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呉座勇一氏が溺れた「フェミ・リベラル叩き」というマノスフィアの“沼”

女性を見下す快感を求めて肥大するネット内ボーイズクラブ

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 歴史学者の呉座勇一氏が、Twitterのアカウントで、英文学者の北村紗衣氏等に対するハラスメントと誹謗中傷を長年にわたって繰り返していたことが発覚し、大きな問題になっています。

 呉座氏は、『応仁の乱──戦国時代を生んだ大乱』等のベストセラーもあり、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証担当という大役に抜擢される(3月23日に降板)等、活躍著しい歴史学者です。

 そのような知識人が、アンチフェミニズム・アンチリベラル派のネット論者とコミュニケーションを密にしながら、女性バッシングやリベラル派バッシングを繰り広げる「エコーチェンバー」にどっぷりと入り込んでいました。
(※なお、彼らが言う「リベラル」とは、社会の不合理を知性によって変革していこうとする思想「進歩主義」を持つ人々という意味に近いのですが、ここではそれを訂正することなく、彼らの定義を踏襲して話を進めます)

歴史学者の呉座勇一氏歴史学者で国際日本文化研究センター助教の呉座勇一氏

「ネットミソジニーカルチャー」の特徴

 インターネット上(主にTwitter)で、女性差別に声を上げる女性、フェミニズム、リベラル派に対するバッシングを“娯楽”とするカルチャーは、匿名アカウントを中心に以前から存在したものの、近年その勢いを増しています。

 彼らは「女尊男卑社会で虐げられている僕たちは被害者」「リベラルは所詮欺瞞」といった観点で、フェミニズムや進歩主義的視点から社会の不合理を批判する人々に対し、誹謗中傷、デマの流布、シーライオニング(Sealioning=一見礼儀正しく振る舞いながら嫌がらせ目的で粘着すること)を繰り返します。

 そして、こうした自分たちの言動を批判されると、「ヒステリック」「感情的」「お気持ち」というトーンポリシングや、「対話する気がない」「対立を煽っている」「分断を進めている」「だからフェミ・リベラルは世間に受け入れられない」というレッテルを貼って、仲間内で嘲笑するのが、彼らの典型的な行動パターンです。

批判した人々に矛先を向け、間接的に差別や蔑視を擁護

 また、差別や蔑視を含んだ広告や発言に批判が殺到して、取り下げたり関係者が辞任に至ったようなケースでは、「ネットリンチ」「多様性を否定している」「気に食わない奴等を排除しようとしている」「怒りの暴走」「フェミナチ」「ポリコレファシスト」などと、批判した人々に矛先を向け、間接的に差別や蔑視を擁護します。

 真剣に議論をしようとしても、ひたすら揚げ足取りをしたり、言葉の定義を自己都合で大きく変化させたり、次元の違う話を同じテーブルの上に乗せて「矛盾している!」「ダブスタだw」「ブーメランだw」と罵ったり、見下そうとしてくるので、まともにコミュニケーションを取ることはできません。
(※具体例を知りたい場合は、2020年2月に発生したひろゆき氏とのやり取りをフランクにまとめたnoteの私のエッセイをご覧ください。ひろゆき氏は「マノスフィア界隈」の人物ではないと思いますが、日本のマノスフィアは2chの影響を色濃く受けているため、論法はかなり似通っています)

アメリカで広がるマノスフィアが日本でも広がっている

rio hadukishutterstockrio haduki/Shutterstock.com

 アメリカでは、このようなインターネット上における反フェミニズムコミュニティーは、『マノスフィア』(manosphere)と言われ、新しい社会問題になっているようです。

 とりわけ、マノスフィアの一種である『インセル(非モテであるがゆえに不本意ながら性的に禁欲を強いられている男性という彼らの自称)』が過激化して、無差別殺人事件すら相次いでいます(これに関しては八田真行氏の記事「凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題」(現代ビジネス)がとてもよくまとまっています)。つまり、女性に対するヘイトクライムです。

 日本はここまで過激化はしていないものの、その「日本版マノスフィア」とも言うべき場の周辺に、

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