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図書館と書店・出版業界は、イベントを通じて共闘できる

福嶋 聡

 7月3日、第21回東京国際ブックフェアの中で行われたイベントの一つ、「図書館・出版シンポジウム 図書館・出版、変わりゆくコミュニティのなかで」に、ぼくはパネリストの一人として参加した。

 シンポジウムでは、まず、佐賀県伊万里市の伊万里市民図書館館長・古瀬義孝氏が、市民と共に図書館を創り上げた20年前の実践を報告した。95年3月の竣工式に市民200人が参加し、毎年7月7日の開館記念日には、市民の企画で4千〜5千人が集まるイベントが開かれてきたという。本好きや受験生だけでなく、あらゆる市民が楽しむコミュニティー・スペースとしての図書館が実現している。

図書館と書店は政治と経済の関係

 次いでぼくが、図書館と書店について、書物を読者に提供する役割は共通しているものの、図書館が「本を貸す」、書店が「本を売る」という業務は、決定的に異なるものだと述べた。

 今日の図書館の存在根拠は、すべての人が等しく情報にアクセスする権利に基づくものだ。それは、住民一人一人が主権者である民主主義の根幹をなす。

 一方、民主主義国家を支え、国民生活を成り立たせて活力を与えているのは、市場経済である。出版の世界でも、本が売れれば売れるほど、書き手のモチベーションは上がり、出版社は新たな企画を立てることができる。

 「いわば、政治(図書館)と経済(書店)の関係」と、ぼくは言った。

 続いて発言した文藝春秋の平尾隆弘・前社長は、出版社の立場から図書館に対して、「ベストセラーの複本(同じ本)や文庫の購入を控えてほしい」とストレートに注文した。出版社のビジネスモデルが、ベストセラーや文庫の収益にいかに依存しているかを説明し、それが崩れることは、やがて書物そのものの衰退をもたらすと訴えた。

 一方、「市民は、本を読もうという気持ちが冷えない間に、図書館から本を借りて読む権利がある」というのが、図書館側の論理だった。「政治」と「経済」は、時に相いれない。

 3人のパネリストの発言を受けて、コーディネーターである鳥取県立図書館元館長の齋藤明彦氏は「現代社会は誰もが常に自己責任を問われる一方、いつでも情報弱者になる可能性がある、動きの早い社会である。だから、判断の材料である情報を提供する図書館の役割はますます増大している」と語った。

 そして、図書館と出版業界が協力して日本の活字文化を盛り上げていく方法を模索する、一つのアイデアを提案した。本を素材にしたパネル展示や、著者を招いたイベントの企画案を一覧表にして、地域の図書館や学校図書館に提示し、現場の事情に合わせて選んでもらい、実現してもらうという構想だった。

トークイベントで図書館と連携

 斎藤氏は「出版社も乗ってくれますか?」と平尾氏に投げかけた。トークイベントなどに著名人が登場することは、特に若い世代には大きなインパクトを与える。そうした交渉の窓口は、やはり出版社が適任だからだ。

 「ビジネスになるなら、もちろん乗りますよ」と平尾氏。「おそらくそのためには、書店さんも巻き込まなければいけない」と言葉を継いだ。

 「もちろん大歓迎です」と、即座にぼくは答えた。ぼくらはそうしたイベントを、すでに実際に試みていたからだ。

 昨年10月に藤原和博氏、今年1月に森達也氏のトークイベントを、ぼくが勤める店の近くにある大阪市立中央図書館のホール(300人収容)で開催していたのだ。主催は大阪市立中央図書館という形にしたが、どちらも出版社からの依頼だった。

 たまたま直前に図書館から、利用者サービスの改善について相談を受けていた経緯もあり、少なくとも100人以上を集めてイベントをやりたい出版社と、有名な著者を呼びたい図書館との思惑が結びついた。また、書店のぼくらは、講演後、サイン会のための本を会場で販売した。どちらのイベントも図書館に設置したポスターやチラシだけで、200人余りが集まった。

 講師との折衝は出版社、会場の提供と集客は図書館、本の販売は書店と、それぞれ得意な部分を引き受けたコラボだった。

違いがあるからこそ共闘できる

 ぼくが最初に書店と図書館の違いを強調したのは、違いがあるからこそ、共闘できるからなのである。

 両者の違いとして、「ハコ」の大きさや機能の違いに加え、並べられている本の時間軸の違い、ということも話した。図書館には、絶版して書店で入手することも並べることもできない本がたくさん存在する。一方、新しい本は書店に潤沢にある。

 違うからこそ、それぞれに役割があり、フェアやイベントのやり方もおのずと違ってくる。多様な形で、読者への本の提供ができるのである。

 電子書籍には、新刊時の品切れも、古い本の絶版も、原理的には無い。それに対抗して読者への便宜を図ろうと思えば、図書館と書店が協力するよりほかに手は無い。

 本という財産は残り、継承されなければならない。だから図書館は必要だ。一方、時代を映し、時代を導く新しい本もどんどん生まれてほしい。だから多様な出版社が要る。著者が創作や研究に携わるための原資を、市場から吸い上げる書店の存在も不可欠だ。

 イベントはあくまで集客と活性化のための手段である。図書館も書店も、その本分は、あくまで、本を必要な人に出会わせ、提供することだ。

 「本をつくる」「本を売る」「本を貸す」、基本的な行為によって出版社も書店も図書館も社会を支える。その矜持を失わないでおきたい。

     ◇

本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』9月号から収録しています。同号の特集は「時代を読み解く 珠玉の200冊」です


筆者

福嶋 聡

福嶋 聡(ジュンク堂書店難波店店長) 

ジュンク堂書店難波店店長。 1959年、兵庫県生まれ。京都大学文学部卒。82年、ジュンク堂書店入社。京都店、仙台店、池袋本店、大阪本店などを経て、2009年から現職。WEBRONZA筆者。著書に『書店人のこころ』『劇場としての書店』『希望の書店論』『紙の本は、滅びない』など。