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ポスト・テレビ時代への模索 新しい「ニコ動モデル」構築へ~『Journalism』2月号より

 朝日新聞が発行するメディア専門誌『Journalism』2月号からお届けします。特集は「〈ポスト地デジ〉テレビの未来」です。2月号の内容(目次)はこちらhttp://www.asahi.com/shimbun/jschool/report/new.htmlからご覧ください。

 関連の番組が2月16日(木)19時からニコニコ生放送されます。詳細はhttp://live.nicovideo.jp/gate/lv80542153で。こちらもご覧ください。

ポスト・テレビ時代への模索 新しい「ニコ動モデル」構築へ

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杉本誠司(すぎもと・せいじ)

株式会社ニワンゴ代表取締役社長。

1967年東京生まれ。

桜美林大学経済学部卒。

ウェザーニューズなどを経て、

03年株式会社ドワンゴ入社。

05年ニワンゴ設立(ドワンゴ子会社)

06年より「ニコニコ動画」を運営。

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 近年、テレビや新聞に代表される既存のマスメディアとインターネット事業者のウェブサービスの「関係値」が急速に接近している。代表的な事例が、東日本大震災発生時、テレビ局とウェブサービスが連携し、未曽有の大災害を報じた特別報道番組をインターネット上で同時配信したことであろう。これについては、本誌「Journalism」昨年10月号の拙稿で詳細に報告した。多くの人たちはこの事例を目の当たりにして、インターネットがテレビに代わるメディアになったと確信し、ネット事業者がテレビ局に取って代わる時代の到来を予見し始めた。

拡大ニコニコ生放送に出演した民主党の小沢一郎・元代表。ユーザーが書いたコメントが画面上に流れる

 確かにこの数年でインターネットやそこに介在するネット事業者が、社会に影響を与える割合はことさらに大きくなっており、従来のマスメディアで扱われていた情報やコンテンツをウェブサービス上で目にする機会も格段に増えている。仮に、こうした情報やコンテンツの存在だけが影響力を増す要因なのであれば、従来通りのテレビ局や新聞社といったマスメディアがインターネット上でも莫大な影響力を持っていてしかるべきであるが、むしろコンテンツとともにクローズアップされるのはネット事業者や彼らが展開するウェブサービスの存在である。

 本稿では、従来のマスメディアを担ってきた事業者とインターネット事業者がどのような関係になってメディアサービスを実現することが望ましい姿なのかを考察したい。

ネットインフラとは情報交換の通信回線

 これまでは、新聞であれば紙の出版媒体による情報やコンテンツの提供、テレビであれば地上波放送を主としたテレビ受像機に対する情報やコンテンツの提供が、あたりまえのメディア行為として行われてきた。しかし、近年のインターネットの急速な普及によって、これらの行為の提供先がインターネットという新たな情報流通経路となる傾向が強くなってきている。ここ数年顕著になってきたニュースのウェブ提供や電子版新聞の発行、テレビ番組のオンデマンド配信がそれらを代表するものとなるのだが、現段階の評価としては、うまくいっているとは言い難い状況である。その理由は、既存のマスメディアが情報やコンテンツの流通に使用してきた出版や放送というインフラ(経路)は同報かつ広域的に情報を発信することを目的に作られたものであり、メディア構造自体、こうしたインフラの特性に基づいたものとして構成されているからである。

 マスメディアからの情報は完成度の高いものが発信されているという前提、あるいは想定のもとで、受信者側(読者や視聴者)が発信者側(マスメディア)から情報を受け取るという関係性がある。言い換えれば、発信者側が受信者側からの異論や反論を基本的には受け入れないという構造がある。もちろんこれはメディア側たる作り手の意向がそうなのではなく、インフラの特性を考えれば至極あたりまえの「仕様」となる。

 これに対して、インターネットをつかさどるインフラはもともとは電話のためのもので相互の情報交換を前提とした通信回線であり、「話し合い」といったことが前提となる構造を持つ。そもそも、まったく違う役割を担うものといえる。しかしながら、我々の社会はインターネットの普及と同時に、技術的に可能であるという見地から、この通信回線を従来のメディア行為を成立させるためのインフラとして整理と整備を行ってしまった。これが、いわゆる「放送と通信の融合」なのである。

 この施策そのものは我が国のインターネットインフラの普及に対して大きく貢献した行為であり、否定するべきものではないが、コンテンツの提供ではなく放送の代替というイメージが先行したことで、既存のマスメディアに携わる人々に対して、インターネットという場と機能の間違った解釈を刷り込んでしまったのではないかと考えている。つまり、既存のメディアインフラの代替という前提でインターネットに情報やコンテンツを発信するという行為の結果、先述した「うまくいっているとは言い難い状況」という評価になってしまったのである。

コミュニティーを形成し意見交換を行う場

 一方、インターネットのウェブサービスが社会に大きく影響を与えるに至った要因について考えてみる。わかりやすい事例として影響力が特に顕著なツイッターやフェイスブックを例にとってみると、これらのサービスに共通して組み込まれ、最も重要な機能として認識されているのは、個人の自由な情報発信と情報共有機能であり、情報に対しての共通認識をもって共鳴するユーザー同士にコミュニティーを形成させ、意見交換を行う場所を作り出すことである。これは現在の最もホットなバズワード「ソーシャル」を体現する機能である。

 情報発信は常に発信者を取り囲むオーディエンス(視聴者)を意識して構成され、オーディエンスの反応ありきで発信された情報は増幅し話題性を大きくする構造となっている。インターネット上で名を馳せるウェブサービスには、この「ソーシャル」の仕組みが巧みに組み込まれているのである。2ちゃんねるやヤフーであれば、掲示板やオークションの機能がそれにあたり、アマゾンではカスタマーレビューなどである。もちろんニコニコ動画においても「コメント」という最も重要な機能として実装が施されており、動画視聴時に同時多発的に複数の投稿コメントを画面に表示する。投稿情報の一覧性を高めることによって、オーディエンスの共有体験感を一層盛り上げる仕組みをユーザーインターフェースとして取り入れているのが特徴である。

 これらは、情報やコンテンツの投稿行為に対するレスポンス(返信)にはじまり、リツイートやフィード、「いいね!」ボタン、掲示板への書き込み、あるいは応援、入札などアプローチの形は様々であるが、どの機能も「ソーシャル」意識を加速させるものであり、コンテンツそのものもこれらの反応で評価される。すなわち、これらのサービスでは、インターネットインフラの最大の特徴であるインタラクション(相互作用)行為が構造上の大前提として意識され、従来でいう提供者がすなわち主役側となり得ることがサービスを成功に導く共通要因となっているわけである。

 これらの成功要因を認識するには、インターネットという環境の前提条件を感覚的に理解できていなければならないといえる。インターネットとはまったく違う非双方向でのインフラ環境において、情報やコンテンツの配信を行っていた既存メディアが、ノウハウのない状態で単独で乗り込むべき場なのかどうかは大いに議論の余地があると感じる。

 前置きが長くなったが、本稿の本題となるテレビとニコニコ動画の「関係値」について話を進めてみる。

 既存メディアとネット事業者たるニコニコ動画がどのように役割分担や関係を築くかという議論については、2010年から11年にかけて立て続けに起きた、テレビメディアを差し置いたネット先行型の情報公開と発信という事件、すなわち、海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突映像(「尖閣ビデオ」)のユーチューブへの流出や、ウィキリークスによる機密情報のネット公開、そして小沢一郎・元民主党代表のニコニコ動画によるネット単独会見などによって急に加速したと感じ取ることができる。

フジテレビとニコ動の連携

 このときの焦燥感を表しているのか、これらの事実を報道する既存メディアの多くは、「スクープ」という言葉は使わず、「リーク」を意味する言い回しを用いていたことはとても印象深い。そのうえで、テレビとネットの関係に対する新たな施策として一石を投じることができたのは、10年11月より始まった、ニコニコ動画とフジテレビの福原伸治プロデューサーが担当するテレビ番組「新・週刊フジテレビ批評」との連携事例であろう。

 当初は、ネットに端を発して社会的な話題になっている事象を、番組内の特集として取り上げたいという取材と出演の依頼があった。しかし、打ち合わせを進める段階でニコニコ動画の生放送を番組構成の一部の要素として取り入れてみようというアイデアが浮上した。「新・週刊フジテレビ批評」の地上波放送開始30分前から、事前打ち合わせと称して番組のゲスト出演者と福原氏を交えて、フジテレビ内からニコニコ生放送「新・週刊フジテレビ批評・批評」を実施、すぐ後に地上波で放送される番組内容についてネットユーザーや番組視聴者といったオーディエンスを交えて議論を行おうというものであった。

 30分後の地上波放送開始からはニコニコ生放送はいったんフジテレビの番組そのものの配信を止めてしまうが、「新・週刊フジテレビ批評」の地上波放送終了までネット上での書き込みなどは継続してできるようにした。つまり、ユーザーはテレビ受像機で放送を見ながら、それに関する感想や意見などの議論をニコニコ生放送上で交わそうというものだった。この段階ではテレビ映像そのものをネットで同時に配信したり、番組の進行にネットの意見をリアルタイムに反映したりするなどの対応はまだまだ局側の理解を得られなかったものの、テレビ番組とウェブサービスに直接かかわる当事者が意識的に連携し、それぞれの機能と役割をもってテレビコンテンツのインタラクティブ化に成功した初めての事例といえる。それ以後、この試みは3カ月から6カ月の間隔で繰り返し実施され、細かな部分での改修を加えながら現在も継続されている。

「クローズアップ現代」との連携も実現

 さらに、同様の大きな転機となった事例に11年3月10日に実施したNHK「クローズアップ現代」(テレビはいらない.~急成長するインターネット放送~)との連携があげられる。ここでは、番組の知名度に加え、新たな試みが組み込まれた。フジテレビ「新・週刊フジテレビ批評」との連携の課題として、ニコニコ生放送は地上波放送の前と放送中だけでなく、地上波放送の終了後にも継続して実施する方が、オーディエンスの理解度も増して議論が盛り上がるのではないかということがあった。これについてはフジテレビ側の編成上の都合もあり実現には至らなかったのだが、NHKとの連携実施に際しては、さらなる効果を狙うために地上波放送の前後にニコニコ動画の生放送番組が組み込まれ、合計3時間におよぶ連携コンテンツを形づくることとなった。

 今回の試みとして投入された地上波放送後のニコニコ生放送は2時間におよび、NHK側の出演者として、制作当事者であるプロデューサー(細田美和子氏)とディレクター(篠田洋祐氏)を迎え、NHKがなぜこうしたテーマに切り込んで番組を制作したのか、ネットサービスに対するNHKの所感、視聴者やネットユーザーに伝えたかったことは何か、などを出演者やネットユーザーと語り合った。オーディエンスとの対話の機会を取り入れた、このNHKとの取り組みは大いに評価された。関心の高さは数値にも顕著に表れた。この連携におけるニコニコ生放送の総視聴数は22万人を数え、内容や出演者に対する視聴レスポンスとしては驚異的な数字となった。

 これらの経験を通じて、テレビがインターネット化するプロセスにおいて重要な要素となる、オーディエンスをコンテンツに対していかにインタラクションさせるのか、また、その様子をいかに共有させるのかという点が、連携に携わった放送事業者たるテレビ人に対して少しずつではあるが確実に浸透し始めたと感じている。

ニコ動に求められたのは情緒的な情報共有と交換

 そして、その放送翌日の11年3月11日、冒頭で述べたとおり東日本大震災という未曽有の災害が発生。これまでの各局との連携による経験と信頼関係に基づき、震災報道の同時配信が実現したのである。期せずして大きなハードルを一足飛びに超えてしまったわけだが、それは大きな勘違いを誘発しかねない事態にもなった。

 震災後の地上波特別報道番組のネット視聴者はフジテレビ番組で累計200万人、NHK番組では実に累計1000万人に及んでいる。多くのメディアはこの事象をインターネット(メディア)のテレビ化であり、マスメディア化(テレビメディア化)として評価し報じた。当事者である我々も当時はニコニコ動画のマス化が実現した瞬間として一時はこの事象をとらえていた。

 しかしながら、オーディエンスの映像を視聴する動きそのものはテレビと同じように映るものの、ニコニコ動画を通してコンテンツと対峙するオーディエンスが真に求めたものは、映像に内包された詳細な震災情報の摂取よりも、むしろ映像を通して情報を受け取るオーディエンス相互の震災に対する不安や恐れ、あるいは安堵、感想や疑問などの情緒的な情報の共有と交換であった。それを得るためにオーディエンスはニコニコ動画(生放送)というインターネットを介したインタラクティブな環境において震災情報に接触することを選択したのである。

 正確な数字は把握できていないものの、多くのオーディエンスがテレビ放送による震災報道を視聴しながらも、ネット上での同時配信も視聴したという事例は、コンテンツは同じであれ、テレビメディアに求めるものとネットメディアあるいはウェブサービスに求めるものが役割として違うものであり、使い分けが生じていることを表していた。この点は今後、「ポスト・テレビ」や、「テレビのインターネット化」、あるいは改めて「放送と通信の融合」を具現化するにあたっても非常に重要な思考ポイントになることと理解しておきたい。

 その後、11年11月14日より1週間にわたったNHK・Eテレ(教育テレビ)との連携も、これまでの取り組み実績が評価されたうえで、さらに次のステップを模索するための試みとなった。ここでは、これまでの報道系の番組とは異なるエンターテインメント要素を含んだ情報系、教育系の番組との連携を試みた。現場の関係者間での意見交換では、親和性の高さも双方の認識として明らかになる場面もあり、我々としても新たな発見につながる取り組みとして、このステップを評価する。

テレビを見ながらニコ生を同時視聴

 こうした意識的な連携事例とは少し方向性が変わるものの、テレビコンテンツのネットにおける活用としては非常に興味深い事例もある。11年7月1日以降、テレビ地上波で映画番組を放送する際、ニコニコ動画ではその放送時間に合わせて生放送を用い、裏番組的にこの映画番組の解説番組を配信した。

 テレビを見ながらニコニコ生放送を同時に視聴することで、コメントのやりとりによる映画コンテンツに対する意見交換を可能とし、オーディエンスに共有視聴体験を疑似的に成立させる試みだ。話題性のあるアニメーション作品では大きな来場者数(ユーザー・ビュー)が得られるほか、映画以外のスポーツ系実況番組などでも顕著な数字が得られた。

 なかでも、11年12月9日に日本テレビ系列でスタジオジブリ制作のアニメ映画「天空の城ラピュタ」が放送された際には、終盤で主人公が発する「バルス」というセリフ(呪文)を、様々なソーシャル系ウェブサービスのなかで各ユーザーが同時多発的に発信するというイベントが行われ、ネット全体で大々的な話題となった。実際、このケースではニコニコ生放送で総視聴数71万5000人、コメント数126万3560を記録した。さらに、ツイッターでは1秒間のツイート数がこれまでの最高記録8868件/秒を大きく塗り替え、2万5088件/秒という世界記録を樹立したほどだ。

 この「天空の城ラピュタ」では、その他の事例と比べると少々出来事が大げさになり、特別な傾向がみられたものの、再放送作品を含むテレビコンテンツのインターネット環境における効果的な活用の事例として、今後のケーススタディに大いに役立つと感じる。とはいえ、このようなケースを実現させるためには、単純にコンテンツをネット上に配信することのみでは効果はでない。ソーシャル機能を伴ったウェブサービスに、それぞれのコンテンツに思いをはせるユーザー(オーディエンス)を集めている状態があればこそ、共有体験という形でサービスが成立するのである。このことを大前提として認識しなければならないであろう。

次の時代のあるべきメディアを創出

 ここまで述べた事例からも分かるように、インターネットそのものを単なる情報やコンテンツの配信を行うインフラとしてとらえるのではなく、インタラクティブなウェブサービスを行う場所としてとらえるべきである。つまり、インターネットそのものが、情報やコンテンツを伴ったソーシャル(コミュニティー)サービスとして成立するということを理解するべきである。

 テレビ向けに制作されたコンテンツがインターネット(ウェブサービス)で活用されることがあっても、テレビの代用品としてウェブサービスが同じスキームで成立することはないということだ。これまでのテレビに代表されるマスメディアのあり方とはそもそも違った成果や欲求が求められ成立する場所なのである。それゆえ、ポスト・テレビ時代を模索するにあたって、既存メディア事業者の持ちうるコンテンツスキルとネット事業者のウェブサービススキルが、お互いのアイデンティティを理解したうえでしっかりと手を結ぶことによって、リアリティのある未来イメージが見えてくるのである。

 それこそが、行き詰まった既存メディアのコンテンツビジネスモデルの行き場を探すものではなく、新たなビジネスと収益をそれぞれのマーケットに生み出すことも踏まえた、「情報・コンテンツ流通のサービス化」の実現という形で、次の時代のメディアのあるべき姿を創り出すのではないだろうか。


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