シェイクスピア作品ではないのですが、21~22歳の時に唐十郎さんの『下谷万年町物語』のオーディションを受けて、その他大勢の100人くらいのおかまの役で出させて頂くことになったんです。稽古の初日におかまの群舞の稽古がありまして、蜷川さんがアドリブで踊れと。化粧をしてピンクの長襦袢を着て踊るんですが、何せ初めてでしたので、何もわからずにウロウロしていたら、蜷川さんに「お前! ちゃんと踊れ!!」「バカヤロー、おかまで踊れーー」と言われて。これは無理だと(笑)。若かったので長襦袢を着て化粧をしている時点で恥ずかしかったんですね。今なら喜んでやるんですけど(笑)。そして次の日から稽古に行かなかったんです。こんな怖い人の元でやりたくないし、おかまの役も嫌だと。それから40歳までお会いしなかったんです。蜷川さんの演出が嫌で逃げ出した自分が、蜷川さんの跡を継ぐという……運命って不思議だなと思いますね。

記者:役者として今作品でやりたいことはありますか?

吉田:前半は福の神みたいな人物で、笑顔を絶やさず人が心底好きで、優しくて温かくて思いやりがあって。でも後半には全く逆になるんです。悪魔のように人を呪い、憎み、コミュニケーションを取らずひとりになる。その両方を演じられるんですよね。俳優としてやりがいはあるのですが、呪ったり、憎んだり、罵倒するのは得意なんですが、思いやったり優しくしたりするのが、どうしても嘘くさくなるんですよね。できなくはないんですが、嘘くさいと言われるとひと言も返せない…(笑)。年を重ねていく中で、心のきれいな思いやりのある人になっていきたいなと思いますし、演技でも出せたらいいなと思います。目標です。

記者:最後にメッセージをお願いします。

吉田:蜷川さんのお芝居が好きだった方にも、まだ見たことがない方にも、ぜひ見ていただきたいと思います。シェイクスピアは難しいイメージがありますが、決してそんなことはないんです。蜷川さんも難しくないんだよと伝えたくて、若い俳優を起用していました。その俳優を見るという目的で良いから見て来て欲しい、見ればシェイクスピアのおもしろさをわかってもらえるだろうと努力をしていらっしゃいました。ワクワク、ドキドキしますし、見終わったあとは、これからも見たいと思っていただける作品になると思います。良い芝居になるように努力しますし、良い芝居は一生の宝物になります。エンターテインメント性のあるおもしろい芝居ですので、ぜひこの機会に確かめていただきたいと思います。

◆公演情報◆
彩の国さいたまシェイクスピア・シリーズ第33弾
『アテネのタイモン』
2017年12月15日(金)~29日(金) 埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2018年1月5日(金)~8日(月) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
[スタッフ]
作:W.シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
[出演]
吉田鋼太郎、藤原竜也、柿澤勇人、横田栄司 ほか
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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