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アップルは世界の頂点、ライバルには大差

林信行

林信行 ITジャーナリスト

■ジョブズは、数十年に一度の辣腕経営者

 「時折、革命的な製品が出てきてすべてを変えてしまう。生涯、1つでもそうした製品に関われれば幸運だが、アップルはこれまでにいくつもそうした製品を出してきた。」

 これはアップルの創業者で元CEO、スティーブ・ジョブズが、2007年に最初のiPhoneを発表する前に語った言葉だ。1970年代に家庭用パソコンを生み、1980年代中頃にマウスで操作する今日のパソコンの原型を世に送り、さらには電子出版革命にも火をつけた彼だが、1996年、アップルに再び戻ってからの15年に成したことはさらに凄い。

 '90年代後半、薄利多売でコモディティー化傾向だったパソコン市場に一石を投じたiMac、無線LAN技術をいち早く採用したiBook、アップル・ブランドをWindowsの利用者にも広げ白いヘッドホンをつけた若者を世界中に氾濫させたiPod、今や世界最大規模となった音楽販売ビジネスのiTunes Storeと革命的な製品の発表に暇がない。

 中でも大きな発表なのが、世界の携帯電話業界を一変させ携帯ゲーム業界にも大きな衝撃を与えたiPhoneの発表と、今、出版、教育、ゲーム、ファッション、音楽、ホテル、医療など多彩な分野に大きな変化をもたらしつつあるiPadの2つの発表だろう。

 実はこれらひとつひとつの製品のディレクションを行い、自ら発表してきたのがCEOのスティーブ・ジョブズ自身なのだ。

 彼がそうすることで、わずか15年前に倒産寸前だった同社を、時価総額で石油会社や鉱物資源会社と肩を並べる世界最高位まで成長させてしまった点も驚かざるを得ない。

 日本では昨年、1年間で合計3764万台売れた。アップルは、それを上回る3899万台のiPhoneを直近の半年間で売っている。しかも、日本の出荷台数は合計200機種近い端末の合計だが、アップルの数はたった2機種で成し遂げたものだ。

 人々が裸になる寸前、温泉の脱衣所まで持ち込むただ1つの電子機器の分野で、アップルは日本メーカーすべてを合算したものよりもはるかに大きいビジネスを行っている。

 そのアップルを率いてきたジョブズが、数十年に一人の辣腕経営者であることは間違いない。だが、彼がいかに優れてるとは言え、すべてを一人でやってきたわけではない。

 ■今のアップルの基盤をつくった後任経営者

 何よりもアップルにこれだけの魅力的な製品をつくらせる基礎体力をつけさせたのは、ジョブズの後任として、これからのアップルを率いるティム・クック氏の功績が大きい。

 '90年代、市場シェアを気にするあまり、製品を拡大し過ぎて、大量の在庫を抱え、それが原因で破産の危機を迎えたアップルだが、ジョブズが同社の指揮を執り始めると、彼は製品数0個からの再出発を掲げ、秘密裏に見た目にも内部技術的にも革命的な新世代パソコン、iMacの開発に全精力を注いだ。

 発表されれば話題になること間違い無しのこのパソコンを出すにあたって、それをテコにアップルの体質改善を図ろうと、コンパック社からクック氏をジョブズ自らがヘッドハントした。クック氏は、自社工場と倉庫をなくし、製品の製造を中国の工場に委託するファブレス型にアップル社を転換。さらに、ニュースでも話題のiMacを売りたい代理店には、新たにアップルと代理店契約を結ばさせ、製品の売り上げ状況をリアルタイムに把握し、各店に製品を売れた数だけ製造工場から直接、補充するしくみを用意した。これでアップル社の流通在庫は激減し、利幅が大きなビジネスが可能になるばかりか、全製品をグローバルモデルとした世界展開も可能になった。

 クック氏は、今でもアップルの製品ラインが無駄に増え過ぎないように「すべての製品がテーブルの上に並べられるくらい」で保てるように目を見張っている。

 そして、それら一つ一つの製品が、心血を注ぎ込んでつくられ世界トップクラスの売り上げを誇っているのが今のアップル社だ。

 時価総額でも世界の頂点を極めた、大抵の企業を買収できる同社が、まかり間違って今後、戦略ミスをつづけても、失速するには数年の時間はかかるはずだ。

 だが、アップルの新経営陣はクック氏以外も、世界トップクラスの優秀な人材ばかり。彼らが数年にもわたって戦略ミスを続けると考えることの方が難しい。

 クック以外の優秀なスタッフも、

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