女性に不利な働き方のルールを変更せよ ―『Journalism』12月号より―
2014年12月17日
安倍政権がここに来て急に、「女性が輝く社会」だの、「女性活躍法案」だのと言い出した。
これまでネオコン(ネオコンサーバティブ)とネオリベ(ネオリベラリズム)の結託のもとに、「国家と家族の価値」を称揚してきた保守政権の言い分としてはにわかに信じがたいが、そしてそれを推進するはずの「女性活躍担当大臣」の有村治子や「拉致問題担当大臣」の山谷えり子などの女性閣僚の顔ぶれを見れば、ますます信頼度は下がるが、ここはどこまで本気なのか、そして本気なら、何をやるべきなのか、を検討してみよう。
「202030(ニマルニマルサンマル)」として知られる「2020年までにあらゆる分野における指導的地位に占める女性の割合を30%に」という数値目標は、安倍政権のオリジナルではない。もともと10年以上も前に、小泉政権のもとで登場した「女性のチャレンジ支援」政策のひとつであり、安倍政権は過去の自民党政権の政策目標をひきついだにすぎない。
ネオリベ政権が「男女共同参画」を推進し、フェモクラット(フェミニスト・ビューロクラット)のパトロンになる傾向があることは、小泉、福田政権にも当てはまる。なぜなら経済合理性があるからだ。人口減少に苦しむ日本の経済にとっては、女性だけが最後の資源。寝た子を起こしてでも使いたい、最後の労働力だからだ。
その点では「男女共同参画」のホンネは、女性の労働力化にほかならず、その限りで安倍政権が「女性活躍社会」に本気だといってもよい。最近では「行きすぎた」女性活躍への動きを苦々しく思った保守系メディアから、「専業主婦を大事に」という警鐘まで出ているくらいだ。問題は言っていることとやっていることとが伴わず、それどころか逆効果であることである。
2020年といえば今から6年後。来る東京オリンピックの年である。12年の企業の管理職女性比率(部長以上)は5%、これがわずか6年で30%になろうとは思われない。数値目標を掲げようとしたら、ただちに財界に反対されて腰砕けになり、後退した。
「ポジティブ・アクション」とも呼ばれる(一定枠を女性に割り当てる)クオータ制は、長らく経済界から、「わが国の風土に合わない」という理由にならない理由で、しりぞけられてきた。
そもそもクオータ制をいうなら、政策をかかげる自民党みずからがまず採用すべきだろう。自民党国会議員のうちの女性比率は9・8%、閣僚18人中女性は5人、27・8%と3割に近いが、このうち高市早苗は夫婦別姓選択制反対派の急先鋒、有村治子は「3歳児神話」の信奉者、山谷えり子は2005年に自民党内に設置された「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査」プロジェクトチーム(安倍晋三座長)の事務局長を務めた人物。「ポジティブ・アクション」には違いないが、「日本会議」寄りのお友だち優遇人事という「ポジティブ(逆差別)・アクション」というほかないだろう。それすら二人の女性閣僚が、不祥事でただちに退陣に追い込まれた。
そもそも政党がポジティブ・アクションを実施したければ、何の法改正もなしにただちにできることがある。選挙の際の候補者名簿の女性比率を上げればそれですむ。それさえやらずに、民間に対して「数値目標を」と言えば、反発は必至だろう。
安倍政権が誕生してから、次々にうちだした「女性向け政策」なるもののカンチガイ度にもおどろく。
まっさきにうちあげたのが「女性手帳」だった。少子化対策で「卵子は老化する」という啓蒙キャンペーンを実施、早めに子どもを産んでほしいと呼びかけたが、「産みたくても産めない状況を変えるのが先」と世論の猛反発を受け、この案はひっこめた。とはいえ、今でも「自分が産めよ」という都議会セクハラ野次や、柳澤元厚労相の「産む機械」発言に見られるように、女は子どもを産んでなんぼ、という女性観はなくなっていないし、何より出産はもっぱら女の問題、という見方も変わっていない。
次に登場したのが、安倍首相の「3年抱っこし放題育休」。女は誰ものぞんでいないのに、そのカンチガイぶりにあきれた。女性労働者の多くがのぞんでいるのは、産休&育休明け保育の充実。3年間も職場を休みたいとは思っていない。1子で3年、2子で6年、そんなに職場を離れたら、もはやついていけなくなるとあせりすらある。保育のなかでも、もっともコストがかかるのは、ゼロ歳から3歳までの乳幼児保育である。日本では3歳児以上の保育については収容率が高いことが知られている。
したがって、この安倍発言は、こう解釈すべきだろう。「コストのかかるゼロ歳から3歳までの保育の充実をする気はありません」と。「女性の活用」はしたいが、そのためにおカネをつかう気はありません、と言っているようなものだ。
最近ようやく「待機児童解消」を言い出したが、これには予算がかかる。これも問題だらけ。基本は育児は女のしごと、その負担をいくぶんか軽減してあげましょう、というのが今の育児支援策だからだ。
子持ちの男女労働者の育児参加を支援するという方向には行っていない。育児休業に「パパ・クオータ」をつくればよいのだが、そんな議論はどこからも出てこない。それどころか、現行の育児休業に、じゅうぶんな休業補償が伴っていないのだから、賃金の高い男性労働者が育休をとる可能性はいちじるしく低い。だからこそ、「イクメン」が、いまだにニュースになるほど希少価値があるのだ。
少子化対策というなら、なくてはならないのはシングルマザー支援。欧米諸国における出生率のうち、婚外子寄与率はスウェーデンやフランスで2分の1、ドイツでも3割、イタリアでさえ20%近くなのに、日本では2%台を推移している。その背後で、10代の若い女性の妊娠中絶率は上昇しているのだから、産まれなかった子どもの暗数があるにちがいない。
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