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生瀬勝久、信念を貫く王を演じる

舞台『アンチゴーヌ』、生きることの矛盾や人間が存在する本質を描く

真名子陽子 ライター、エディター


拡大生瀬勝久=安田新之助撮影

――たとえ一人でも、世界に立ち向かおうとした女性がいた。彼女の名はアンチゴーヌ。

 時代を超えて上演し続けられているジャン・アヌイの傑作舞台『アンチゴーヌ』が、栗山民也演出、岩切正一郎新訳のもと2018年1月~2月に上演される。生きることの矛盾や人間が存在する本質を描いた本作。主人公アンチゴーヌ役を蒼井優が、権力者として政治の責任を貫こうとする冷静な王クレオン役を生瀬勝久が演じる。

 法と秩序を守り、権力者として政治の責任を貫こうとする冷静な王クレオン。自分の良心にまっすぐに従い、自己の信念を貫くアンチゴーヌ。その相対する立場と信念は、そのまま国家と個人、現実と理想の対決となり、その思いは通じ合うことなく物語は悲劇へと進んでいく。

 大阪で生瀬の取材会が行われ、軽妙な語り口で作品やクレオン役について、演出をする栗山民也や蒼井優の印象などを語ってくれた。

役者としての背筋を矯正してくれたのが栗山さん

生瀬:演出の栗山民也さんには、三好十郎原作の『浮標』と井上ひさし原作の『ロマンス』で演出をしていただいて全幅の信頼を置いていますので、台本を読む前に引き受けさせていただきました。それから台本を読んだのですが、大変な作品に出会ったなと……。学生演劇から始まって、小劇場や自分たちの劇団でやってきましたが、演劇に関してはずっと素人だと思っているんです。でも、そんな自分の背筋を矯正してくれたのが栗山さんでした。関西で育って耳で聞いた標準語だけで演じてきた自分に、『浮標』で「てにをは」まできっちりと指導してくださいました。その『浮標』で、これからどんな作品にも立ち向かっていけるという経験をさせていただきました。そして『ロマンス』から10年経っています。背筋をまた矯正していただける3カ月(稽古を含めて)になるんじゃないかと思います。今の自分ができる精一杯を出し切れたらと思っています。

――『アンチゴーヌ』という作品の魅力は?

 一人でこれだけのセリフを相手の相づちもなく言い続ける力というのは、表現力を試されることだと思います。僕は、役者であり観客でもあります。客席で演劇を見る時、僕は演劇ファンではなく普通の人間で、その演劇が難しかったらつまんないと思ってしまう人間です。このジャン・アヌイが書いた作品を成立させる、聞かせる、見せる、見せなきゃいけない、という使命が僕にあると思っています。これから稽古が始まりますが、セリフを覚えて終わるのではなく、演じるクレオンという国王がアンチゴーヌをどうやって説得するのか、文字に書かれているものを、声として言葉として、アンチゴーヌに聞かせるということを僕が具現化しないといけません。難しい言葉を延々としゃべる人だなと思われないように、見ている方が「そうだよ。アンチゴーヌ聞けよ、国王の話を」と思っていただける作品にしなきゃいけない。演劇ファンだけが楽しめる作品ではなく、テレビに出ていた人がやるんだと見に来られた方が、「『アンチゴーヌ』はすごい作品だね」と思ってもらえるような作品になればいいなと思っています。

蒼井優さんは最初のひと声で劇場を変えるオーラがある

拡大生瀬勝久=安田新之助撮影

――演じるクレオンのキャラクターはどのように見ていますか?

 国王というのは建前の象徴で、語るのは国家としての理想論です。現実にはそれぞれの正義があって、情がある。それがアンチゴーヌという作品なんですよ。でも、国王は建前がないと成り立たない。お前だけはいいよ、とはいかない。クレオンもひとりの人間でちゃんと気持ちもある。でも国家をまとめるという立場上、正しいことを言わなければいけない。建前を言わなければいけないし、きれいごとを言わなきゃいけない。そのきれいごとに正解があると理解させなきゃいけない。すごいジレンマだと思うんです。僕個人としては皆に好かれたいですから(笑)。それを踏まえて、非情な王なのか王の苦悩を抱えたまま表現するべきか、難しいところですが、栗山さんと相談しながら作っていきたいです。

――アンチゴーヌ役の蒼井優さんの印象は?

 映像作品での共演はあるんですが役で絡んだことがなく、僕が演出した『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき』という作品を一緒に作りました。その印象になりますが、幽霊の役だったのですが、なんと透き通った幽霊だと。最初のひと声で劇場を変えるオーラがあります。稀有な存在感を持っていますね。今回は、何を訴えかけてくるのか……僕が特別に用意しても仕方がないので、彼女の声を聞いて、こういう人にはどうやって説得すればいいのかを模索していくことになると思います。彼女は読めないです。たぶん演劇って、そういう楽しみ方だと思うんですよね。

――アンチゴーヌとクレオン、どちらにシンパシーを感じますか?

 もちろんアンチゴーヌだと思いますね。まず親族=血というものがあります。国家より個人、時代によっては国家が大事な時期があったと思いますが……。まず自分が大事、次に身内が大事で、その次に国家があると思っています。そういう意味でもアンチゴーヌにシンパシーがいくと思います。僕の役目としては、国があってこその国民なんだということを大事にしなきゃいけない。個々を大事にしていくと国はいらないわけで、個人だけでは成立しないから国があるわけで。そのバランスは絶対に保ちたいなと思っています。

――クレオンにもシンパシーを感じてもらいたい?

 もちろんです。書かれているセリフは決まっているので、ジャン・アヌイはどこへ着地点をもってこようとしているのか。でも、どちらにも偏っていないと思うんです。さて、あなたならば?という問題提起をしていると思います。クレオンの気持ちわかるよね、アンチゴーヌは従わなければいけなかったよね…など、最後に皆さんがどう思うか、ですね。

――蒼井優さんと役者として一緒に仕事をするおもしろさは?

 蒼井さんに限らず初めてお会いする役者さんは、すべての方に興味があります。絶対に役へのアプローチが違うんですよね、それぞれのやり方があるので。特にこういうVS関係の芝居ですから、相手の出方によってどうかわすか、どう抑えつけるか、とても楽しみです。手のうちがわかっている方とのセッションも楽しいんですけど、わからない方はどうやって戦おうかという楽しみがあります。ずっと手の内を見せずに最後に切り札を出すのか、最初からバチバチでいくのか。

僕がしゃべっているのはみんなが知らない言葉ではない

拡大生瀬勝久=安田新之助撮影

――難しそうな作品だなという印象があります。

 そうですね、記憶に残らないことが心配です。初めて芝居を見る方にこの作品は相当ハードルが高いと思います。でも、そういう方に楽しかったと思ってもらえるのがうれしいんですよね。これは自分のテーマなんですけど、セリフを歌わない、気持ちよく芝居をしない。今、僕がしゃべっているのはみんなが知らない言葉ではないんだと。難しい語彙も出てくるんですが、それを難しいまま表現するのではなく、ゆっくりと伝えれば理解していただけると信じています。

――クレオンの王として、人間としての葛藤は描かれている?

 もちろん。アンチゴーヌと二人きりになった時には、お前の気持ちもわかる、でも、俺は国王で正しいことを言わなきゃいけないんだと。それを含めて説得しているのに理解してくれないアンチゴーヌ……(笑)。とても簡単な話なんですけど、それを難しい言葉でやろうとするから演劇って難しいなと感じます。説得することって、小学生の息子になぜ勉強をしないといけないかを説明をするのにいろんな例えをするんですけど、それと同じなんですよね。勉強が嫌いなのは当たり前。パパも嫌いだよと。でも、しないといけないのはなぜか?というところを説明しなきゃいけない。

 クレオンも頭ごなしではないんです。ちゃんとかみ砕いて説明しているのに、アンチゴーヌが頑ななんです。でも、それもわかる。悲しいからこその行動で、アンチゴーヌの価値観もわかっているんです。

生の声が自分にとって一番心地いい

拡大生瀬勝久=安田新之助撮影

――舞台セットが変わっています。それについてはいかがでしょう?(公式ホームページでご確認を!!)

 どう見せるかは栗山さんが考えられることで、僕はただ優ちゃんと丁々発止するということです。小劇場でやってきた人間ですから、生の声が自分にとって一番心地いいんです。2000人の劇場でもマイクをつけたくないくらい、舞台の一番の魅力は生の声だと思っています。役者が自由にわがままに、こういうのを見せたいというのを表現できるのが舞台です。そういう意味では客席と近いですし、小さい声から大きい声までフルに使える劇場なのですごく楽しみです。

 もちろんお客様にお尻を向けてしまうという状況にもなりますが、それをわかったうえで芝居ができます。お尻を向けられているお客様のストレスがたまってくる。そういう時にどうやってそのお客様に表現するかは、今までの経験から体が覚えているので、あまり心配していません。もちろん栗山さんが見てくれていますし。ランウェイや花道みたいな感じですし、客席からの登場ってスペシャル感がありますよね。それがずっと続くわけです。飽きられちゃうかもしれないけど(笑)、楽しみです。

【あらすじ】
 古代ギリシャ・テーバイの王オイディプスは、長男エテオークル、次男ポリニス、長女イスメーヌ、次女アンチゴーヌという、4人の子を残した。ポリニスとエテオークルは、交替でテーバイの王位に就くはずであったが、王位争いを仕組まれて刺し違え、この世を去る。その後、王位に就いたオイディプスの弟クレオン(生瀬勝久)は、亡くなった兄弟のうち、エテオークルを厚く弔い、国家への反逆者であるとして、ポリニスの遺体を野に曝して埋葬を禁じ、背く者があれば死刑にするよう命じた。しかし、オイディプスの末娘アンチゴーヌ(蒼井優)は、乳母の目を盗んで夜中に城を抜け出し、ポリニスの遺体に弔いの土をかけて、捕えられてしまう。

 クレオンの前に引き出されるアンチゴーヌ。クレオンは一人息子エモン(渋谷謙人)の婚約者で姪である彼女の命を助けるため、土をかけた事実をもみ消す代わりにポリニスを弔うことを止めさせようとする。だが、アンチゴーヌは「誰のためでもない。わたしのため」と言い、兄を弔うことを止めようとしない。そして自分を死刑にするようクレオンに迫る。懊悩の末、クレオンは国の秩序を守るために苦渋の決断を下す。(公式ホームページから)

◆公演情報◆
パルコ・プロデュース『アンチゴーヌ』
2018年1月9日(火)~27日(土) 東京・新国立劇場 小劇場 <特設会場>
2018年2月3日(土)~4日(日) 長野・まつもと市民芸術館 <特設会場>
2018年2月9日(金)~12日(月・休) 京都・ロームシアター京都 サウスホール <舞台上特設ステージ>
2018年2月16日(金)~18日(日)  愛知・穂の国とよはし芸術劇場 PLAT <舞台上特設ステージ>
2018年2月24日(土)~26日(月)  福岡・北九州芸術劇場 大ホール <舞台上特設ステージ>
[スタッフ]
作:ジャン・アヌイ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
[出演]
蒼井優、生瀬勝久、梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤誓、渋谷謙人、富岡晃一郎、高橋紀恵、塚瀬香名子
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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