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安保法制案、多様な法案の一括審議を強く批判する

事後的な検証手続きを導入せよ〈『Journalism』6月号より〉

木村草太 首都大学東京准教授(憲法学)

Ⅰ はじめに

 2014年7月1日、安倍内閣は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題された閣議決定を行った。この決定は、平時での自衛隊の運用、外国軍の後方支援、集団的自衛権行使の限定容認など、安全保障分野に関する法整備を目指すものだった。

自衛隊イラク派遣に反対する集会では、小泉首相の人形も登場した=2004年1月25日、東京都千代田区の日比谷公園拡大自衛隊イラク派遣に反対する集会では、小泉首相の人形も登場した=2004年1月25日、東京都千代田区の日比谷公園
 これを受け、15年2月13日から自公の与党協議が始まり、5月11日には、国際平和と日本の安全保障を目的とした法整備のための主要条文案が固まる。一連の安保法制案は、5月14日に閣議決定され、5月半ばから国会審議に入る予定である(本稿執筆段階)。

 具体的な法案の検討に入る前に、安全保障法制に関わる用語や法原則を確認しておこう。

 国家の実力行使は、①外国(政府)を対象とするものと、②テロリスト等の非国家的主体を対象とするものに分類され、それぞれ法的扱いが異なる。

 まず、①外国を対象とするものは、法律上「武力行使」と呼ばれ、国際法でも原則として禁止される(国連憲章2条4項)。ただし例外として、安保理決議に基づく軍事的措置(同42条)、集団的自衛権の行使(同51条)、個別的自衛権の行使(同51条)の三つは、適法な武力行使とされる。

 もっとも、日本国憲法は、さらに武力行使の範囲を制限している。というのも、日本国憲法には、国内の主権を維持・行使する作用である「行政」権限の規定はあるが、外国の主権を制圧する「軍事」権限の規定がまったくない。このため、防衛行政としての個別的自衛権の行使はぎりぎり認めうるが、それを超えた武力行使は認められない。当然のことながら、外国の防衛を目的とする集団的自衛権も行使できない。14年7月1日の閣議決定は、集団的自衛権を行使できるとの解釈に変更されたと説明されることも多いが、それは、憲法論的には取りえない解釈だ。あくまで、ある武力行使が個別的自衛権としても集団的自衛権としても国際法上説明可能な場合にかぎり、集団的自衛権に含まれる武力行使が許されるに過ぎないと理解すべきだろう。

 次に、②非国家的主体を対象とするものは、法律上「治安活動」ないし「警察活動」と呼ばれる。国内犯罪に対する警察活動はもちろん、海賊や国際テロの取り締まりもこれに含まれる。国際法は、各国が自国の主権が及ぶ範囲で治安活動を行うことを当然認めている。また、外国の要請により、外国の治安活動を援助することも禁じていない。

 日本国憲法でも、治安活動は、「行政」(自国の主権が及ぶ場合)または「外交」(外国の要請による場合)の範囲とされ、特に禁止されていない。外国軍の武力行使を後方支援する場合も、「外国の武力行使と一体化」し、日本自身の「武力行使」だと評価せざるを得ない場合には、軍事活動にあたり禁止されるが、それに至らなければ、行政・外交協力として許容される。

 ただし、②で気をつけねばならないのは、その武装集団が「国家」であるか否かの判定が困難な場合がある点である。近年、勢力を拡大しているISIL(イスラム国)は、すでに一部の領域を一定期間支配しており、もはや国家に準じる組織として扱うべきではないか、が重要な論点となっている。

 また、テロリストやマフィア等が重武装を備えることもまれではない現代では、治安活動が軍事活動よりも安全で平穏だとは必ずしも言えない。さらに、現地の武装勢力を攻撃すれば、自衛隊員や日本国に対する怨念が生まれ、日本国内でテロを誘発したりする危険も高まる。

 こうした点を考えるならば、憲法上は許される治安活動への協力であっても、その政策的当否は、慎重に検討しなければならない。

 では、一連の法案は、こうした憲法原則の枠を遵守しているのか。法案準備の段階で、閣僚たちには、戦闘中の機雷掃海作戦への参加、あるいは「日米同盟が揺らぐ」場合の武力行使に積極的であるかのような発言が散見された。安倍首相は5月14日の記者会見で、一連の法案が「戦争法案」でないと強調したものの、不信を募らせる人が多いのも当然だろう。

 もっとも、イメージだけで、今回の法案を「集団的自衛権を認める歴史的な転換点だ」と評価することは、かえって、権力者の恣意的な行動を助長しかねない。憲法の枠内での法整備を実現させるためには、提案者の発言から独立して、法案の文言を緻密に分析することが必要だ。そうでなければ、実際に自衛隊が活動する段階で、政府による勝手な法解釈を許し、「法治主義」による権力統制を不可能にしてしまうだろう。

 そこで、具体的な法案の中身を検討していきたい。

Ⅱ 安全保障法制の全体像

 まず、5月14日に閣議決定された安全保障法制案の内容を確認しよう。その内容は、大きく分けると5項目に整理できる(以下、法案は「法案:○○法X条」という形で表記する)。

1 在外邦人の保護

 第一は、自衛隊による在外邦人等の保護措置である。仕事や観光など、外国に在留する邦人は多数に及ぶ。しかし、在外邦人が紛争に巻き込まれた場合でも、これまでの自衛隊法では、自衛隊が武器を用いて警護・救出活動を行うことは想定されておらず、許されるのは「輸送」のみだった(自衛隊法84条ノ3)。 これに対し、今回の法案では、自衛隊の業務に「外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置」が加えられている(法案:自衛隊法84条ノ3)。

2 平時の米軍などへの協力の拡大

 第二は、平時における米軍などへの協力拡大である。

 従来、自衛隊は、武器・弾薬などを警護するために武器を使用することができるとされていた(自衛隊法95条ノ2)。今回の法案は、武器使用の対象を共同で日本の防衛にあたる外国軍あるいは、共同訓練中の外国軍の警護にも広げる(法案:自衛隊法95条ノ2)。ただし、武器使用は、緊急避難・正当防衛の場合に限るという限定がかけられている。

 また、これまで自衛隊は、共同訓練や災害対応の際に、米軍に物品や役務を提供できるとしていたが(自衛隊法100条ノ6)、その範囲を警護出動や海賊対処行動に広げることになる(法案:自衛隊法100条ノ6)。

3 国連PKOへの協力拡大

 第三は、国連PKOへの協力拡大である。これまで、自衛隊によるPKOへの協力は、武器を使用しない行政事務やインフラの整備が中心だった。

 武器使用が想定される停戦監視・紛争当事者の交渉援助などの業務については、①停戦合意があること(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律、以下PKO協力法3条1号)、②受け入れ国の同意があること(同法6条1項1号)、③紛争当事者に対し中立を維持すること(同法6条13項1号)、④①から③の条件を満たさなくなった場合に即時撤退できること(同法8条1項6号)、⑤武器使用は、自己またはその属する部隊及びその管理下にいる者の生命などの防衛のために必要最小限度で行うこと(同法24条)の5原則の下で、国会の承認(同法6条7項)を得て行うこととされていた。このPKO5原則の⑤が、武器使用を「自己保存型」に限定していることにより、自衛隊は、現に生じている争いの平定や、攻撃を受ける他国部隊の警護など、積極的な武器使用が必要な業務は行えない。

 今回の法律では、「業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産を防護し、又はその業務を妨害する行為を排除するため」に武器を使用できるようになる(法案:PKO協力法26条)。これは、「任務遂行型」の武器使用と呼ばれるものである。

 この規定を前提にすれば、安全確保や駆けつけ警護といった、積極的に武器を使用しなければいけない業務も行える。そこで、法案では、「防護を必要とする住民、被災民その他の者」の警護などの業務(法案:PKO協力法3条5項ト)や、他国のPKO関係者の「緊急の要請」に対応して行う「生命及び身体の保護」(法案:PKO協力法3条5項ラ)が、自衛隊のなし得る業務に加えられている。

4 外国軍の戦闘行為の後方支援拡大

 第四は、自衛隊による外国軍の後方支援の拡大である。ここでいう後方支援とは、「武力行使」または「武力による威嚇」にならない範囲での外国軍の戦闘行為の支援を意味する。

 これまで、外国軍の後方支援は、日本の周辺地域において、放置すれば日本に直接の武力攻撃が生じる事態、いわゆる「周辺事態」にのみ認められていた(周辺事態法)。それ以外の場合に後方支援を行う場合には、イラク特措法やテロ対策特措法といった特別措置法をその都度、制定する必要があった。

 今回の法案は、まず「周辺事態」における地理的な制約を削除し、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)の場合に、後方支援をできるようにした(法案:重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律、以下、重要影響事態法1条)。

 また、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(以下、国際平和支援法)を新設し、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」(国際平和共同対処事態)の場合にも、後方支援をできるようにする。これにより、特別措置法をいちいち立法しなくても、政府の判断で後方支援ができるようになる。

 このように今回の安保法制法案では、①重要影響事態と②国際平和共同対処事態の二つの場合に後方支援ができる。では、両者の手続きは、どう違うのか。前者の①重要影響事態での後方支援は、日本の安全にかかわる事態であるため、一定の場合には、国会の事後承認で足りる。他方、後者の②国際平和共同対処事態では、例外なき国会の事前承認が要求される。

 さらに、一連の法案では、後方支援の地域やメニューも広がっている。まず、従来は、 ・・・続きを読む
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筆者

木村草太

木村草太(きむら・そうた) 首都大学東京准教授(憲法学)

1980年生まれ。東京大学法学部卒。東京大学法学政治学研究科助手(憲法専攻)を経て、2006 年から現職。著書に『平等なき平等条項論 equal protection 条項と憲法14 条1 項』(東京大学出版会)、『憲法の急所ー権利論を組み立てる』(羽鳥書店)、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP 新書)、大澤真幸氏との対談集『憲法の条件 戦後70年から考える』(NHK出版新書)。