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知的財産権とメディアの問題

上治信悟

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 朝日新聞が発行するメディア研究誌「Journalism」5月号の特集は「知的財産権とメディアの問題」です。WEBRONZAでは今回、朝日新聞社の上治信悟氏による「ジャーナリストのための著作権法入門」をご紹介します。

拡大メディア研究誌「Journalism」

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上治信悟(うえじ・しんご)

朝日新聞社デジタル事業担当補佐兼知的財産管理チームマネジャー。1957年山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、ハーバード大学ケネディスクール卒。80年朝日新聞社入社。社会部警視庁担当、国税庁担当、ニューヨーク支局員、科学部次長、福島総局長、静岡総局長、販売局長補佐等を経て2010年10月から現職。

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ジャーナリストのための著作権法入門 権利の保護と利用のバランス

「自分が書いた新聞記事を勝手に転載された」「作家の文章を引用したいのだが許可はいるのか」……。私が所属する「知的財産管理チーム」は社内から寄せられる著作権に関する様々な相談にのっています。私が入社した32年前に比べると、社内はもちろん、一般社会でも著作権の意識は高まっていると感じます。その半面、著作権に関する基本的な知識がないと感じるケースは今でも後を絶ちません。

 そこで、著作権法のルールのうち、ジャーナリストなら知っておいてほしい項目に絞って紹介します。できるだけわかりやすくするため、各項目の最初に問題を出し、答えについて解説する形式にしました。問題文のケースは著作権法を説明するために考えた架空の例です。

著作物とは何か 「創作」「表現」がカギ

【問題1】

 次のうち、著作物に「○」、著作物でないものに「×」を付けてください。

(1)「スカイツリーは634メートル」という新聞記事の見出し

(2)有名な絵の複製写真

(3)最近文学賞を取った作家の新しい文体

(4)自動車の新しいデザイン

 答えは、全部「×」です。

 著作権法第2条は「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています。この定義の中心は「創作的に表現したもの」で、それらのうち「思想又は感情」「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」を著作物として保護しているといえます。

 第2条の定義を【問題1】に当てはめてみましょう。(1)の「スカイツリーは634メートル」は単なる事実の表現です。「思想又は感情」を表現したものではありません。(2)の複製写真は絵をコピーしたもので、撮影者の個性は感じられず「創作的」な表現とはいえません。(3)の文体とは「こんな文章を書く」というスタイルで、それ自体「表現」ではありません。「ネコ型ロボットでどら焼きが大好き」といったキャラクターやアイデアが、イラストや絵によって表現されて初めて著作物になりうるのと同様です。(4)は「文学、学術、美術又は音楽の範囲」に含まれません。

 なお、「文学、学術、美術又は音楽の範囲」はこれらに代表される知的、文化的精神活動全般によって表現されるものを指します。例えば、コンピュータープログラムやゲームソフトも著作物になりえます。しかし、実用品や工業製品は原則、含まれないので、自動車のデザインは著作物ではありません。ただ、物品のデザインは意匠法という別の法律で保護されます。

〈見出しの著作物性〉

 新聞記事の見出しの著作物性が争われた判例として、2005年(平成17年)10月6日の知的財産高等裁判所の判決を紹介します。この裁判では、読売新聞東京本社が、自社のウェブサイト「ヨミウリ・オンライン」の記事の見出しが、あるコンテンツ制作会社のインターネット上のサービスに無断使用されたとして差し止めや損害賠償を求めました。知財高裁は、読売新聞側が証拠として提示した見出しすべてに創作性を否定しました。例えば「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」という見出しについて、読売新聞側は「マナー」を含む言葉を対比させてリズミカルに表現しており編集記者の個性が発揮されていると主張しましたが、判決は「対句的な表現は一般に用いられる表現」「ありふれた表現の域を出ない」と退けました。また、「A・Bさん(筆者注=夫婦)、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」について、読売新聞側は夫婦の仲むつまじい様子と足湯の様子を同時に連想させるために「アツアツ」という言葉を使っており個性が表れているとしましたが、「アツアツの」以外の部分は「客観的な事実関係をそのまま記載したもの」であり「アツアツ」の表現も「通常用いられるありふれたもの」と判断しました。

 見出しは字数が限られます。判決は見出しについて「表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難い」と述べました。もっとも、「その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではない」とも言っており、著作物ではないと言い切ってはいません。また、著作物性は否定したものの、見出しは読売新聞の「多大な労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したもの」「法的保護に値する利益」などとして民法第709条の不法行為を認め、約24万円の損害賠償を命じました。

〈新聞記事も著作物〉

 著作権法は第10条第2項でも「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物ではないとしています。「じゃあ、新聞記事は著作物ではないのか」と思うかもしれませんが、そうではありません。訃報のように誰が書いても同じになるようなごく短い記事などを除き、記事の中でどの事実を取り上げるか、どのような順番でどのような構成にするかなどに価値判断が入ることから、創作性があるとされています。日本経済新聞社が記事を無断で要約・英訳され、配信されたとして情報提供会社に対し損害賠償を求めた裁判の判決で東京地方裁判所は1994年(平成6年)2月18日、日経の主張を認め、「客観的報道であっても、選択された素材の内容、量、構成等により、……著作者の賞賛、好意、批判、断罪、情報価値等に対する評価等の思想、感情が表現されているものというべきである」と述べました。

著作権は「権利の束」 難しい「翻案」の判断

【問題2】

 次のうち、誰の許可も得ることなくできることはどれですか?

(1)新聞の記事をコピーし、社内会議で配る。

(2)有名作家が描いたイラストをダウンロードして自宅のパソコンの「壁紙」に使う。

(3)(2)のイラストを自宅から友人30人にメールで送る。

(4)最近出版された小説を原作にして映画を製作する。

 答えは(2)です。

 著作権法は著作物を創作する人を「著作者」とし、「著作権」で保護しています。「著作権」は「権利の束」と呼ばれ、コピーや複写をする「複製権」、テレビやインターネットなどに流す「公衆送信権」、原作を元に「二次的著作物」を創作する「翻訳、翻案権」など様々な権利があります。詳しくは表1を見てください。「著作権者」の許可なく複製などの「利用」はできません。【問題2】の(1)は複製権、(3)は公衆送信権、(4)は二次的著作物の創作権を侵害しています。

 一方、著作権法は許可なく利用できる例外も認めており、代表的なものが(2)のような個人や家庭内など限られた範囲での「私的使用のための複製」(第30条)です。「私的使用」とは「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」と定義されています。会社の会議で配布するためにコピーすることは個人的な使用には該当しません。友人30人に送信する場合は公衆送信と考えられるので定義に当てはまらないと思います。また、私的使用の複製ともいえないため、複製権侵害の問題も生ずるでしょう。

拡大表1

 なお、たとえ私的であってもインターネット上に違法にアップロードされている動画や音楽に関しては、それが著作権を侵害しているコンテンツだと知りながらダウンロード(複製)することはできません。ネット上に違法動画や違法音楽があふれていることから2009年に加えられた規定です。

 著作権を侵害した場合には民事訴訟で損害賠償を求められたり、侵害する行為(例えば無断出版)を差し止められたりすることがあります。刑事罰も設けられていて、最高で懲役10年、罰金1000万円(法人は3億円)です。

 著作権の保護期間は原則として創作時から著作者の死後50年間です。著作権が切れた後は、著作物は「公共の財産」として、誰でも利用できるとされています。

 著作権は財産権の一種で、他人に売ったり、ただであげたりできます。また、相続もできます。こうしたことから、著作権者と著作者が異なることは珍しくありません。「権利の束」をばらして売買もできるので、「複製権の権利者はAさんで、公衆送信権の権利者はBさん」ということもあります。

 著作権のうち、侵害の判断が特に難しいものの一つが翻案です。例として、2001年(平成13年)6月28日に最高裁判所が下した「江差追分事件」の判決を見てみましょう。

〈表現上の本質的特徴とは〉

 この訴訟では、民謡「江差追分」に関するNHKの番組のナレーションについて、江差追分に関するノンフィクションの著作者が翻案権を侵害されたなどとして200万円の損害賠償を求めて訴えました。一、二審は著作者の侵害の主張を認めました。

 二審の東京高等裁判所は、(1)ナレーションがノンフィクションのプロローグ部分の骨子を同じ順序で記述し、表現内容が共通している、(2)ニシンが去った江差町について、プロローグは江差追分全国大会が開かれる「九月の二日間だけ、とつぜん幻のようにはなやかな一年の絶頂を迎える」などと記述しているが、江差町が最も賑わうのは8月の夏祭りというのが一般的な考え方で、全国大会の時だというのは著作者特有の認識だ、(3)ナレーションには「九月、その江差が、年に一度、かっての賑わいを取り戻します」などの部分があり、プロローグと表現が共通している、などとした上で「本件ナレーションは本件プロローグを翻案したものといえる」と述べ、著作権侵害を認めました。

 ところが、最高裁は侵害を否定する逆転判決を出しました。最高裁はまず、ノンフィクションのような「言語の著作物」の翻案について「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」かどうかという判断基準を示しました。そして、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」という見解を示しました。原作者のオリジナル性が感じられる表現を創作することが翻案の要件であり、思想、感情といった表現以外の部分や表現であっても創作性がない部分が原作と同一だとしても翻案ではないということです。

 この判断基準と見解に沿って、最高裁はナレーションとプロローグを比較しました。その結果、(1)江差町が賑わう時期について、プロローグの著作者の認識が特有のものであってもそれは表現ではない、(2)ナレーションは著者と同じ認識の上に立っているが、具体的な表現は異なっている、(3)ナレーションの運び方とプロローグの骨格を成す事項の記述順序は同じだが、その順序は独創的ではない、などと判断しました。そして、ナレーションの表現からプロローグの「表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない」として侵害を否定しました。最高裁のホームページに判決が載っています(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52267&hanreiKbn=02)。ナレーションとプロローグを比べることができますので、みなさんも考えてみてください。

職務著作物は会社のもの 記者は著作権者ではない

【問題3】

 あなたはA新聞社に勤める新聞記者です。あなたが書いた記事を読んだ読者から「すばらしい記事だ。是非、私のブログに転載させてほしい。いますぐイエスかノーか言ってほしい」と電話がかかってきました。どうしますか。

(1)快く承諾する。

(2)A新聞の記事であることと掲載の日付がわかるようにするよう条件を付けた上で転載を許可する。

(3)とりあえず「私は判断できません」と答える。

 正解は(3)です。

 自分が書いた記事であれば、許可できると思うかもしれません。しかし、新聞社の記者は通常、著作者でも著作権者でもありません。勤務先の新聞社が著作者であり、著作権者です。著作権法は第15条で会社の従業員等が職務上作成した著作物の著作者はその会社とすることを原則とすると定めており、こうした著作物を「職務著作物(法人著作物)」と呼びます。会社と従業員との間に特別の取り決めがない場合などいくつかの前提条件や例外はありますが、一般的には記事の著作者は勤務先の会社であり、著作権も会社に属します。本問のような電話がかかってきたら、自分で判断せず会社の判断を仰ぐようにしてもらいたいと思います。なお、法人の著作権は原則として公表から50年間保護されます。

 では、フリーのジャーナリストが書き、新聞や雑誌に掲載された記事はどうでしょうか。この場合はその人が著作者であり、新聞社や雑誌社との取り決めがないかぎり、著作権もその人に属します。

引用の7つの「条件」 全文引用可のケースも

【問題4】

 B新聞の記者であるあなたが書いた記事を社外の人があるブログに無断で転載していました。B新聞社はブログの作者に連絡し、削除するよう要求しましたが「私の文章の中で引用しただけです。問題なく利用できるはず」と反論されました。ブログには100行の文章のうち、最後の5行だけ作者のコメントが入っていました。著作権法には違反していないでしょうか。

 答えは、「違反している」です。確かに、著作権法は第32条で「公表された著作物は、引用して利用することができる」と定めています。公表されていれば、著作権者の許可なく利用できるという規定です。しかし、引用には条件があり、その一つが全体の中で引用部分が「従」、その他の部分が「主」という関係があることです。引いてきた部分が主体であってはいけないわけで、転載部分が全体の95%もあれば「主従関係」が逆転しており、引用に当たりません。無断転載であり、複製権などの侵害に該当します。

〈明瞭な区別と主従の関係〉

 引用に関する裁判としては、1980年(昭和55年)3月28日の最高裁判決が有名です。この裁判は、グラフィックデザイナーのマッド・アマノ氏が、写真家の白川義員氏が撮影した雪山をスキーヤーが滑降する写真に巨大なタイヤの写真をはめ込んだモンタージュのパロディ作品を作成し、週刊誌などに発表したところ、白川氏が著作権を侵害されたなどとして謝罪広告、慰謝料を求めて提訴したものです。

 アマノ氏が引用と主張したのに対し、最高裁は判決の中で「引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべき」と述べ、主張を退けました。

 文化庁編著『著作権法入門 2011-2012』(社団法人著作権情報センター発行)は公表された著作物、主従関係、明瞭区別性を含め引用の条件として次の7つを挙げています。

(1)すでに公表されている著作物であること

(2)「公正な慣行」に合致すること

(3)報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること

(4)引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること

(5)カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること

(6)引用を行う「必然性」があること

(7)「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

 俳句や短歌、短詩、140文字以内で表現するツイッター上のつぶやきなど短い著作物はこれらの条件を満たしていれば、全文引用できます。

 ところで、法律、条約、自治体の条例、裁判所の判決などは著作物ですが、国民が広く知り、自由に利用することが求められているため、著作権の保護対象から外されています。官庁などに断らず転載することが可能です。また、国、自治体、独立行政法人などが発表する広報資料、調査統計資料、報告書は新聞、雑誌その他の刊行物に全文載せることが可能です。ただし、法律などと異なり、無断転載禁止の表示がある場合は許可が必要です。

時事の事件の報道 気をつけたい「乱用」

【問題5】

 ある美術館から画家甲の絵画が盗まれました。Cテレビでは報道番組で、盗まれた絵の写真と盗難現場の映像を放送する予定です。現場の映像を撮った際、いろいろアングルを工夫しましたがどのカットにも端に無事だった画家乙の絵画が写ってしまいました。甲、乙はいずれも現役の画家で著作権者です。二人の許可を得る必要はありますか。

 答えは「必要ない」です。

 まず、盗まれた甲の絵について説明します。

 著作権法は第41条で「時事の事件の報道」であり、「報道の目的上正当な範囲内」であれば「当該事件を構成」する著作物を許可なく利用してよい、と定めています。

 「時事の事件」とはニュース性があるということです。【問題5】のケースでは盗難事件について伝えるためですから、ニュース性があります。また、盗まれた絵は「当該事件を構成」する著作物ですし、利用も「報道の目的上正当な範囲内」と言えるでしょう。

 次に乙の作品です。盗まれた絵画ではありません。しかし、第41条では「当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」も、時事の事件の報道でかつ報道の目的上正当範囲内であれば利用してもよいと定めています。つまり、付随的に写ったり、録音されたりする著作物は許可なく利用できるという規定です。乙の作品が写った映像はこの場合に該当します。

 第41条は民主主義社会での報道の価値を尊重した規定です。ですから、乱用には気をつけたいものです。何でも「報道だ」で押し通すことはできません。例えば、「名画のふるさとを訪ねて」といったニュース性のない企画番組で絵画を写す場合は引用や著作権が切れている場合を除き、無断で放送することはできません。 

〈著作物の報道利用の当否〉

 第41条に関する判決として「TBS事件」を紹介します。

 TBSは1989年10月、ニュース番組で大阪府警が実施した暴力団山口組の摘発に関連して、同組幹部が発注し、映画製作会社が製作した5代目組長継承式のビデオを放送しました。山口組に関するニュース全体は約7分間で、うち約4分間がビデオでした。放送後、山口組の幹部が著作権を侵害されたとして1000万円の損害賠償を求めてTBSを訴えました。

 ビデオの放送が「時事の事件の報道」に当たるかが主な争点になり、ビデオの放送時間の長さなどが争われましたが、大阪地裁は1993年(平成5年)3月23日の判決で、(1)ビデオを放送中も出演者が継承式について感想を述べたり解説を加えたりしている、(2)放送時間はビデオ全体(約1時間27分)の5%弱にとどまるなどとして、第41条に規定する適法な行為とし、TBS勝訴の判決を出しました。

著作者人格権が保護する著作者の名誉や愛着

【問題6】

 Dテレビが社外のフリーランスのイラストレーターに依頼していた同テレビの新しいシンボルマークが完成し、受け取りました。次のうち、イラストレーターに断りなくできるのはどれですか。著作権については両者の間で特段の取り決めはありません。

(1)発表会で、イラストレーターが制作し、採用されなかった別の作品を公表する。

(2)シンボルマークに書いてあったイラストレーターの署名を外す。

(3)イラストレーターが気に入っていたシンボルマークの色を修正する。

 答えは、「いずれもできない」です。

 著作権法は著作者の名誉や著作物への愛着といった人格的な利益を保護するために「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」からなる「著作者人格権」の規定を設けています。

 「公表権」(第18条)は著作物を公表するか否か、公表する場合は時期や書籍、映画などどんな形で公表するかを著作者が決めることができるという権利です。(1)の未公表のシンボルマークを著作者の許可なく公表することは公表権の侵害に当たります。「氏名表示権」(第19条)は著作物やその複製物(本など)に著作者が自分の氏名を表示するかしないか、する場合は実名か変名にするかを著作者が決めることができるという権利です。(2)のケースは、著作者がシンボルマークに署名して氏名を表示しているわけですから、勝手に外すことはできません。「同一性保持権」(第20条)は著作者の意に反して作品を改変(修正)してはならないということです。(3)は気に入っていた色を変えるのですから同一性保持権に抵触します。

 著作者人格権は一身専属の権利で、売買などはできません。つまり、著作者が著作権を売っても、著作者人格権は著作者に残っています。保護期間は著作者の生存中に限られ、相続できません。ただ、著作権法第60条は、亡くなった後も原則として侵害にあたる行為をしてはならないと定めています。

 著作者人格権にも例外があります。公表権では、未公表の著作物の著作権や「美術の著作物の原作品」「写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品」を売買したり譲ったりした場合は著作者が公表に同意していると「推定」されます。推定とは、例えば、「著作者が亡くなってから公表する」という契約があるときはそれまで公表できないが、そのような特約がない限り、公表に同意しているものとして扱うということです。

 氏名表示権では、著作者の利益を害する恐れがないときは「公正な慣行に反しない限り」、氏名表示を省略できます。スーパーでBGMを流す場合、いちいち「作曲者は○○です」と紹介しなくても問題ありません。同一性保持権では、「学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの」については改変が認められています。教科書に掲載する際、漢字をひらがなにすることは侵害にはなりません。

 著作者人格権にはほかにも例外があります。著作物の利用者や所有者の利便性を考えた規定と言えるでしょう。なお、今回の【問題6】も架空のケースですが、テレビ局は著作者人格権にも気を配っているでしょうから、①~③のようなことは通常、ありえません。

作品の「伝達」で発生する実演家らの著作隣接権

【問題7】

 E新聞社は、主催するスポーツ大会を紹介するコーナーを自社のインターネットのサイト内に作りました。コーナーを盛り上げるため、アクセスすると曲が流れるようにしたいと考えています。ある新人のバンドが演奏し、最近レコード会社からCDが販売された曲がふさわしいので全曲を流そうと思います。以下のうち、許可が必要なものはどれですか?

(1)作曲家

(2)作詞家

(3)新人バンド

(4)レコード会社

 なお、作曲家、作詞家は著作権を持っています。

 正解は「全部」です。

 このケースの場合、「時事の報道」とは言えませんし、引用にも当たらないでしょう。とすると、著作権者である作曲家、作詞家からは許可を得なければなりません。しかし、バンドやレコード会社からも必要なのはなぜでしょうか。

 それは著作権法に「著作隣接権」が定められているからです。著作権法は歌手、俳優、舞踊家、指揮者、演出家などの「実演家」と「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」にこの権利を付与しています。著作物が多くの人の目や耳に触れるためには、それらを伝達する人や組織が必要なことから保護しているのです。

 著作隣接権の内容は表2の通りです。実演家、レコード製作者には公衆送信権の一部で、インターネットにアップロードする「送信可能化権」があります。このため、E新聞社は新人バンド、レコード会社の許可も得なければなりません。

拡大表2

 なお、「実演家」はプロ、アマチュアを問いません。「レコード」とは音を固定したものをいい、媒体は関係ありません。音は川のせせらぎ、鳥のなき声など著作物以外も該当します。レコード製作者は音を最初に固定した者です。「者」には人以外の会社等も含まれ、レコード会社や音楽プロダクションなどが該当します。

 著作隣接権の内容は著作権と似ている点もありますが、異なる点も多くあります。例えば、著作者人格権、著作権が著作物の創作と同時に発生するのに対し、著作隣接権は創作とは関係なく、伝達に関わる行為をした瞬間に発生します。また、著作隣接権では実演家にのみ「実演家人格権」が与えられます。実演家の人格権は氏名表示権と同一性保持権で、公表権はありません。また、実演家やレコード製作者は、市販されている「レコード」に録音された曲を放送局が放送することを「だめだ」という権利はありませんが、事後に使用料を請求することが権利として認められています。

 保護の始まりは実演家がその実演を行ったとき、「レコード」が音を最初に固定したとき、放送、有線放送が放送を行ったときです。保護の終わりは実演が実演後50年、「レコード」が原則発売後50年、放送、有線放送はいずれも放送後50年です。

 なお、音楽CDの場合、実演家は通常、レコード製作者に著作隣接権の財産権の部分を譲り渡しています。このため、利用者は実演家ではなくレコード製作者に許可を求め、支払った使用料の一部が実演家に渡る仕組みになっています。作曲家や作詞家の場合も多くは「日本音楽著作権協会」(JASRAC)を筆頭に著作権を集中的に管理している団体や会社から許可を得て利用します。

文化の発展には利用者の存在が不可欠

 著作物、著作者、著作権、第32条の「引用」、第41条の「時事の事件の報道のための利用」、著作者人格権、著作隣接権について概観しました。当然ですが、紹介したのは著作権法の一部にすぎません。著作権に興味を感じたら、一般向けの本をまず読むことをおすすめします。例えば、法律の入門、解説書としては、先述した『著作権法入門』が重宝です。著作権を巡る状況を知るために私が読んだ本を紹介すると、福井健策弁護士の『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、野口祐子弁護士の『デジタル時代の著作権』(ちくま新書)がわかりやすく深みもある、と思います。

 最後になりましたが、著作権法は第1条で「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」と定めています。この条文は、著作物の創作や伝達に関わる人たちの権利も大切だが、同時に文化的所産である著作物を鑑賞する利用者がいて初めて日本の文化が発展する、と宣言していると思います。

 私は仕事柄、権利者として新聞社の利益を保護する仕事をし、逆に利用者としてできるだけ使いやすい使用料金や許可条件について交渉しています。ついつい、そのときの自分の立場に熱くなるので偉そうなことは言えませんが、第1条が唱えている「権利の保護と利用のバランス」こそ、いちばん大事なルールだと思います。ジャーナリストのみなさんもこのバランスを大切にしていただければ、と願っています。