本の力と危険を自覚しつつ、言論で戦おう
2015年01月19日
「嫌中憎韓」、「日本は世界でいちばん人気がある」、「朝日新聞を葬り去れ!」……。
今、書店店頭では、隣国の人々を貶おとしめ憎悪を煽あおり、その反動なのか自国を臆面もなく褒ほめたて、一つのメディアに集中砲火を浴びせる文言があふれている。多くの書店員が、違和感を抱き、時には異常さを感じながら、それらの本を書棚の目立つ場所に展示していく。
それらの本を製作し、次々に書店へ送り込む出版社にも、違和感はあるに違いない。
日常の作業の中に埋没しながら堆積していったであろうそうした違和感が、一冊の小さな本に結晶した。
「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」編による『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ころから、2014年11月)である。
この本の元になったのは、2014年7月4日に開催されたシンポジウム「『嫌中憎韓』の本とヘイトスピーチ―出版物の『製造者責任』を考える」と、それに先立って行われた書店員へのアンケートの回答である。
さまざまな意見がある。書店現場からは、書棚が「ヘイト本」で埋め尽くされることに抵抗を感じる声が多く寄せられたが、一方で「表現の自由を否定するのか」などといった反発、「編集者や出版社は、思想に奉仕するためにあるものではない」「出版社が売れる本を出すのは当然だ」という反論もある。
議論の焦点となる「製造者責任」は、つくる側(出版社)の問題だと、簡単に帰責するわけにはいかない。書店での販売は、出版物の製造過程の最終段階だから、出版社―書店がつくる書店の風景が、社会全体に与える影響が問題なのである。
「棚を占めるタイトルの割合は『嫌韓嫌中』を煽る内容に偏っており、ふらっと書店に立ち寄った利用客に既成事実であるかのような印象を刷り込むのには十分に過ぎる」とある書店員は言う。
だが、「そもそも本を大きく展開するのは売れ行きがいいからだ、それ以上でもそれ以下でもない」として、むしろ読者の側の嗜好をこそ書棚は反映しているのであって、
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください