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ミュージカル『マタ・ハリ』

加藤和樹、“生きている”ではなく“生きる”

真名子陽子 ライター、エディター


拡大『マタ・ハリ』大阪公演、囲み会見から、左から東啓介、加藤和樹、柚希礼音、佐藤隆紀=岸隆子(Studio Elenish)撮影

 ミュージカル『マタ・ハリ』の東京公演が3日(土)から開幕する(東京国際フォーラム ホールCにて、18日(日)まで)。第一次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、力強く美しいダンスで魅了したダンサー、マタ・ハリを描き、韓国で大ヒットした作品で、今回が日本初演。大阪公演からスタートした本公演。初日の前日に行われた囲み会見の様子と、公演レポートをお伝えする。

 囲み会見の登壇者は、マタ・ハリ役の柚希礼音、ラドゥー大佐とアルマンの二役を演じる加藤和樹、ダブルキャストでラドゥー大佐役を演じる佐藤隆紀、同じくダブルキャストでアルマン役を演じる東啓介、そして訳詞・翻訳・演出の石丸さち子。

強いパッションと繊細さや揺らぎ、その両極を取り込んだ

――石丸さんへ。韓国版との違いと日本版の見どころを聞かせて下さい。

石丸:韓国版を観劇したとき、ドラマティックで強いパッションの芝居にすごく感動しました。その強いパッションはそのままにして、日本人ならではの繊細さや揺らぎのようなもの、その両極を取り込もうと思いました。フランク・ワイルドホーンさんの曲がものすごくダイナミックなんですね。歌っている間にどんどん次の世界へ連れて行かれるような、ジャンプするような感覚があります。そのダイナリズムともうひとつ、ロマンティックさがあるんです。この2つを最大限に生かせるようにしました。そして美しい男と女が、ヨーロッパ中が疲弊した第一次世界大戦の中で、ボロボロになりながら傷つきながらもどのようにして生き抜こうとしたか、この強さをしっかり描きたいと思いました。実際に、美しさと醜さ、優しさと残酷さ、といった両極を世界は持っていると思います。過酷なヨーロッパの戦争を描いた残酷さの中に、どのような優しさが生きる希望として生まれるか、そして彼らの中にどのような愛と裏切りが生じるか、それでも人はどう生き抜こうとするか、というようなことを描きました。

――柚希さんへ。初日を迎える感想を聞かせてください。

柚希:とにかくマタ・ハリに成り切って生きたいと思います。壮絶な生い立ちのマタ・ハリですが、強く生きるということへ向かっていくマタ・ハリを思いきり生き抜きたいと思います。マタ・ハリにしか見えないと思ってもらえるようにがんばります。

――加藤さんへ。二役の大変さはありましたか?

加藤:まず、二役をやるにあたってどのように稽古を進めていこうかと石丸さんと相談しました。ひとつの役を作りながら、もう一つの役を作っていこうかと最初は言ってたのですが、佐藤君と東君の稽古を見ているとやりたくなるんですよね。結局、同時進行で二つの役を作っていきました。自分が思っていたより混乱はなかったですし、それぞれの芯の部分に関してはまったく迷いなく作ることができました。このメンバーと作り上げてきたものをようやく舞台上で出せるので、とても楽しみです。

――佐藤さんと東さんへ。変則的なダブルキャストです。演じてみていかがですか?

佐藤:和樹君が芝居するところを見てすごく勉強になるところがありましたし、東君と二人がやっているところを見て、ここはこう見えるんだ、こう見えた方が良いんだと気付くことがたくさんありました。とてもいい機会をいただけたと思っています。

東:ダブルキャストが初めてなので、どう見えているのかと客観視できる時間があったのはすごく貴重な時間でしたし、発見できたことも多かったので役を作るうえでとても助かりました。

佐藤:同じ役ですが、本当に印象が違います。良いところはもちろん真似しようと思いましたが、ここはお互いの個性が生きてるなと思う部分はそのままにしているので、やはりどちらも見ていただきたいなと思います。

石丸:まったく違いますよ!

稽古場で見たときに「マタ・ハリだ!」と

――石丸さんへ。柚希さんのダンスの場面について聞かせてください。

石丸:韓国版にダンスの場面はなかったんです。マタ・ハリ自身が踊る場面はなくシルエットだけで表現されていたんですね。日本版では、マタ・ハリがいかにしてヨーロッパの人を夢中にさせたか……大戦の中でもヨーロッパ中に呼ばれて公演をしていたんです。どうして彼女は人を魅了したのかということを振り付けの加賀谷香さんと話し合いながら、柚希さんがそれを体現できるダンスシーンをいくつか用意しました。それは神へ捧げる踊りでもあり、エンターテインメントでもあります。とても精神性が深くて、それでいて美しく、見ていても楽しめるとても素敵なシーンになっていますので、ぜひご期待いただきたいと思います。

加藤:稽古場で見たときに「マタ・ハリだ!」と思いました。

佐藤:思いましたよね。

――柚希さんへ。加賀谷さんの振りはいかがですか?

柚希:ただ、付けられた振りを踊るだけではないんです。精神性の高い、神へ捧げるダンス、それを少しアレンジしたエンターテインメント性のあるダンスがありますので、その兼ね合いを楽しんで頂けるようにしたいと思っています。加賀谷さんの振りは素晴らしいと聞いていたのですが、本当に心から踊ることができる振りになっています。

――柚希さんへ。歌についてはいかがでしょう?

柚希:ああでもない、こうでもないと悩みながら、いろんな方に助けてもらいながら、お稽古を重ねてきました。ただ歌うだけでなくマタ・ハリの思いが乗りますので、心が叫ぶように歌いたいと思います。

マタ・ハリの半生を思いきり、壮絶に、勇敢に生きたい

――最後に、メッセージをお願いします。

東:日本初演の『マタ・ハリ』。自分にとって財産になる作品だと思っています。生きるという力をぜひ皆さんに持ち帰っていただきたいと思います。

佐藤:日本初演と言う舞台に立たせていただけることをうれしく思っています。今、この時代だからこそ、戦争について深く考えることができるこの『マタ・ハリ』を見ていただいて、この時代に生きたマタ・ハリの人生を体感していただいて、戦争についてもう一度、考えるきっかけを持っていただけたらと思います。

加藤:二役をやることの難しさを感じて時間がかかったこともありましたが、みんなでギリギリまでああでもない、こうでもないと繰り返して積み上げてきたものを、ようやく見ていただけます。プレッシャーもありますが、それ以上に楽しさが勝っています。“生きている”ではなく“生きる”ということ、生きる思い、力強さ、エネルギーを感じて頂けたらと思います。

柚希:大きな挑戦になる作品です。気を引き締めて、マタ・ハリの半生を思いきり、壮絶に、勇敢に生きたいと思います。

【公演レポート】歌い上げる柚希にマタ・ハリの本当の姿が見える

拡大『マタ・ハリ』大阪公演から=岸隆子(Studio Elenish)撮影
 マタ・ハリを演じる柚希は、ヨーロッパ中を魅了したという美しい肉体を見事に作り上げている。妖艶さはあるがエロさはない。だから、愛を知りダンサーからひとりの女へと変わっていくマタ・ハリに感情移入できる。広い舞台の真ん中でひとり歌い上げる柚希の歌声はまさに心の叫び。この時代に生きなければいけなかったマタ・ハリの本当の姿が、その柚希から見える。

 アルマンとラドウー大佐の二役に挑戦した加藤。苦悩や切なさを内包しながらも溢れ出るマタ・ハリへの愛を真っすぐに表現するアルマン役は加藤の真骨頂だろう。上官への忠誠心とマタ・ハリへの愛の狭間で揺れ動きながらも、マタ・ハリへの愛につき進んでいく様は、この時代にあっても(だからこそ?)清々しく感じる。もうひとつの役、ラドゥー大佐は抗うことができない自身の状況における正気と狂気のギリギリを加藤は細かい演技で見せる。マタ・ハリへの感情は、愛なのか執着なのか……。この人物が一番、時代に翻弄されたのではないだろうか。真逆ともいえるこの二役を加藤は見事に演じ分け、それぞれの役が持つ軸をぶれさせずに歌い上げている。

 ダブルキャストでラドゥー大佐を演じた佐藤は上官への忠誠心が勝っている印象だ。マタ・ハリへの言い知れない感情に気づきながらも必死に自分を保つ。だからこそ、隠しきれなくなった時に溢れ出る思いは歪み、憎しみに変わるのかもしれないと感じる。歌声は迫力があり大佐の存在感を違和感なく見せている。アルマン役を演じた東は武器である若さを味方にし、マタ・ハリへの愛を忠実に描いている。東が出す弟的要素が見る側のキュンポイントを刺激し、二人のシーンでは劇場に温かい空気が流れているように感じる。歌のレッスンを継続的にしているという東はていねいに歌い上げていた。

拡大『マタ・ハリ』大阪公演から=岸隆子(Studio Elenish)撮影
 栗原英雄、和音美桜、福井晶一は、歌う場面こそ少ないがこの物語を描くうえで重要な役どころを担っている。特に、マタ・ハリの衣装係・アンナ役の和音が醸し出す慈愛は強くも温かく、最後のマタ・ハリとのシーンは心が揺れ、アンナと同じようにマタ・ハリを思う気持ちが溢れ出る。

 若い兵士ピエール役は西川大貴(東京公演は、百名ヒロキとダブルキャスト)。ピエールが発する言葉が素直であればあるほど戦争の醜さや怖さが際立ち、見る側に真っすぐに伝わってくる。皮肉にもその素直さが戦場へと向かわせるのだが……。戦場からひとり生還し出世するが、ピエールが持つその素直さがある行動に表れる。それによってラドゥー大佐の孤独が浮き彫りになる。そして、ひとりの兵士がある場所にいる。最後にマタ・ハリとシンクロするその兵士が存在する意味は、観客に委ねられている。

 無彩色の舞台に彩り豊かにマタ・ハリの人生が浮かび上がる。照明が、悲しみや怒り、孤独、愛……を表現しているかのように、効果的に使われている。派手なセットはないが、舞台空間の奥行きと高さをうまく使い、視覚的に飽きさせない。時代背景もあるが、終始、年代物のフィルム映画を見ているようなカッコよさのある作品だと感じた。ミュージカルだけどとても演劇的要素が強く、芝居で見せることに重点が置かれているように感じるのは、演出の石丸さち子が蜷川幸雄さんの作品で演出助手をしていたからだろう。マタ・ハリと彼女を取り巻く人物たちの物語に何を感じるのか、ちゃんとその隙を与えてくれる。それがこの作品の魅力のひとつかもしれない。

◆公演情報◆
2018年1月21日(日)~28日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
2018年2月3日(土)~18日(日) 東京・東京国際フォーラム ホールC
※チケット一般発売:10月22日(日)~
[スタッフ]
脚本:イヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:ジャック・マーフィー
訳詞・翻訳・演出:石丸さち子
[出演]
柚希礼音、加藤和樹/佐藤隆紀(LE VELVETS)、東啓介/和音美桜/福井晶一 ほか
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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