メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

「紙のカテドラル」~NZ震災復興のシンボルが呼ぶ波紋

クローディアー真理

WEBRONZAの最新情報をチェック!

 2010年9月4日にマグニチュード7.1、そして2011年2月22日に同6.3の大地震が、ニュージーランド第二の都市、クライストチャーチを含む、南島カンタベリー地方を襲った。市の中心部の被害は特に深刻さを極めた。現在も、決められたルートを徒歩で見学する以外、一般人の立ち入りは禁止されている。

拡大大地震前のクライストチャーチ・カテドラル。19世紀後半、ここを中心に町は広がっていった=(C)Dianne Pike

 瓦礫の撤去作業が進む町の中央にかろうじて立つクライストチャーチのシンボル、クライストチャーチ・カテドラル。2011年の大震災で、空に向かってまっすぐ伸び、美しい姿を見せていた尖塔部分が倒壊し、地元や国内はもとより、このカテドラルを訪れたことのある海外の人々に大きなショックを与えた。

 このカテドラルの当面の代わりとして、日本人建築家、坂茂氏の手による仮設カテドラルの建設が計画されている。復興のシンボルとなり得るこのプロジェクトだが、市民の反応はさまざまだ。

 向こう10年間の予定で、信者たちの祈りの場となるのは「紙のカテドラル」。これには、過去に世界各地で災害救援プロジェクトを出がけたことで知られる、坂茂氏がカテドラルのスタッフとの約3ヵ月の話し合いの末、2011年7月末に発表したものだ。主な素材は紙製チューブ。もともとのカテドラルの平面と立面のジオメトリーを意識し、同じ長さの紙製チューブの角度を徐々に変化させ、三角形の断面を形成したつくりになっている。

拡大「紙のカテドラル」のモデルの外観。紙とは思えない落ち着きと温かみが感じられる=(C)Shigeru Ban Architects

 「紙のカテドラル」は、サステイナブルで環境に優しく、安全で耐久性に優れ、美しく革新的で、しかも用途が広範な仮設カテドラルを造りたいという、カテドラル側の多くの希望を形にしたものだ。収容人員は700人で、建設には3ヵ月かかる。風雨や積雪はもちろん、火事や地震に対しても十分な耐久性があるという。材料となる紙製チューブは地元ビジネスをサポートしようと、市内で製作。役目を終えた際はリサイクルする。気になる建築費は約400万NZドル(約2億4,000万円)で、すべてカテドラル側が負担する。

複雑な被災者の心中

 崩壊してしまったカテドラルは、ゴシック・リバイバル様式の建築物を多く設計したことで知られる、英国のジョージ・ギルバート・スコットがデザインし、19世紀後半に建設された、伝統的なスタイルだ。それに比べ、デザイン、素材ともに斬新でモダンな仮設カテドラルには、賛否両論が寄せられている。

 「素晴らしいデザイン。ぜひこのプロジェクトをサポートしたい」「これがきっかけとなって、復興作業が迅速に行われるようになると良いと思う」「10年間そこにあれば、観光客召致の役に立つようになるはず」と、賛成する市民がいるのは事実。しかし、多くの人が反対、懸念しているのは、その費用だ。

拡大「紙のカテドラル」のモデルの内部。今年のクリスマスはこんな仮設カテドラルで祝われることになる=(C)Shigeru Ban Architects

 「これだけのお金を仮設カテドラルにかけるより、教会として今も困っている被災者に助けの手を差し伸べるべきではないか」「仮の建物に莫大なコストをかけずに、被害を受けたカテドラル自体の修復、再建費、または新築費にまわすべき」と、手厳しい。

 被災者は、大地震と、現在も続く余震のため、今も物理的、精神的ダメージを受け続けている。そんな中、巨額の費用をかけて、紙製の仮設カテドラルを建設する意味はあるのかというのが、反対者の大方の意見だ。

建設予定地の問題も

 費用のほかに、2011年12月初めに浮上したのが、仮設カテドラルの建設予定地の問題だ。カテドラル側は市内にある165ヘクタール のハグレー・パークの一画に建設したいと希望していた。これに関しては同市の評議会が認可するか否かを決定することになったが、評議員の意見は二つに分かれている。

 「復興作業全体が思うように進まない中、ハグレー・パークを提供し、このプロジェクトが実現すれば、市民にとって励みになるのではないか」という見方がある一方で、「同パークで行われる大きなイベントの妨げになる」「市の土地を一団体に10年間貸すというのはあまりにも長期間に過ぎる。これを前例としてほかの団体から同様の要望があった場合対応できない」という評議員もいた。

 カンタベリー地方の地元紙である、『ザ・プレス』が行った世論調査によれば、カテドラルは市のシンボルなのだから、市の土地を使っても構わないという人が全回答者の27.5パーセント、市の土地ではなくカテドラルの所有地を使うべきと答えた人は72.5パーセントという結果だった。

拡大2011年11月末時点のカテドラル。12月23日の地震でさらにバラ窓を含む西側の壁面が崩落した

決定後も続く論争

 1月4日、カテドラル側は6月までに完成の予定で、「紙のカテドラル」の建築に踏み切ることを発表した。予定地は物議を醸したハグレー・パークではなく、地震の影響でさら地となった英国国教会の土地。この決定について、「気が違ったとしか思えない」「今やらなくてはいけないことを分かっていない」と、反対する市民はさらに語気を強めている。そしてそれは英国国教会への非難にもなりつつある。

 2度の大地震、そして多発する余震の中、被災者を支えたのは何だったか。それは市民ひとりひとりのいたわりの心だったはずだ。自分のことは後回しにしてでも、ほかの人を助ける、ごく普通の人々の姿は印象的だった。町の再建が始まった今、必要とされているのは震災直後同様、人々の結束なのではないか。仮設カテドラルをめぐって、市民が二分されてしまうのは、あまりにも残念なことだ。


筆者

クローディアー真理

クローディアー真理(クローディアー・マリ) フリーランスライター、ニュープリマス

フリーランスライター。ニュージーランドの北島、ニュープリマス在住。東京で編集者・ライターとして勤務後、1998年ニュージーランドへ。地元日本語誌2誌に携わり、ニュー ジーランド航空や観光局発行の媒体やウェブサイト、ガイドブックや留学情報誌などへ寄稿。現在はエコ、 育児・教育、文化、時事問題などの分野で執筆活動を続ける。

クローディアー真理の新着記事

もっと見る