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被災地の性犯罪はデマ、にどう対抗するか

澁谷知美

 震災直後、ツイッターや噂話のレベルで、「被災地で強姦が増えた」という情報が流れた。警察は4月1日、「震災に関する不確かな情報の具体例とその対応策」でそのような事実はないと発表(★1)、同日の『朝日新聞』や『産経新聞』がこのことを報道した。

 以来、震災直後からあった、「被災地で性犯罪が発生している」もしくは「増加している」という主張を「デマ」として切り捨てる傾向はますます加速することになった。「発生していることは認める。増加というのがデマなのだ」という意見もある。が、そうした主張をあえて声高に叫ぶ人の目的が「正確な記述の要求」などでないことは、主張の文脈を見れば分かる。被災地での性被害をないことにしてしまいたい、被害者の口を封じたいという思いは、「発生はデマ」という主張も、声高に叫ばれる「増加はデマ」という主張も共有する心性だろう。

 以下では、性犯罪にまつわる基礎知識をおさえたのち、「発生はデマ」という人に向けて事例を紹介し、「増加はデマ」という人に向けて増加を裏づけるデータがないのと同じくらい否定するデータもないことを述べる。そして、表沙汰にならない案件が存在する可能性を指摘する。

 まず、性犯罪一般の基礎知識として、「表沙汰になりにくい」という特徴をおさえておきたい。性犯罪(強姦、強制わいせつ)は親告罪だから、被害者が告訴しないかぎり表沙汰になることはない。そして、被害者が告訴することはまれである。というのも、周囲から「なぜ逃げなかった」「お前が誘ったのではないか」と、むしろ被害者のほうが責められるから。また、おそらく精神的均衡を保つためだろう、嫌な思いが残っていても被害事実を「大したことではない」と捉える人もいて、そういう人も声を上げない(★2)。したがって、性犯罪は表沙汰になりにくい。男女約3700人に調査した法務総合研究所の報告によれば、被害に遭遇したことのある人のうち、届け出たのは約13%のみである(★3)。

 そこに被災地特有の混乱状況が加わると、ますます声が上げにくくなる。この非常時に性被害ごときでガタガタ言うなと口を封じられる。「阪神や中越の震災では、被害者が訴えても『こんな時に何を言うのか。加害者も被災者だ』と逆に叱られ、闇に葬られた例は少なくない」とNPO法人「全国女性シェルターネット」の代表は指摘する(★4)。

 では、被災地での性犯罪の実情は? 「発生はデマ」は本当なのか? NPO法人「全国女性シェルターネット」には避難所でのレイプ被害などの報告が寄せられている(★5)。4月には岩手県で震災後の停電に乗じて20代の男が起こした強姦事件があった。被災地での性犯罪は「ない」というのはウソである。

 すると返ってくるのが、 ・・・続きを読む
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筆者

澁谷知美

澁谷知美(しぶや・ともみ) 東京経済大准教授(社会学)

東京経済大准教授。1972年大阪市生まれの千葉県育ち。東大大学院教育学研究科博士課程修了。専門は社会学および教育社会学、主な研究テーマは男性のセクシュアリティの社会史。単著に『日本の童貞』『平成オトコ塾 悩める男子のための全6章』『立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史』、共著に『性的なことば』などがある。【2015年6月WEBRONZA退任】

 

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