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必見!『犬ヶ島』は、国辱映画か?(上)

近未来の日本が舞台のSF冒険映画

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

映画「犬ケ島」から 〓2018 Twentieth Century Fox拡大映画『犬ケ島』 (c) 2018 Twentieth Century Fox

 『天才マックスの世界』(1998)で注目を浴びて以来、傑作、秀作をコンスタントに撮り続けているウェス・アンダーソン。世界的に見ても最も優れた現役監督のひとりだが、1969年、米テキサス州生まれのアンダーソン(以下WA)のユニークさは、何より、その強烈な<作家性>にある。

 すなわちWA作品には、物語がどれほど奇想天外であろうと、彼ならではの計算され尽くした演出=形式が、いわば“作家的文体”として刻印され、全編をストイックなまでに律しているのだ。

 それはたとえば、登場人物(動物を含む)をしばしば真正面や真横からの、奇妙にフラット感をきわだたせる様々なサイズの静止画面で写し、あるいは被写体や画面そのものを前後左右上下にパン(カメラの首振り)や移動撮影、もしくはズームイン/アウトで動かす、などなどのユニークな描法である。そうした、おしゃれ・ポップ・可愛い・洗練・箱庭といった言葉で形容される“WA印”が連想させるのは、小津安二郎における、向き合う人物を正面から独特のアングルとリズムで交互に写す、あの切り返しだったり、ジャン=リュック・ゴダールにおける、画面の奥行きを塞ぐような壁を背にした――カメラ目線で独白する――人物の正面ショットだったりする。

 そしてそんなWAの作家性は、近未来=架空の日本が舞台の『犬ヶ島』(2018、長編9作目)でも全開するが、パペット/人形をコマ撮りするストップモーション・アニメーションである本作は、これまでのWA作品同様、幾何学的な画面設計のみならず、物語の起承転結や音響が入念に工夫されており、極上のエンターテインメントに仕上がっている(ストップモーション・アニメは、CGを使わずに、人形やミニチュアを少しずつ動かして一コマずつ撮影する、いわば超アナログな作画法で、当然ながら、途方もない忍耐力や労力、および膨大な時間を要するが、『犬ヶ島』の撮影には4年の歳月が費やされたという。なお、2009年製作のキツネを主人公にした秀作、『ファンタスティック Mr.FOX』は、WAによる初のストップモーション・アニメで、こちらも必見)。

20年後の日本の架空都市で

 『犬ヶ島』の物語はといえば ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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