来たれ!好奇心旺盛で足腰軽く デジタル発信を担う若者よ
2016年03月10日
メディアを取り巻く状況が大きく変化する中、各メディアの採用担当者はどんな人材を求めているのか、語り合ってもらいました。採用活動で力を入れている点やインターンシップ、就職活動の時期が揺れ動いていることの影響などについて真剣な議論が交わされました。(編集部)
水島宏明(司会・法政大学教授) 採用の時期が、今年、また大きく変わってしまったということで、皆さん、対応に追われていると思うのですが、まずそのあたりの話から伺えれば。伊藤さんから、どうでしょうか。
伊藤裕・読売新聞東京本社人事部採用担当デスク(吉永考宏撮影)
日程としては、これまでより「短期決戦」になりますので、会社理解というよりは業界理解を深めてもらうことに尽きるかと思います。若い人たちに対し、報道という仕事の大事さを伝えるとともに、報道に携わる面白さ、時代の最先端情報に触れるやりがいを感じてもらえるようにと、今、走りながら考えているという状況ですね。
水島 では、森谷さん、いかがですか。
森谷誠市郎・NHK人事局副部長(吉永考宏撮影)
留学中の学生も受けるのですが、6月ですと、多分、留学先の学期がまだ終わっていない。例えば、学生に「留学したいんだけど、どうしたらいいんだ」と言われて。それは6月採用とは別に、ちょっと考えていかないと、そういう人たちも、受けるチャンスがなくなってしまうということが、今、懸念材料としてあるわけです。
水島 ありがとうございます。では、堤さん、いかがですか。
堤和彦・日本経済新聞社総務局人事・労務部担当部長(吉永考宏撮影)
その意味で、6月というのは、僕らには去年よりは楽かなと思っているところもあります。短期決戦で一気にいけるので。去年は長期化の側面もあって、3月から説明会を始めて、8月までどう学生の関心を引きつけ続けるのかといった苦労もありました。学生の業界研究が深まっていてくれれば、むしろ採りたい人材に早くアプローチできる可能性もあると思っています。
留学生対応という意味もあり、うちも6月以降に、一昨年までやっていた秋採用のようなイメージのものを用意するかどうか、今考えているところですね。
水島 ありがとうございました。では、佐藤さん。
佐藤幹・中日新聞社管理局人事部部次長(吉永考宏撮影)
今年は解禁が6月に変わるということでどういう影響が出るのか考えているところです。8月解禁では、日程的に全国紙と競合しました。当社の場合、全国紙の滑り止め的な感覚で受けに来る学生もいます。そういう人たちは、去年は全国紙に流れて行ったケースが多かったと思いますが、6月に前倒しになることによって、どう変わるのか。ふたをあけてみないとわかりません。各社の動向を注視しながら対策を練るつもりです。
また、中日の主たる発行エリアは愛知県です。製造業が強いところなので、他の業界との競合もあります。今年は広報期間が短くなる分、学生の志望動機が固まる前に、押さえられてしまうと嫌だなと。選考方法の見直しも意識しつつ、少しでもマスコミに興味のある学生には素早くアプローチし、志望動機を固めるためのコミュニケーションを図っていきたいと考えています。
水島 ありがとうございます。では、岡本さん、朝日新聞はいかがですか。
岡本峰子・朝日新聞社人事部採用担当部長(吉永考宏撮影)
去年は期間が長かったことで、ほかの業界に行ってしまう人を、どうメディア界に引きつけるか、いかに彼らの関心を寄せて、8月までついてきてもらうかということに非常に腐心しました。それゆえに、非常に親密な関係が築けた例もありました。それに比べて、今回、解禁日から選考開始までが、キュッと短くなってしまったので、昨年のようには、本音ベースでいろいろ話ができる関係になるのは難しいかなと危惧をしています。
水島宏明・ジャーナリスト・法政大学社会学部教授=司会(吉永考宏撮影)
伊藤 インターンって、実は非常に難しい。もちろん、採用とは関係ないのですが、面接を担当した人から聞く話としては、この業界の社員に会っているかどうかは、面接開始後10分すればわかるといいます。業界理解を深める接点の存在はすごく大事だと思います。こうした面と、模擬取材などの様々なメニューを通じて、仕事の一端を垣間見られる面と、その両面で実施する価値はあるかと思います。
一方で、模擬取材で体験できることにも限界があります。記者の仕事で本当に面白いのは、人間関係を築いて、自分にしか知り得ない情報を得ることです。継続的な取材までインターンシップ期間中にはできないわけですから、どれだけ記者の仕事に対する理解が深まるのかという問題意識はあります。接点を広げるためにできるだけ受け入れも多くしたいのですが、どれだけ仕事の理解を深めてもらえるのかというのは、正直、暗中模索の状況です。
ただ、できるだけ生の記者と接する場を設けることで、学生側に一番欠けている情報ギャップを埋める機会にはなっているかなと思っています。
活発に議論が交わされた採用担当者座談会(吉永考宏撮影)
森谷 インターンシップは2013年から始めたのですが、一番よかったなと思うのは、会社の社風みたいなものを学生たちに知ってもらえたことです。例えば、面接でNHKの人と話すと、「もっと堅い人だと思っていました」とか、そういうイメージがあるようなのです。イメージとは別なんだよということを肌感覚でわかる機会としては、非常にいい取り組みなのかなと思っています。
NHKの場合、新人で入っても、必ず地方に行ってしまうので、昔でいうOB訪問というのは、なかなかできなくて、若手の記者と触れる機会がほとんどない。インターンシップには、東京に異動して間もなくの若手の記者もできるだけ呼んで、学生たちと話せる機会を設けています。より年の近い人がどんなことをやっているのかがわかって、いいのかなと感じています。
今、インターンシップはいろいろ門戸を広げていて、全くマスコミに関心がない人も、呼び込んで、こんな仕事があるのだと知らせるには一番有効かなと思っています。
インターンシップをやって、やっぱり(自分は)この業界と違うなという判断が逆にできるので、インターンシップは入社してもすぐ辞めてしまうことを防ぐ対策の一つにもなる。今まで、NHKのPRは、ニュースを見てください、番組を見てくださいということで、どういう人がつくっているかは、見せていなかった。それを見せるのは、学生にとっても非常に役立って、いいことなのかなと感じています。
堤 日経が今、インターンの柱にしているのは5日間の記者体験コースです。編集委員、論説委員、デスククラスのベテラン記者を講師に、学生を6人1班にして、初日は座学、2日目、3日目で取材、4日目で原稿執筆と見出し付けまでやって、8段分の紙面を作るというカリキュラムを5日間でやってもらう内容です。かなりそれらしい疑似体験ができるということで、学生に喜んでもらっています。そこでの接点で、学生も自分にこの仕事って向いているのだろうかということもわかるでしょうし、かなり意義のあるイベントになっていると思います。
ただ、僕らが受け入れられる人数には、どうしても限りがあって、1回で36人しか受け入れられないものですから、大半の人が書類審査で、残念ながら落ちてしまう。10倍超ですからね。学生の皆さんには、それはたまたまだよ、マスコミに向いてないということでは決してないよ、と伝えたいですね。いったん興味を持ってもらったのですから、ぜひ、自信を失くさず、本番の採用試験を受けに来てもらうところまでつながっていくといいなと思っています。
佐藤 中日新聞では、幾つかインターンの種類はあるのですが、昨年は就業体験型インターンを、名古屋と東京の両本社で実施しました。書類選考で20人くらいを選び、6日間行いました。応募者は非常に多かったですね。
当社の場合も、採用とは全く関係なく、会社のためというよりは、業界の底上げのためにやっているような内容です。社会部記者についていって、署回りをやったり、街ネタを取ってきたり、整理部に行って、レイアウトや見出しづけをしたりします。
非常に意識の高い学生が受けに来ます。大学でジャーナリズム教育を受けた学生も、多く見られました。
現場体験としても役に立っていると思います。参加した学生がある展覧会の取材に一緒についていったそうです。実際に取材をして、記者と同じように記事を書いてみた。地方版の隅に載るような記事だと少し軽く見ていたようです。しかし書き上がった原稿を比べて愕然としたと。自分の書いたものとまるで違う。自分は一体、何を見て何を聞いてきたのだろうと、正直に述べていました。ジャーナリズム教育をしっかり受けた学生にこそ、インターンを受けていただいて、記者の体温みたいなものを感じてもらいたいなと思っています。
しかし、インターンに参加する学生の傾向として、全国紙志向が強いのも事実です。当社の採用試験も受けに来てくれるのですが、採用につながった例はあまりありません。インターンを採用に結び付けるつもりは今のところありませんが、この会社に入りたいと志望するきっかけになれば良いなとは思います。もっと地方紙ならではの魅力を体験できる中日新聞らしいコンテンツが必要かもしれません。
岡本 朝日で今のかたちのインターンが始まったのは、ジャーナリスト学校が設立された翌年の2007年。5日間の記者研修です。その後、規模や体制の拡充を重ね、2013年に大きく定員や回数を増やした経緯があります。今年度実績でいうと、記者とビジネス、技術という三つの採用部門と同じ部門で開催していますが、採用には全く直結していません。
記者を例にすると、夏、冬の5日間研修のメインイベントは1泊2日で地方総局に行く総局訪問のプログラムです。本社では中堅の記者がリーダーを務め、地方では、総局の中堅が面倒を見るという形で実施しています。取材体験をして、紙面に載った人もいるようです。総局では夜に校閲当番を体験しますが、それを一緒にやって、間違いを見つけたとか。昨年9月だと、水戸に行った人たちが鬼怒川決壊で早めに帰ってもらった、そういったこともありました。
内定者の中にはインターン経験者もいるのですが、彼らに聞くと、就活って、いろいろと気持ちにも波がありますよね。その中でも、インターンで一緒に体験した感動がすごく残ったそうです。そのときの楽しさが、長い就活期間を通じてずっと志望してくれている原動力になっているのかなと思っています。
夏冬の5日間コースは、現場の負担も大きく、人数を増やせないので、秋に1日体験コースというのもつくっています。そちらのほうは模擬記者会見で記事を書いてもらい、それに対してリーダー役の記者が添削をしたり、みんなでディスカッションをしたりというもので、こちらも、参加して「朝日新聞のイメージが変わった」という学生が目立ちます。
一つつけ加えると、採用に直結しなくても、インターンをやらなくてはいけないと思う理由は、入社して、まず働くことになる職場を見てもらうという意味が大きいことです。
これも受験した学生が言っていたのですが、自分たちはデジタルネイティブなので、デジタルの話は大体聞けばわかると。これからこういうのを目指しているとか、こういうふうに取材の方式が変わっていくとか、発信の方法が変わっていくというのは、頭の中で理解できる。引っ越しをして地方総局で仕事をするというのは、ライフイベントとして大きなことだが、そのイメージが描きにくかった。けれど、総局に行ってみて、具体的なイメージを持てたことは、非常に有意義だったと言ってくれた学生がいました。そのためにやっているのだということを改めて認識した次第です。
水島 去年のケースでいうと、採用時期が遅かったこともあって、たしか朝日だと思うのですが、まだ選考が続いている中で、また募集の告知記事が載ることがありました。各社、いかに記者向きの人を獲得するかというので、時期を考えていたと思うのです。秋採用も含めて、今年はどんな戦略を立てているのでしょうか。時期についてはどうお考えなのか、各社から伺えればと思います。
伊藤 日にちはまだ決めていませんが、6月から始まる試験1回だけというつもりはありません。2年前には4月、8月と定期試験をやったように、2回になるのではないかと思います。最大の理由は、留学を終えて帰国した人など1回目のときに受けていない層がいるだろうということです。さらに言えばこの業界、入りたい人は何としても入りたいんですよ。僕自身、20年以上前に2回目の受験で入っているのです。ゴールデンウィーク明けに全社落ちて、8月にもう1回受けたらひっかかっている。このため、学生に「再チャレンジは、ここに手本がいるぞ」と言っています。
留学経験者と、この業界をすごく志向している人がいるという、この二つの大きな理由から、時期は決めていませんが、昔のパターンに戻る感じかなというのが今のところの見通しですね。
森谷 一昨年ですと、4月にやった後に、秋採用のような形でやっていました。去年はなかなかそういう形にはできなくて、時期をちょっとずらしてやったのです。今年も6月にやるのだったら、夏から秋にかけて、もう一回やりたいと、検討を進めています。留学生対策もありますし、実はほかのところに向いていたけど、いろいろ勉強してみたら、マスコミがいいことがわかったという人もいるんですね。マスコミ以外に目が向いた人が、せっかくこっちに向かってくるのだったら、そういう人にもチャンスをあげたいので、多分2回やると思います。時期については、検討中です。
堤 おそらく6月と、新卒、留学生向けに一昨年のような8月、9月、その辺でもう一度ということを具体的に検討していくことになると思います。
水島 私のところの学生で、去年でいえば、地方紙に内定していたのだけれども、大手の秋採用を待って、最終的に12月ぐらいになって、「私の就職先、地方紙になりました」と言ってくる学生が何人かいました。それまで頑張って秋採用をいろいろな会社で受け続けていたと思われる子がいるのです。そうすると、中日新聞さんの立場でいえば、ひょっとすると逃げられてしまうリスクをどう考えるかということがあるのかと思うのですが、そのあたり、どうですか。
佐藤 当社は、そのリスクがこの中では一番高いでしょうね。毎年、一定数います。
有効な対策は、正直言ってありません。秋採用にリスクヘッジの機能がないわけではないのですが、春とは違う人材を獲得するための意味合いの方が強い。
全国紙にはない、地方紙だからこそできる仕事もあれば、強みもあるわけで、われわれとしては、その魅力が学生にしっかり伝わるようにアピールするだけです。
水島 そういう意味では、中日新聞さん自体の秋採用というか、他業種とか他社に決めていたけれど、秋になってやっぱり、というケースもあるんですか。
佐藤 ええ。あります。全国紙と中日新聞の両方から内定をもらって、当社を選ぶというケースもそう多くはありませんが、毎年ありますね。
水島 そうすると、今年も秋採用もそれなりにやるということですね。
佐藤 そうですね。実際に去年も8月と11月、2回やりました。今年はまだ決まっていませんが、これまでずっと2回やっていますし、メリットも捨てがたいと思っています。秋採用には、春にはない個性を持った人がやってくる。強く印象に残る面接は、むしろ秋採用の方に多い気がします。
水島 わかりました。では、朝日新聞はいかがでしょうか。
岡本 昨年は8月中に2回の筆記試験や面接を行い、働いてもらう人たちにはさんざん文句を言われたりもしたのです。でも、おかげさまで、2回目が終わったところで、全て固めきれたということがありました。反省点もいろいろありますが、やはり今年も、新卒中心の採用の機会を2回持って、選考したいなと考えています。
理由は、留学帰りの方等々が受験できる機会の確保です。また、
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