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後戻りできない公開の流れ、既存メディアとの協業に注目

川本裕司

川本裕司 朝日新聞記者

内部告発サイト「ウィキリークス」による米外交公電の公開は功か罪か。その議論はかまびすしい。

 米軍ヘリコプターがロイター通信カメラマンら民間人を2007年に射殺した映像を公開し、イラク戦争の死者10万9000人のうち民間人が6万6000人と公表。一方で、テロ攻撃で重大な影響をうける原子力発電所やワクチン製造拠点などの重要施設の一覧を暴露もする。

 米政府は「外交上の利益が多大な打撃を受ける」「米兵や協力者らを危険にさらす」とウィキリークスを強く非難。余波はたしかにあった。ドイツ連立与党・自由民主党党首のベスターベレ外相の側近がドイツ大使館の情報提供者だったことが暴露された外交公電で発覚し、昨年12月2日に解任された。しかし、協力者が命を失うといった被害例は報告されていないようだ。

 この点では、警視庁公安部外事3課などの内部資料といわれる国際テロ関係の情報が流出し、協力者とされた人物らの名前や生年月日、住所、電話番号などの個人情報がさらされた方が直接的な打撃は大きいのではないか。

 メディア問題への関心が高い日隅一雄弁護士は08年、ウィキリークスに9分間のあるビデオ映像を持ち込み、公開された。95年に動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖原型炉もんじゅで起きたナトリウム漏れ事故の様子を職員が撮影したものだった。隠されていたビデオの存在が判明した時期について事実と異なる日付を記者会見で述べた元総務部次長が自殺。遺族が動燃側に損害賠償を求めた裁判を日隅弁護士が担当した。

 当時、ビデオ映像はテレビで部分的に流されていただけだったことから、その全体を世の中にネットを通じて伝えるため、ウィキリークスに持ちかけたという。日隅弁護士は「どのように入手したか、ビデオがオリジナルか、未発表かなどについてメールで数回のやり取りをした。映像を公開する意味合いを説明し納得してもらった」と話す。ウィキリークスで公開され、すぐに数万単位のページビューがあったという。

 こうした市民側のウィキリークスの活用とは別に、今回の米外交公電の公開で注目されたのは既存メディアの新聞・雑誌との本格的な「協業」だ。欧米の有力メディアに情報を提供し、機密文書を精査したうえで報道していく手法だ。公開がより効果的になり、政治的圧力が減る狙いがあるという。

 昨年7月のアフガニスタン戦争関連(9万件)で米ニューヨーク・タイムズ紙と英ガーディアン紙、独シュピーゲル誌が連係、10月のイラク戦争関連(40万件)では仏ルモンド紙が、11月の米外交公電(25万件)ではスペイン・エスパイス紙がそれぞれ加わった。

 こうした協業の先例として、大手の新聞社やテレビ局と提携している、調査報道を専門とする米国の非営利法人「プロパブリカ」がある。取材結果を自らのサイトに公開するとともに、無料で既存メディアに提供して存在感を示し、寄付を集めるという新しい形の報道を展開、昨年にはピュリツァー賞を獲得した。

 これまで許諾なく違法動画を配信してきたとして放送界から批判を受けてきた、グーグルが運営する動画サイトのユーチューブ。神戸海上保安部の海上保安官がユーチューブに昨年11月に投稿した、尖閣諸島沖の海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突映像を、NHKと民放は繰り返し放送した。

 グーグル広報部によると、ユーチューブに掲載された動画を放送したり配信したりする場合は、動画の投稿主に許諾を取る規約が設けられている。しかし、投稿主のsengoku38は後に海上保安官と判明するが、当時は身元不詳。テレビ局は許諾を取ら

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