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あの坂元裕二が使う「夫さん」、ブラボー!

「ご主人」に違和感をもつみなさんへの「福音」として

矢部万紀子 コラムニスト

ドラマ「anone」(日本テレビ系拡大ドラマ「anone」(日本テレビ系)=公式サイトより
 坂元裕二脚本のテレビドラマ「anone」(日本テレビ系、水曜夜10時)は、タイトル前に大きな満月が不吉そうに映る。そこに到るまでに、前回までのあらすじが頭に入る場面が流れ、主人公のハリカ(広瀬すず)の語りが入ることも多い。広瀬の淡々とした調子がこのドラマの先行き不透明な感じをよく伝えている。

 坂元は1991年に「東京ラブストーリー」を手がけた人。「東京ラブストーリー」はいまやフジテレビ「月9」(月曜夜9時放送)の栄光の代名詞になっている。以来、30年近く名作を書き続けている。

 日本テレビ系の連続ドラマでは「Mother」(2010年)、「Woman」(2013年)と2作続けて「母」をテーマに書いている。「Woman」のことは以前、このWEBRONZAでも取り上げたのだが、5年ぶりの「anone」も同様のテーマに位置付けられ、期待大で始まった。

 スタートから1ヶ月後の2月9日、「anone」は朝日新聞朝刊の「文化・文芸欄」でも取り上げられた。視聴率は初回の9.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)から下降気味だが、録画を含めた総合視聴率は2倍近く、じっくりドラマを見たい人の心に響いているという見立ての後、映画監督の是枝裕和、早稲田大学教授の岡室美奈子、評論家の宇野常寛が批評していた。3人ともが「坂元による新たな挑戦」などと高評価を与えていた。

 その挑戦性についての解説はそちらに譲るのだが、私も、複雑で、切ないストーリー展開に引き込まれている一人だ。満月前に入る映像と広瀬の語りは、「anone」の世界に視聴者を舞い戻す役目があると思う。5回目はこんなふうだった。

 亜乃音さんと私は、印刷工場の床下から出てきた大量の札束をきっかけに出会いました。手に入れたお金が偽札だったことに気づいた私は、亜乃音さんのもとに訪ねました。家族のぬくもりを知らない私に、亜乃音さんは優しくしてくれました。亜乃音さんが大金を隠し持っていると思った青葉さんと持本さんは、亜乃音さんの家に空き巣に入り、私を亜乃音さんの娘だと勘違いして、身代金を要求したのです。ところが亜乃音さんは娘でない私のために、亡くなった夫さんの保険金1000万円で身代金を払ってくれたのです。

 広瀬の語りはまだ続くのだが、ここまでにしたのは、「夫さん」という言葉が登場したからで、今回は「anone」というドラマについてではなく、坂元裕二と「夫さん」について書くこととする。

ドラマ「カルテット」に「夫さん」登場

 坂元のドラマに「夫さん」が登場したことに気づいたのは、昨年(2017年)TBS系(火曜夜10時)で放送された「カルテット」だった。松たか子、松田龍平、満島ひかり、高橋一生という4人による群像劇。4人は弦楽奏者で、松田の実家が所有する軽井沢の別荘で暮らしながら、カルテットを組む。

「月9」の退潮に見る「組織」の時代の終焉――「無条件枠」という「個人」の枠でドラマ見つけてます

 第1回で、松、高橋、松田が別荘に到着する。高橋は土日だけでなく、ずっとここに住むと言う。一緒にいれば、カルテットの結束が強まるじゃないか、と。松だけが既婚なので、松田がこう言う。

 「泊まりとなると、夫さんに叱られちゃいますよね」

 ごくサラリと「夫さん」が登場した瞬間だった。しかもこれから、松田に限らず、高橋も満島も松の夫を「夫さん」と呼んだ。「夫さんと、喧嘩でもしたんですか?」「夫さんはどっち派ですか? 唐揚げにレモンですか?」etc.

 以後、3人は松がいる時もいない時も、それを貫いた。第三者の夫を「夫さん」と呼ぶのが、この3人については「普通」なのだと視聴者に示された。

 「そうかー、坂元さんは『ご主人』とか『旦那さん』とか言わせないんだー。さすがだなー」

 そう思った。

「誰かの夫」をどう呼ぶか

 実は「カルテット」の1年ほど前、 ・・・続きを読む
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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。

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