メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

【ヅカナビ】月組公演『BADDY』

タカラヅカ史に残るショー、挑戦的で刺激的な三層構造の面白さ

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 ここ最近、あっと驚くショーのヒット作がなかなか出てこないことが気になっていた。無論どの作品も安定のクオリティで楽しめる。しかも個々の出演者への配慮も行き届いている。だけどなあ……まるで、ピースフルプラネット地球の王子のような気分だった。そこにやってきたのが今回の月組公演『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』だ。それはまるで、私たちが恐れながらも心の底では待ち望んでいた大悪党・バッディそのもののような挑戦的で刺激的な作品だった。

 ところがこの作品、「これまでのショーとは違う」と言われているくせに、ラインダンス、トップコンビのデュエットから大階段を使った男役群舞、羽根を背負うパレードまできっちりこなし、タカラヅカのショーの様式を完璧に踏襲しているのだ。その上で一場面ごとに一石投じまくる痛快さがたまらない。おまけに、場面ごとに出演者ごとの見どころも細やかに設けられているのも見逃せない。いわば一粒で3度美味しいショーである。逆に言うならそれだけ深く、全貌がわかりにくいかもしれない。

 おそらくこのショーはタカラヅカ史に残るのではないかと、私は思う。それなのに「よくわからなかった」で終わるのはあまりにもったいないことだ。そこで今回は、限られた観劇チャンスの中でも『BADDY』が満喫できるよう、「タカラヅカの様式的な見どころ」「出演者別の見どころ」「隠しテーマ」の三層構造の見どころを紹介していきたいと思う。

103年続くTAKARAZUKA-CITYの平和が?

 物語の舞台は遠い未来のピースフルプラネット「地球」だ。世界は統一され、戦争も犯罪もなく、もちろん全世界禁煙。人生の目的は「天国に行くこと」のみである。正直「ちょっと退屈?」と、この国の王子(暁千星)は思っている。

 こうして103年間平和が続いている地球の首都がTAKARAZUKA-CITYなのである(ちなみに宝塚歌劇も創立してから103年経ち、今年で104年目を迎える)。考えてみればこの設定、強烈な皮肉とも読み取れる。そんな作品を堂々と上演し、トップスターに「天国なんて爺さんのたまり場」とまで歌わせてしまう宝塚歌劇の懐の深さはアッパレだ。これぞタカラヅカの底力だと思うし、いつまでもこうであって欲しいと切に願う。

 そこに現れるのが、月からやってきた大悪党のヘビースモーカー・バッディ(珠城りょう)。彼に立ちはだかるのが地球の平和を守るグッディ捜査官(愛希れいか)だ。

 バッディとともに月からやってきたスイートハート(美弥るりか)は両性具有的な存在で、バッディとは相棒のようでもあり、恋人のようでもある。いっぽう、真面目で純朴なポッキー巡査(月城かなと)はグッディに密かに想いを寄せているが、仕事熱心なグッディは気付きもしない。ところが、バッディとグッディが出会うことで、この4人の関係性が崩れていく。

 なお、全体を通しての注目ポイントを二つほど。ひとつは通し役で色々な場面に登場する宇宙人(輝月ゆうま)だ。大階段での男役群舞でさえ、ただ一人宇宙人姿のままだから目を留めずにはいられない。全編通してのマスコット的存在である。

 もう一つ、サブストーリーのように進行するバッドボーイ(宇月颯)と王女(早乙女わかば)、この公演で卒業する二人の恋物語にも是非注目して欲しい。それはさながらロミオとジュリエットのようである。バッディとグッディとは対照的なハッピーエンドを暗示するシーンが最後にあるのも嬉しい。

・・・続きを読む
(残り:約1963文字/本文:約3435文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

中本千晶の新着記事

もっと見る