メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

高性能ウエアラブルカメラが映像取材を大きく変える

野々下裕子 フリーランス・ライター

HEXO+社がカメラ付きドローン開発のために、ネットで資金調達して成功したHEXO+社がカメラ付きドローン開発のために、ネットで資金調達して成功した
 6月26日、高性能ウエアラブルカメラを開発するGoPro(ゴープロ)が米ナスダック市場に上場し、初日から公開価格を30%以上も上回る高評価を受けた。

 GoProの特徴は、腕やヘルメット、サーフィンボードやスキーに設置できるほど小さなサイズながら、上下左右に激しくゆれても、鮮明で迫力ある映像が撮影できるところにある。

 主に過激で危険な離れ業を競うエクストリームスポーツ関係者の間で人気があるが、過酷な環境にも耐えられるビデオカメラとして、深海調査や大気圏からの自由落下撮影といった場面でも使われている。

 家電量販店で200ドルほどで購入でき、Wi−Fiからリモートでコントロールしたり、映像をスマートフォンで受信したりできることから、ドローンと呼ばれる無人航空機に取り付けた空中撮影にも使われている。

 今までこうした空中撮影はプロ並みの器材と技術が必要とされていた。だが、最近登場しているドローンは小さなヘリコプターのような形をしていて、スマホのアプリなどを経由して画面からコントロールでき、小さなカメラなら簡単に取り付けられ、誰でも空中撮影が気軽に行えるようになっている。

 GoProもこうした動きに着目しており、今後はメディア分野にもビジネスを広げると宣言している。

 すでに撮影カメラを搭載したドローンはいくつも市販され、先日、GoProを取り付けて、自分自身を頭上から自動で追尾撮影できる「HEXO+」という小型ドローンも登場した。

 HEXO+社はネットで資金調達をするクラウドファンディング(Kickstarter)で、一般ユーザーから出資を集め始めてすぐに目標額の5万ドルを達成し、まず自作用キットが来年5月から出荷される予定だ(図)。

メディアが取材利用試みるが法規制など環境が未知数

 ドローンは去年末にアマゾンが、無人ドローンを使って30分以内に商品を届ける「Amazon Prime Air」を2015年までに実用化すると発表したことで、急速に世間の注目を集めてきた。

 また、ワイヤード誌の元編集長のクリス・アンダーソン氏が新しく始めたのがドローン製作ビジネスであり、メディア業界との新たな接点ができるのではないかとも指摘されていた。

 そもそも、小型無人ヘリなどを取材に使う「ドローン・ジャーナリズム」という言葉は意外に早い時期からあり、ネブラスカ大学リンカーン校のマット・ウェイテ(Matt Waite)教授によって、11年11月にドローン・ジャーナリズムの研究所が設立されている。

 ジャーナリズムとテクノロジーをテーマにした国際会議のグローバル・エディターズ・ネットワーク(GEN)でも、13年にパリで開催された時にセッションやデモが行われるなどしており、さらにこの6月には、CNNがジョージア工科大学と産学協同でドローンを使った取材活動の可能性についてこの夏から検証を行うと発表している。

 その他の動きとしては、イギリスのBBCが設けた無人飛行機を使う特別な撮影ユニットが、本格的な活動には至っていない例がある。法規制やプライバシーの問題などの課題が立ちはだかっていると見られている。たとえば、アメリカの二つのジャーナリズム学校が、実習のためにドローンを使った撮影を行おうとしたところ米連邦航空局(FAA)から禁止されたという話もある。

 ドローンは偵察用など軍事利用もされており、米国では飛行範囲が規制されるなどの法律が設けられている。しかし一方で、ビジネスの高まりや利用範囲の広がりを受けて、FAAでは来年秋ごろをめどに規制緩和を検討している。

 その際には、CNNらが行う研究データも検討材料とされることが決まっている。緊急の際にドローンで現場撮影が許可されるなどの規制緩和が行われるかもしれず、そうすれば報道の可能性は大きく変わることになる。

個人スクープから利用が広がる可能性

 ドローンによる取材撮影だが、モバイルやソーシャルメディアが登場したときと同じように、まずは個人が撮影した映像がスクープとして取り上げられるところから始まっていきそうだ。

 今年3月にニューヨークでビル爆発事故があった際に現場の模様をドローンから空撮した映像が公開され、話題となった。また、ドローンを使った撮影ビジネスも増えはじめていて、数万円の価格で撮影を依頼できるようになっている。

 それほど技術としては手軽なものになっているだけに、プライバシーや落下事故などが増えることが懸念されるのは仕方がないだろう。

 ブラジルのワールドカップ会場でも、フランスチームの練習会場がドローンで偵察されるという事件も起きている。

 強力な取材ツールとなるのか、はたまたプライバシーや情報セキュリティーの脅威と規制が強まるのか。技術の進化と合わせて、社会にどう受け入れられていくのか注目していきたいところである。

     ◇

野々下裕子(ののした・ゆうこ)
フリーランス・ライター。
デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』8月号から収録しています。同号の特集は「科学報道はどう変わるべきか」です