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田中聖香
田中聖香

ネオナチ支持が急増、対応迫られるドイツ

2013年01月04日

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 ドイツ東部のメクレンブルク=フォアポメルン州を家族と旅行した。一昨年夏のことだ。車で走っていると、一定間隔で街灯に貼り付けられているポスターが目につく。濃いグリーンに白抜きで「NPD」の文字。「あっ、ネオナチだ」と、ドキリとした。そう、ドイツの極右政党、ドイツ国家民主党のポスターだったのだ。

 高校生の息子も目ざとく見つけて、「イヤだなあ」と顔を曇らせる。アジア人だからと、いきなり路上で袋叩きにされることはないだろう。しかしNPDがこんなにおおっぴらに広報活動ができるのは、地元に一定数の支持者がいるからに違いない。私たちはドイツ西部のオランダ国境近くに住んでいるが、こんなに堂々と極右政党のポスターを見かけたことは1度もない。「東独地域にネオナチが多い」という通念を確認した瞬間だった。

 それから1年あまり、極右支持者は減るどころか静かに増え続けていることが、最新の世論調査で明らかになった。ドイツ全域で約2500人を対象に行った調査で、回答者の9%が極右思想を支持していることがわかったのだ。2年前の前回調査と比べ0.8ポイントの上昇である。特に東ドイツ地域で、前回の10.5%から今回15.8%へと急増しているのが目立つ。

 年齢別に見ると、15歳〜30歳の年齢層に支持者が多く、学歴別の内訳では高学歴者ほど支持者が少ない。学校で落ちこぼれ、恐らくは家庭にも問題がある青少年たちが極右思想に取り込まれていく姿が浮き彫りになる。調査を実施したフリードリヒ・エーベルト財団(ドイツ社会民主党の外郭団体)は「極右は社会の辺境ではなく、ど真ん中にある問題だ」と警鐘を鳴らす。

 なかでもNPDは、極右政党としてじりじりと力をつけている。党員数約6000人、ザクセン州とメクレンブルク=フォアポメルン州の議会に議席を持つ。「ドイツ人のためのドイツ」を標榜し、移民やグローバル化に異議を唱える政党だ。従来は小数派で目立たなかったが、州議会に進出して公に国家の助成金を受け始め、政党として急激に勢いをつけた。

 ホームページの写真では幹部がスーツ姿で微笑み、党主催の“夏祭り”では子供用アトラクションまで用意して家族ぐるみの参加を呼びかける。女子のネオナチ化も進み、2006年にはNPDの下部組織として女性団体RNFを結成、男性とは違う独自のネットワークを生かして女性支持者の拡大を目指す。活動の多様化、重層化が進んでいるのだ。

 こうして極右が着々と勢力拡大を続ける中、追い討ちをかけるように行政で前代未聞のスキャンダルが発生した。国内の諜報活動を管轄する連邦憲法擁護庁が、極右関連のファイル7冊を廃棄していたことが判明したのである。このファイルはネオナチ過激派の「国家社会主義的地下組織」(NSU)が、過去11年間にわたり外国人と警察官計10人を射殺した事件に関するもの。この事件を連邦検察庁が捜査開始した翌日に、庁内の何者かが書類をシュレッダーにかけたという。

 同庁のハインツ・フロム長官は「まったく理解不可能」とコメントして職を辞し、ほかにも3人の責任者が引責辞任しているが、理解不可能と言いたいのはむしろ一般市民だろう。擁護庁と極右の密かなつながりを取りざたされても仕方がない。両者の限りなくグレーな関係の解明には、長い長い時間がかかるだろう。

 ただ、ここにきて政治が党を超えて極右撲滅に向け動き出したのは、明るい材料だ。12月14日、国内の全16州で構成する連邦参議院が、連邦憲法裁判所にNPDの活動禁止を申請することを賛成多数で承認したのである。ドイツではヒトラーが選挙により合法的に政権の座についたことへの反省から、民主主義を否定する思想を認めない「闘う民主主義」を基本法(憲法)で認めている。NPDを違憲として封じ込めることができれば、右傾化に歯止めをかける大きな一歩になるだろう。

 民間レベルでも、極右反対を表明する市民の輪が大きく広がっている。最新の世論調査では国民の73%がNPD禁止に賛成し、昨年11月にケルンで開かれた反ネオナチの音楽イベントには7万人が結集して団結を誓った。

 また、元ネオナチの青年の自伝が昨秋出版され、青少年の啓蒙に大いに貢献している。この男性は今年30歳になるヨハネス・クナイフェルさん。高校生でネオナチに傾倒、酔った勢いで中年男性を殴打し、傷害致死の罪で4年の刑に服した。現在は完全に更生して神学校に通っている異色の存在だ。

 病気の両親を持ち貧しい家庭に育ったクナイフェルさんは「自分にはそれまで誇れるものがなかった。極右思想では『ドイツ人であること』『白人であること』が十分誇りになったのです」と、ネオナチに慰めを見つけた当時をふり返る。極右支持者には自分と似た家庭環境をもつ青少年が多いことから、学校や刑務所を回り自著を朗読する日々だ。極右撲滅には即効性のある政治的手段だけでなく、こうした息の長い教育的、社会的な取り組みが必要になるのだろう。

プロフィール

田中聖香(たなか・みか)

在独ジャーナリスト。愛知県生まれ。関西学院大学文学部卒、ロンドン・スクール・オブ・ジャーナリズム修了。1992年からドイツ在住。ドイツの文化・社会・アートをテーマに執筆、インタビュー記事を得意とする。一児の母。