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橋下改革は即効性と乱用の両刃の剣

前田史郎

前田史郎 朝日新聞論説委員

大阪の地域政党「大阪維新の会」が8月、2つの条例案を発表した。教育基本条例と職員基本条例。同会の代表、橋下徹・大阪府知事が掲げる公務員改革を前に進めるため、大阪府、大阪市、堺市の3議会にこの秋、提案するという。施行されれば学校現場と役所の職場環境に与える影響は大きい。両条例に共通するのは、首長の実権を明確にし、政治主導で改革を実行する点だ。既得権益の解体に真っ向から挑む「橋下改革」は新たな段階を迎えている。

 概要案は8月22日、維新の会の幹部が発表した。

 職員基本条例は前文に「公僕であるべき『公』が主役となって権力の中枢に座り、『民』がその決定に隷従している」と現状への懸念を明記。これを改革するため、自治体の幹部はすべて任期付き職員(準特別職)とし、内外から公募する。これにより首長の政策に賛同する人材からなる「大阪内閣」を実現させるとしている。

 柔軟に人事を運用するため、評価が連続して最低だった職員は分限免職にできる規定を盛り込み、組織改編による整理解雇の道も明示した。天下りの禁止条項や、懲戒処分の基準なども並ぶ。

 条例案の背景には、知事が就任以来抱く公務員の身分保障への疑問がある。仕事をしてもしなくても同じ給料、昇進速度で結果が出なくてもクビにならず、年功序列を重視するーー。インセンティブなくして組織の力を引き出すことはできない、というわけだ。

 ここ数年、特に大阪市では公務員の不祥事が相次いだ。河川事務所の職員が清掃中に拾った金品を着服したり、職員が覚醒剤取締法違反で逮捕されたりするなど、モラルの低下で仕事にもならないという思いが背景にある。

 一方の教育基本条例も、前文で「政治が適切に教育行政における役割を果たし、民の力が教育行政に及ばなければならない」と政治主導を強調。校長は「学校をマネジメントする経営者」だとし、校長を教員から年功序列で選ぶのでなく、内外を含めて公募する制度を新設する。通学区域を撤廃して生徒が自由に学校を選択できるようにし、定員割れが続く学校は統廃合すると明記する。

 首長の意思を反映させるため、首長が定めた目標実現のために職責を果たさない教育委員を首長が罷免する権利を明確にした。また学校行事で日の丸・君が代の起立斉唱をしない教員を想定し、同一の職務命令に3回違反したら免職できる項目や、学力調査の公表規定も含まれる。

 橋下知事の教育に対する危機感は並々ならぬものがある。就任して約7カ月後に全国学力調査の結果が発表され、大阪府がすべての科目で全国平均を大きく下回った時には「このザマは何だ」と激怒し、「教育委員会のクソ野郎」とののしった。以来、教育委員会に対し、因縁とも言えるほど厳しい視線を向け続けている。

 二つの条例案は条文では発表されておらず、様々な意見を聞いて変更していくという。

 すでに大阪府立高等学校教職員組合は「民主教育の原則である教育の自主性を否定し、命令と処分による脅しで政治家の意図を教育現場に押しつける」とする談話を発表、作家のあさのあつこさんらも反対の共同アピールを出した。

 二つの条例の趣旨は言ってしまえばこうだ。さぼっている公務員を排除し、のんびりした職場に競争と緊張をもたらす。学校に外の風を入れ、首長の方針のもと情報を公開し、成果を出した先生を処遇する--。これに反対する人は、そういないだろう。当事者の公務員と教職員は反発し、闘いになる。反対すればするほど府民は改革する側を応援する。民意をつかむのが巧みな橋下知事率いる維新の会らしい問題提起だ。

 ただ気になるのは

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