ヘイトスピーチは、信号がない中で起きた大事故。差別禁止法制が必要だ
2018年08月02日
公人によるLGBTへの差別発言はこれまでもたびたび繰り返されてきたが、ここ数年は社会での認知の広がりもあり、SNSなどで炎上し、すぐに謝罪や弁明に追いこまれることが続いた。だが杉田氏は、この論稿への批判や謝罪を求める声が大きくなった現在でも、一切会見や謝罪などは行わず、沈黙を貫いている。
私はこの杉田氏の主張を目にしたとき、2010年に当時の石原慎太郎東京都知事が同性愛者について行った差別発言のことを思い出した。石原氏は「(同性愛者は)どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」と発言し、当事者たちから批判を受けたが、あまり大きく社会問題化することはなく、謝罪をすることもなかった。
あれから約8年。杉田発言については、あまりの無知、無理解そして偏見による明らかなヘイトスピーチで見過ごすことはできない、という声の広がりの大きさに正直驚いている。社会の中でLGBTの受け入れが進んでいることが感じられる、嬉しい驚きだ。それと同時に、石原発言と杉田発言の違いについてもおさえておく必要がある。
石原氏の差別発言は、本音がぽろりと出てしまった、失言の類のものだと理解している。もちろん失言だからといって許されるものではない。一方で杉田氏の主張は、推敲を重ねた文章のはずであり、また編集者も関わったであろう、雑誌における掲載だ。失言レベルのものでは全くなく、確固たる信念を持ってマイノリティへの差別を扇動する文章だ。それこそ「度が過ぎて」いて、看過することはできない。政治家によるヘイトスピーチは、一般市民に与える社会的影響力がきわめて大きいからだ。実際に、杉田氏はこのようなヘイトを喜んで消費し拡散する一定の層を意識して発言していると思われる。
今回、多くの人が杉田氏の主張に対して大きな怒りや悲しみ、恐怖を表明している背景には、過去に出演したインターネット番組で、「同性愛者の子どもの自殺率が6倍高い」ということを半笑いしながら語る動画が出まわったことがある。雑誌に載った文章と、声のトーンや表情、共演者の同調や笑いといった生の情報で語られる動画とでは、同じヘイトスピーチでも受けとる情報量が圧倒的に違う。問題の動画を見て、「背筋が凍った」「怒りや絶望の感情に押しつぶされそうになった」「死にたくなった」などの声が多くの当事者から聞かれた。
杉田氏が所属する自民党の姿勢も問われている。自民党が2016年にまとめた「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」の中でも、「当事者の方が直面する様々な困難に向き合い、課題の解決に向けて積極的に取り組むことが求められている」と盛り込まれている。杉田氏の主張は、困難の現状を矮小化し、それ自体がLGBTの苦しみを増幅させるものであり、党の方針に明らかに反している。
だが、二階俊博幹事長は記者会見でこのことについて問われると、「人それぞれ人生観、考えがある」と問題視しなかった。公党として杉田氏の差別発言をとがめない態度は、差別を容認していると受けとられても仕方があるまい。政治家、政党は差別とたたかう責任があるはずなのに、その責任を放棄しているのだ。自民党北海道連は、地元のLGBT支援者の団体からの要求に答える形で、「差別するような寄稿は遺憾」「党本部に適切な対処を求める」と回答。党内の地方からも、党としての対応を求める声が出始めた。
党本部の動向に注目が集まる中、
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