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ソーシャルメディアの炎上と拡散

発信者と流通経路を見極めよ

鳥海不二夫 東京大学大学院工学系研究科准教授

 2006年は、フェイスブックとツイッターという現在最も使われているソーシャルメディアが一般向けにサービスを開始した年である。それから10年以上が経過し、現在はソーシャルメディア抜きで社会を語ることが難しいほど、世界中でその利用は浸透している。

拡大図1 SNS利用者の変化(2016年度SNS利用動向に関する調査〈株式会社ICT総研〉から筆者が作成)
 日本においても図1に示すように、インターネットユーザーのほとんどがSNSを利用していることがわかる。

 ソーシャルメディアの台頭によって、情報の公開を容易に行うことが可能となり、多くの人々が、単なる情報の受信者から情報の発信者へと変化を遂げた。その結果として、個人が接する情報も、情報発信を専門とする人々によるものではなく、一個人によって発信されたものが増加した。

 しかし、ソーシャルメディアによって起きた変化は、単に情報発信者が増加したということにとどまらない。最大の変化は、情報への接触機会が大きく増加したことであろう。インターネット黎明期には、情報は自ら取りに行くことによって取得されていた。すなわち、検索サイトなどを駆使して自らが必要とする情報を取得しに行く「Pull型の情報収集」が、情報取得の大半を占めていたと言えよう。

 一方、SNSの台頭によって、ソーシャルネットワークで繋がっているユーザーには、友人が発信した情報が自動的に送られてくるようになる「Push型の情報獲得」が増加した。Push型の情報獲得によって、情報を積極的に取りに行こうとしない人々にも情報が広まりやすくなったという点が、ソーシャルメディアが存在する社会の大きな特徴であるといえる。

 さらに、ツイッターやフェイスブックには「他の人の投稿を転送する」機能(リツイートやシェア)がある。すなわち、Pushされてきたあるツイートを「面白い」と思えば、そのツイートをリツイートすることで簡単に自分のフォロワー(友人)に「Push」することができる。逆に言えば、ユーザー個人にしてみれば友人が興味を持った記事が大量にPushされてくるといえる。

 特に、ツイッターのリツイート機能はボタン一つで行うことができ、かつ自分のタイムライン(ツイッターのメインページ)にはほとんど変化が生じないため、転送を行うハードルが低く、多くのユーザーが気軽に情報の転送を行う。これによって、従来であれば「情報に興味を持った人」だけが接していた情報がソーシャルネットワークによって「情報に興味を持った人の友人」に伝わり、さらに転送によって「情報に興味を持った人の友人の友人」にまで簡単に広まる。もちろん、転送の連鎖が発生すれば、その先にいるユーザーにも次々と情報が広まることになる。ツイッター上では1万を超えるリツイートを獲得するツイートも珍しくない。

 このようなリツイート等の情報転送の連鎖によって、情報が社会全体に拡散されていくことは、ネガティブな面で言えば「炎上」として知られ、ポジティブな面から言えば「クチコミマーケティングへの期待」として語られることになる。

 一方で、情報が拡散されていくとき何が起きているのかを正確に理解することは難しい。たとえば、何らかの事例に関して炎上が発生した場合、それに関するツイートは数百万を超えることも多く、数千回のリツイートが誰によってどのように行われているのかを理解することは、単にソーシャルメディアを眺めているだけでは難しい。

 そこで、ソーシャルメディア上で情報拡散がどのように発生し、大きくなっていくのか、そしてその際に世間はどのように反応しているのかを、ネットが社会を動かした事例として知られる「オリンピックエンブレム問題」を対象にソーシャルメディアのデータを分析した結果をご紹介しよう。

五輪エンブレム問題

拡大図2 2015年7月、いったんは発表された東京五輪とパラリンピックのエンブレム。その後、撤回された=2015年7月24日、東京都庁、内田光撮影
 オリンピックエンブレム問題は、2015年に発生したネット炎上事件である。デザイナーの佐野研二郎氏がデザインしたエンブレム(図2)が、2020年東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムとして採用されたと発表されたが、当該のエンブレムのデザインがベルギーのリエージュ劇場のロゴと酷似しており、盗用ではないかという疑いがネットを中心に巻き起こり、最終的には当該エンブレムの使用が中止となった問題である。本問題は、ネットを中心に起きた議論が社会を動かした例の一つと見なされている。

 では、実際オリンピックエンブレムが発表された2015年7月24日から、使用中止が決定された9月1日の1週間後9月7日までのツイッターへの投稿を収集し、どのような傾向があったのかを分析した結果(図3~5)をご紹介しよう。株式会社ホットリンクおよび同社榊剛史氏との共同研究の中で行われた分析事例の一つである。

 まず、この期間に共有されたツイートはどのようなものだったのだろうか? 時間ごとに見ていくと、発表直後の7月24~27日は「東京オリンピックエンブレムだっせえ」「招致エンブレムの方が良かった」などエンブレムへの反対意見が多数リツイートされた。その後、7月28日にベルギーの劇場ロゴと類似しているというツイートがリツイートされ、8月に入るとこのデザインが採用された経緯について、多く拡散されるようになっている。8月10日ごろから佐野氏の他のデザインにもパクリがあったという投稿が多数リツイートされるようになり、9月1日のエンブレム使用中止を迎える。使用中止発表後は「大会組織委員会がエンブレム使用中止の方針」など中止に関するニュースを伝えるものや、佐野氏へのバッシングを憂いたツイートなどが広まった。

 期間中に最も共有されたのはフリーのデザイナーがつぶやいた「『ぼくのかんがえた東京五輪エンブレム』を1時間でつくりました」という内容のツイート。2万回以上リツイートされた。次に多く共有されたツイートは、佐野氏へのバッシングを危惧する内容で1万回以上リツイートされた。

図3 ツイート数の変化拡大図3 ツイート数の変化
 図3に、問題の期間1日ごとに関連ツイートがどの程度投稿されていたかを示す。何か関連する報道や情報が出るたびに小さなバーストを繰り返しながらツイートされ、エンブレム使用中止が決定されたときに最もツイート数が多くなっている。

 炎上は通常3日程度で収まることが多い。事実、盗作疑惑が発生した当日は10万近いツイートがあるものの、3日後には3万程度と3分の1まで減少している。しかし、その後の会見や他の盗作疑惑などが続々と見つかり、長期の炎上になった。炎上時に新たな情報が加えられることを「燃料を投下する」などというが、本件は次々に「燃料が投下」され、炎上が長引いた典型的な例である。

 次に、具体的にどのような情報が主に拡散したかを期間ごとに見てみよう。

まとめサイトが牽引

 ツイッターに投稿されるツイートは、個人の意見表明と情報の共有に大きく分けられる。このうち、情報の共有に関しては、ツイッター内の情報を共有するリツイート行動と、他のサイトの情報をツイッター内で紹介する行動がある。ここでは、どのようなサイトからツイッター内に関連情報が流入したのかに注目しよう。

 ツイッター内に外部の情報を紹介する場合、通常当該情報が掲載されているウェブページのURLがツイート内に含まれる。そこで、URLが含まれるのか、また含まれたURLがどのようなサイトのものかを確認することで、どのような外部サイトから情報が持ち込まれたのかが分析可能である。

 全ツイートを調べた結果、そのうち外部サイトのURLを含んだツイートが48%であった。すなわち、ツイッターに投稿された情報のうち約半数に外部からのURLが含まれていたということになる。これは、オリンピックエンブレム問題については、個人の感想が多数ツイートされていたというよりも、関連情報などを共有するためのツイートが多かったのだろう。ただし、この中には外部URLを含んだツイートをリツイートしたものが含まれる。つまり、外部から流入した情報がツイッターの情報拡散機能を使って広まっていったのである。

図4 情報源となるサイト別ツイート数(トップ30サイト)拡大図4 情報源となるサイト別ツイート数(トップ30サイト)
 この中で、情報源となったサイトの上位30件についてサイトの種類によってツイートを分類した。その結果が図4である。ここから、まとめサイトのURLを含んだツイートが多数拡散されていたことがわかる。まとめサイトとは、ツイッターやネット掲示板の2ちゃんねるの投稿をわかりやすくなるよう一部を抽出し読みやすい形で提供するメディアである。また、バズフィードなどネットニュースの影響も強い。大手メディアのサイトが次にくるが、新聞社系など大手メディアサイトを引用したツイートは、そのほとんどが使用中止が決定してからの投稿である。社会的に話題となったニュースなどは必ずツイッター上でも話題となることを考えると、大手メディアサイトの記事はオリンピックエンブレムが使用中止になるまで、ツイッター上ではあまり話題にならなかったと考えてよい。その意味では、たしかにオリンピックエンブレム問題はネットが世論を動かした例と言うことができるだろう。

保守系ユーザーが興味

 さて、ネットが世論を動かしたと聞くと、これまで届かなかった一般の声が社会を動かしたようで、新しい時代における社会的な動きのように見えるが、その実態はどうだったのだろうか?

 次に「誰が」関心を持っていたのかを分析してみよう。ここでは、ユーザーのコミュニケーションとプロフィールを利用してユーザーの分類を行い、どのような人々がこの話題をツイートしていたのかを確認する。

 ツイッター上では情報拡散行動であるリツイート以外に、他の人とコミュニケーションを取るための機能としてリプライ(返信)がある。リプライは他のユーザーのツイートに対して返信を書くことができる機能であり、リプライが送られたユーザーにはその情報がPushされる。このような返信を送り合うような関係は友人関係にあると考え、社会ネットワークを構築することができる。ソーシャルネットワークにおける社会ネットワークは、類似したユーザー同士がコミュニティーを構成することがよく知られている。つまり、似たような趣味嗜好を持ったユーザー同士はコミュニケーションをとりやすいため、社会ネットワーク上ではそういったユーザーは一種のコミュニティーを形成するのである。

 そこで、リプライ関係に基づいてツイッター上に存在するコミュニティーの抽出を行った。さらに、そのコミュニティーに所属するユーザーのプロフィールの中から特徴語を抽出することで、そのコミュニティーがどのようなコミュニティーなのかを調べた。これによって得られたコミュニティーを分析することで、どのような層がオリンピックエンブレム問題に興味を持っていたのかがわかる。

 得られたコミュニティーには、趣味(鉄道、ゲーム、野球観戦など)のコミュニティーや、職業(IT技術者、デザイナー、学生など)、芸能人・有名人(アイドル、歌手など)、地域(香川県、北海道)などが存在していた。

図5 コミュニティーメンバーによるツイートが全体に占める割合拡大図5 コミュニティーメンバーによるツイートが全体に占める割合
 図5は、ツイート数が多いコミュニティートップ5において、当該コミュニティーに所属しているユーザーによるツイートがデータ全体に占めた割合を示している。

 これを見ると、オリンピックエンブレム問題に関するツイートはネット右翼などと呼ばれる保守系のユーザーによるものが全体の6%近くを占めていたことがわかる。6%を多いとみるか少ないとみるかは難しいが、関連ツイートを行ったユーザーが43万6千人程度いた中で保守系コミュニティーに所属するユーザーは6千人強だった。すなわち、全体の1・4%しかいないユーザーによるものであることを考えれば、十分大きい数値であるといえよう。

 オリンピックエンブレム問題は、政治的姿勢が影響するようには思えない事例であり、通常の炎上事例ではリベラル系のユーザーによるツイートが目立つことが多い。その意味で、この結果は興味深い。なぜ保守系のユーザーがオリンピックエンブレム問題に興味を持ったのだろうか? その要因としては、ツイッターへの情報流入元に2ちゃんねる系のまとめサイトが多く、特に本問題を扱った記事が多かったサイトが、いわゆる保守系ユーザーが好むような記事を多く掲載しているサイトであったことが原因であると考えられる。

 大量の情報拡散を伴うネット炎上には、関心を持つユーザーが偏るものが存在する。明らかに偏っている場合も存在するが、偏っているにもかかわらずその事実が知られていないことも多い。本炎上事例に関して言えば、保守系の人々がネット炎上を支えていたという事実を知っていた人々はどの程度いただろうか。少なくとも筆者はデータを分析するまでその事実には気づいていなかった。ネットにおける情報拡散について理解するためには、その流入経路と拡散主体について確認を怠っては、情報拡散の本質を見失うことになるかもしれない。

 ただし、この結果は、必ずしも「オリンピックエンブレム問題が一部のユーザーによるものであり、本当は社会一般のコンセンサスを得たものではない」という主張を支持するものではない。また、 ・・・続きを読む
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筆者

鳥海不二夫

鳥海不二夫(とりうみ・ふじお) 東京大学大学院工学系研究科准教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、名古屋大学情報科学研究科助手を経て、12年より現職。情報法制研究所理事、計算社会科学、人工知能技術の社会応用などの研究に従事。工学博士。著書に「強いAI・弱いAI 研究者に聞く人工知能の実像」など。