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[6]コピーライターが考える失言のメカニズム

「注目を集めたい」。その思いが劇薬となる強い言葉を引き寄せる

梅田悟司 電通コピーライター・コンセプター

連載「『と思います』禁止令」と著者の梅田悟司さん連載「『と思います』禁止令」と著者の梅田悟司さん

なぜ失言は起きるのか?

誰もが失言をする可能性がある誰もが失言をする可能性がある

 失言に関する報道が絶えない。

 よく見聞きするのは政治家の発言だが、政治家生命に打撃を与えるだけでなく、政党の命運も揺るがしかねないほどの影響力がある。たった一言の失言が、一国の行く末さえを変えてしまう危険性をはらんでいることを感じるほどに、言葉の重要性を再認識する。

 もちろん、失言が生まれるのは、政治の世界だけではない。私たちが暮らしている日常社会においても、失言は繰り返されている。その結果、人間関係がギクシャクしてしまったり、会社と会社とのつながりにひびが入ってしまったりすることもあるだろう。

 失言とは、「言うべきではないことを、うっかり言ってしまったこと」を指し、語源から考えると、失敗した言葉である。しかし、周囲からの信頼を「失」ってしまう「言」葉と解釈した方が、現代には合っているかもしれない。

 「失言はなぜ起きるのか」をテーマに、多くの議論が繰り広げられている。そこで今回のコラムでは、私の本業であるコピーライターの立場から、失言が起きるメカニズムについて考えていきたい。他の論説と併せてお読みいただくことで、ご自身が失言を発するリスクを格段に減らすことができるだろう。

 失言が起きる理由としてよく出てくるのが「深層心理の顕在化」と「悪意ある発言の切り取り」である。

 前者は、ぽろりと口をついて出てしまう失言である。周囲が思わず「なぜその言葉を、このタイミングで言うのか……」と唖然(あぜん)とするだけでなく、言った本人も、発言直後に「あ、まずいことを言っちゃったな」とバツの悪い思いをする。その結果、「思わず本音が出たな」と弾圧されることになる。この世界に完全な善人はいないという前提に立てば、こうした類の失言は、必ず起きると考えた方がよさそうだ。

 通常の会話や質疑応答など、臨機応変な発言を求められる際に、失言が生まれる確率が高いのは間違いない。しかしながら、練りに練った原稿に書いた言葉が火種となることもある。人前で発言するという局面は、誰にとっても一大事である。その原稿を作成する時には、様々な人の目を入れながら、準備を重ねていくことが多い。それにもかかわらず、失言は起きる。本コラムでは、この点について、より深く言及していくことにしたい。

 また、後者の悪意のある切り取りは、「問題ではないことを、問題視する人によって失言が生まれる」パターンとして認識すると分かりやすい。当然のことながら、「問題」と「問題視」は全くの別物である。

 また、発言を切り取ることで、前後の文脈を分断して、特定の発言を問題視される。そのため、一連の発言を聞くと、全く問題ではないことが分かることもある。問題視された発言が本当に問題を孕(はら)んでいるかどうかは、一次情報をたどりながら、自分で確かめるしかない。

強い言葉は失言になり得る

強い言葉は劇薬である強い言葉は劇薬である

 ここからは、練りに練った言葉が失言に変わっていくプロセスについて、説明を続けていきたい。無意識な発言は注意ができないまでも、意識的な発言は、傾向と対策を知ることで失言を回避できる可能性は高い。

 現代はインターネットやSNSの台頭によって、あらゆる人が自らの意志で、世界へと自由に発言することができる。そのため、インターネット上の情報は加速度的に増え続けている。総務省の調査によると、世の中に存在する情報は10年で10万倍にも増えているという。その大半は誰にも触れられることのない、情報のゴミと化す。

 こうしたメディア状況で、発言者が考えるのは、一つである。

 「情報のゴミになることなく、注目を集める発言をしたい」

 こうした見えない力が働くのだ。

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