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【ヅカナビ】宝塚音楽学校第104期生 文化祭

そして「文化祭その後」はどうなる? 改めて振り返ってみた

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 今年も宝塚音楽学校第104期生文化祭を観られることになった。しかも2月18日の12時、16時の両公演である。この幸運は是非とも還元しなければ。ということで、この場を借りてレポートしたいと思う。

 宝塚音楽学校における「文化祭」は、いわば卒業公演のようなものだ。この舞台で2年間の学びの集大成を見せる。いっぽう客席の側には見守る親兄弟や関係者に加え、熱心なファンも駆けつける(宝塚友の会の先行抽選枠があり、私ももっぱらそれを活用している)。いわば「未来のスター発掘」の楽しみもあるわけだ。

 今年の文化祭は2月16〜18日の3日間、毎日2回ずつ上演された。各回とも歌中心の第1部、芝居を見せる第2部、ダンスを見せる第3部の3部構成となっている。途中15分ずつの休憩を挟みながらの約2時間20分だ。ちなみに第2部の演劇はAB2組に分かれての上演となる。私が観た18日でいうと12時公演がA組、16時公演がB組の出演だったので、両公演を観れば演劇で活躍する生徒を網羅できるというわけだ。

 文化祭はあくまでも成果発表の場なので、全員に見せ場があるよう配慮されているし、衣装に羽根やスパンコールが付いているわけではない。毎度観るたびに心洗われるような気持ちになるのは、まだ商業演劇界の現実に揉まれていない生徒たちだけが発することができる純粋なパワーの賜物だろう。

 それでもやはり、歌が得意な人はソロが与えられるし、ダンスが得意な人はセンターで踊る。演劇の部で主役級の二枚目役を与えられる人は未来のスターを嘱望されているのだろう。1〜3部それぞれで目立つ人が違うのも文化祭の面白いところだ。

 私は99期の年(2013年)に初めて文化祭を観た。以来102期、103期と観劇の機会に恵まれた。まだまだ文化祭見巧者とは言えないが、せっかくの機会なのでこれまで観た文化祭のことも、その時々で書いた『ヅカナビ』とともに振り返ってみよう。今、各組で活躍している「あの人は」「この人は」文化祭の頃どんな風だったのだろう?

104期は個性派、実力派な男役ぞろい?

 昨年の103期は娘役優位な印象だったが、今年は男役が豊作で、個性的で実力派な男役が目についた。そうなると文化祭用の保護者モードがいつものファンモードに切り替わり、思わずテンションが上がってしまうのが不思議なところだ。これもヅカファンの性なのだろうか?

 第1部の幕開きは、「清く正しく美しく」の歌に合わせ全員が緑の袴姿で踊るのが恒例だ。その後、予科生のコーラスを挟んで、オペラの楽曲を披露するクラシック・ヴォーカル、宝塚歌劇の名曲をメドレーで歌うポピュラー・ヴォーカルと続く。日本舞踊「清く正しく美しく」ではソロ歌手をつとめた森羽龍さんの清らかな歌声が気持ちいい。また、舞踊でセンターを務めた小島風樹さんのキリリとした舞姿も印象的だった。

 歌で圧倒的な印象を残したのは男役では越智愛梨さん、娘役では村上すず子さんだ。2人は例年「歌ウマ」の聴かせどころとなるクラシック・ヴォーカルでそれぞれ歌い、ポピュラー・ヴォーカルでも村上さんが娘役のトリで「白い花がほほえむ」(『ラムール・ア・パリ』より)を、越智さんが男役のトリで「もののふの詩」(『メナムに赤い花が散る』より)を朗々と歌い上げた。その他、演劇A組でも活躍した戸谷雨音さん、山口真由さん、石田日向子さんトリオによる「アイ・ラブ・レビュー」(『ザ・レビュー』より)がキラキラと華やかで個人的お気に入りだ。

 第2部 演劇は谷正純脚本・演出による『MILKY WAY』。山本周五郎の短編『泥棒と若殿』を題材に、舞台を南ドイツに移した物語だ。皇位継承争いに巻き込まれている不遇の皇子カイ(守絵衣実/吉村里紗 ※A組キャスト/B組キャストで記述)の家に忍び込んでしまった泥棒ザック(石田日向子/山田絵莉香)、やがて2人の間に奇妙な友情が生まれる。

 カイは腹違いの兄妹である皇子ゼルギウス(戸谷雨音/阿南萌実)・王女ドロテア(平竹沙弥音/岩崎容子)と対立し、幽閉される身だ。だが、兄のために政略結婚に従う妹シャルロッテ(森羽龍/影山都花)、カイの忠臣ニクラウス(小嶋留奈/石山弘華)らの思いを知り、お忍び旅行中のイギリス貴族デミトリアス(山口真由/金谷安紗)の生き様からも教えられることで自分の責務に目覚めていく。いっぽう旅芸人一座から逃げ出した娘レナーテ(山内万里奈/橋本志歩)はザックに諭され、一座に戻り仲間と共に歩む決心をする。テーマは「私が歩んだ道が私の道」、登場人物それぞれが自分の歩むべき道に気付いていく物語だ。

 男役豊作の年らしく、男役に見せ場の多い作りになっている。中でも泥棒ザックはいかにも甲斐がありそうで、「文化祭」レベルを超えた難易度の高い役だったが、そこまでの役を演じさせたい人材がいるということなのだろう。A組の石田日向子さんの温かみのある芝居が何とも魅力的だったが、B組の山田絵莉香さんもまた違った役作りで健闘。A組は純粋無垢な皇子を気にかける兄のようなザック、B組はしっかり者の皇子に惚れ込む弟分のようなお調子者ザックと、2人の関係性が違って見えたのも面白かった。

 第3部 ダンス・コンサートでも圧倒的だったのは越智愛梨さん。ジャズダンスの場面でスーツ姿での粋なダンスを見せたかと思えば、モダンバレエではしなやかな力強さを見せた。この他、気になる人は男役、娘役ともに何人かいたが、ソロパートを踊った人の名前がプログラムに明記されておらず、ダンスで活躍を見せた人が分かりづらいのが残念なところだ。

 全体を通してとくに印象に残ったのは、すでに男役の色気を感じさせる歌とダンスで、これまでの文化祭で感じたことのないトキメキさえ覚えてしまった越智愛梨さん、演劇A組で人情味あふれるザックを見せ、抜群の芝居心を感じさせた石田日向子さんの2人だろう。この他にも今後が楽しみな人だらけの104期だ。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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