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[19]15秒ネット動画はテレビCMに近づく

足立佳奈、Tik Tok、ダンス動画

太田省一 社会学者

足立佳奈がブレークしたきっかけは、自分のツイッターアカウントにアップした一連の自作「15秒ソング」だった。なかでも2017年2月に投稿されたこの動画拡大2017年2月、ツイッターに投稿されてブレークした足立佳奈の「15秒ソング」の動画より

 この連載のそもそもの出発点は、私なりにテレビとネットを比較してみたいということだった。「テレビの時代からネットの時代へ」と言ってしまえば話は簡単だが、現実にはテレビとネットには似ている点もあるし、そうでない点もある。意外にテレビとネットの関係は入り組んでいる。そのあたりをじっくり考えてみようということだった。

 今回は、そういう目でとらえたときの、ネット動画とテレビCMの比較である。最近の動向を見ると、ネット動画がまるでテレビCMのように感じられる瞬間が増えた。以下、そのあたりを紐解いていきたい。

15秒ソングのインパクト

 足立佳奈、と聞いてもよく知らない人もまだ多いだろう。だが10代の若者のあいだではすでに有名な存在だ。

 1999年生まれの彼女は、歌手としてはすでに4枚のCDをリリースし、バラエティ番組やNHKEテレ『高校講座 国語表現』のMCも務めている。また新しい連ドラ『チア☆ダン』(TBSテレビ系)にもレギュラー出演している。

 とは言っても、今後の活躍が期待される歌手やタレントはほかにもいる。ここで特に彼女を取り上げるのは、彼女がネット動画で注目されたということがあるからだ。

 足立佳奈がブレークしたきっかけは、自分のツイッターアカウントにアップした一連の自作「15秒ソング」だった。なかでも2017年2月に投稿された下記の動画は中高生のあいだで一躍評判になり、これをもとにした曲「笑顔の作り方~キムチ~」でメジャーデビューを飾った。

 「15秒の楽曲」と聞くと珍しい印象もあるが、私たちはその長さの音楽を日常的に耳にしている。CMソングである。CM用につくられる曲もあるが、タイアップによって楽曲の一部が使われる場合もある。たとえば1990年代の小室ブームは、JR東日本のCMで流れてメガヒットとなったglobeの「DEPARTURES」(1996)などタイアップによって支えられた面が大きいのはご存知の通りだ。

 ただ、足立佳奈の場合は、順番としては逆である。最初は15秒が楽曲そのものの長さだった。そしてそれがCD用の拡大バージョンとなった。いずれにしても、15秒ソングのインパクトは大きかったのだろう。その後も彼女の楽曲は企業CMとのタイアップにたびたびなっている。

 実は、私自身動画の長さについてこれまであまり気にしたことがなかった。長かろうと短かろうと、面白いものは面白い。そう思っていた。

 確かにそうなのだが、最近の傾向を見ると、どうも動画はどんどん短くなっている感じがする。そんなショートムービーの長さは何通りかあるのだが、なかでも特に今回気になったのは、いまふれたような15秒の動画である。

個人のプロモーションビデオ?

 実際、いま15秒動画の勢いはほかでも目立っている。

 中国発で、2017年夏に日本でもサービスを開始したTik Tok(ティックトック)という動画のSNSがある。Twitterなどは文字テキストが基本だが、こちらは動画を共有して互いにフォローしたり、「いいね」やコメントをつけたりして盛り上がる。その動画の長さの基準が15秒である。

 大量にアップされる動画の出演者は若者中心だが、家族総出で出演するものもあれば、年配のひとが出演するものもある。動画のテイストも多様で、可愛さを強調するものもあれば、軽く笑わせたりちょっとした仕掛けで驚かせたりすることを狙ったものもある。

 そして重要なのは、「15秒ソング」と同様、音楽が基本にあるということだ。動画作成の際、ユーザーはまず好きな楽曲を選ぶ仕様になっていて、その曲を踏まえて動画が撮影される。

 たとえば、このTik Tokでは一時期「口パク」動画が話題になった。流れる楽曲に合わせて口パクをして、映っているひとがいかにも歌っているかのように思わせる。代表するひとりが雑誌の専属モデルも務める「ねお」である。たとえば、こんな感じ(※ここは便宜上連携してTwitterにアップされたもの)だ。流れる歌に合わせて「口パク」をし、そこに簡単な振り付けを加えたりする。これは邦楽だが、「口パク」なので洋楽を使った動画をアップしている場合も少なくない。

 そこには、企業CMならぬ個人CMの趣がある。「口パク」動画には、個人のプロモーションビデオの側面がある。全員がいわば「足立佳奈」というわけである。それぞれが「いいね」やコメントをもらおうと自己プロモーションに工夫を凝らす。動画作成にあたっては「盛る」ための特殊効果も簡単に加えられるようになっていて、編集・加工によって違いを出すこともできる。

 アメリカにもmusical.lyという動画アプリがあって、同じように「口パク」(リップシンク)動画が流行った。その意味では、プロの歌手になりきって手軽に承認欲求を満たすことのできる道具は、洋の東西を問わず人気が集まるのがいまという時代なのだろう。すっかり根付いた感のある自撮り文化の発展形と言ったところだろうか。

参入障壁の低い「ダンスコミュニティ」

 ただ、Tik Tokで数として最も多いように見えるのは、ダンス動画である。その時々で動画の素材に選ばれる頻度の高い“SNS内ヒット曲”があって、その曲専用の振り付けが存在する。

 たとえば、「#なんちゃってダンス」などのハッシュタグで投稿されているダンス動画や同じく「#手振りダンス」などのハッシュタグのものがそうだ。これらは人気動画をYouTubeにまとめたものだが、実際アプリのほうで連続して見ると音楽、振り付けともども中毒性の高さを実感できる。これもひとつの動画が長いと見るのが大変だろうが、1本15秒だとそれほどでもないのがミソだろう。

 これまでにも「踊ってみた」動画などはあった。ただしその場合は入念に練習して完成度の高いものではないと公開してはいけないような雰囲気があった。それに比べ、15秒動画だとそのあたりは寛容だ。もちろんキレキレのダンスで感嘆させるひともいるが、少々振りが怪しくてもそれほど気にはならない。また撮影場所も学校の教室や廊下、自宅の居間や自室などが多く、全体にリラックスした感じが伝わってくる。

 まさに「ダンスコミュニティ」と言ったところだろうか。昨年(2017年)荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」を元にした「バブリーダンス」のブームがあったが、それなどよりも明らかに参入障壁は低い。さまざまな人々が思いのままに踊るダンス動画を延々見ていると、「日本人はいつどこでも踊るようになったんだなー」と妙な感慨を覚えたりもする。

[17]そして「バブル」はノスタルジーになった――「トレンディの法則」「バブリーダンス」「とんねるずのみなさんのおかげでした」…

 要するに、Tik Tokが提供してくれるのは、自己PR願望とコミュニティ願望の両方をほどよく満たしてくれる空間である。その空間が醸し出す快適さのベースには、動画の長さ、動画作成の手順、ダンスなどあらゆる面で敷居が低くなった気軽さがある。

空き時間にフィットするCM的な動画

 その気軽さは見る側にとっても同じだ。スマホをお持ちの方は、もしよければ試しにアプリをダウンロードして何分か動画を流し見してもらいたい。たとえば、「おすすめ」に挙がっている15秒動画をスワイプ(指で画面をすべらせる操作)しながらどんどん見ていくと、自分の感性に合う面白い動画や感動的な動画に偶然出会える楽しさを味わえる。それは、テレビでCMを見る楽しさとどこか似ている。番組と違ってCMもまた、ランダムに流れてくるものだからである。

 日本のテレビのスポットCMが現在のように15秒単位になったのは、1961年のことらしい(向井敏『虹をつくる男たち――コマーシャルの30年』)。それから半世紀以上の時を経て、15秒という単位は私たちが映像を体験する際の基本的身体感覚を形づくってきたのではあるまいか。

 そしていま、ここまで見てきたようにネット動画でも15秒単位のものが増えている。いまやスマホで動画を見る時代。15秒動画を見るのも仕事や授業の合間や通勤・通学中の電車といったちょっとした空き時間のことが多いはずだ。そこにうまくフィットするのは、内容的にも長さ的にもCM的な動画なのかもしれない。テレビとネットは意外なところでつながっている。

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筆者

太田省一

太田省一(おおた・しょういち) 社会学者

1960年、富山県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなどメディア、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。著書に『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論――南沙織から初音ミク、AKB48まで』(いずれも筑摩書房)、『社会は笑う・増補版――ボケとツッコミの人間関係』、『中居正広という生き方』(いずれも青弓社)。最新刊は『SMAPと平成ニッポン――不安の時代のエンターテインメント 』(光文社新書)、『ジャニーズの正体――エンターテインメントの戦後史』(双葉社)。

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