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球団経営は自由競争でいいのだろうか?

大坪正則(スポーツ経営学)

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 プロ野球(NPB)の今シーズンも各球団の残り試合が30を切り、パ・リーグはリーグ優勝の先行きが見えてきた。だが、3位争いはセ・パ両リーグ共に昨年同様熾烈な戦いが続いている。一般論だが、優勝争いがシーズンの最後まで続き、3位への滑り込みが際どいほど、球団の経営にプラスになる。なぜなら、白熱した試合が期待できるので、観客が増え、テレビ視聴率も向上するからだ。

 9月4日の朝日新聞「GLOBE」が「プロ野球ビジネスどこへ」を特集した。その中に興味深いインタビュー記事があった。ある球団のオーナーが「球団経営、基本は競争」とコメントしていたのだ。

 確かに、日本のプロ野球(NPB)は長年にわたり個別球団がグラウンドの上のみならず、グラウンドの外でも「競争原理」の下に球団経営を行ってきた。しかし、世界のプロリーグと比較した時、NPBの球団が「競争原理」を唱えるのは論理的ではないようだ。球団経営はいかなる理念に基づいて行われるべきか、まとめることにする。

7回の攻撃を前に、風船を飛ばす福岡ソフトバンクのファン=福岡市のヤフードーム

 NPBビジネスの根幹となるリーグ全体の経営を資本主義経済に基づく「自由競争」の下で行うのか、それとも社会主義経済に似る「戦力均衡」の考えの下で行うのか、NPB傘下の12球団のオーナーの間で意見がほぼ半々に分かれていると聞いている。

 NPBの最高意思決定機関であるオーナー会議では、定数を満たした出席者の4分の3が賛成しない限り、新規の提案事項が現実化することはない。リーグ経営の大方針について、12名の最終意思決定者の意見が分かれ、半永久的に方針が定まらないことが、NPBがアメリカメジャーリーグ(MLB)に10年間で5倍の収入格差をつけられた要因の一つであることは論をまたない。

 経営会議で役員の意見が分かれ、そのために重要案件に対する意思決定を先送りする企業は成長が停滞し、業績の悪化を招くことが多い。NPBはこの状態が続いているのだから、全体の4分の3の球団が赤字続きであることも納得できる。

 プロスポーツリーグの経営において、自由競争の典型的な例はヨーロッパサッカーだ。スペインとイタリアをとり上げるのがわかりやすい。両国のサッカーは、ピッチ(競技場)上のルール以外、全て自由裁量の下で行われる。即ち、ピッチの外では金銭の出し入れを含め、クラブの経営が制約を受けることはない。

 その結果、スペインではバルセロナとレアル・マドリードの2強とその他クラブとの間に著しく経営と戦力の格差が生じている。イタリアも同様で、国内リーグの優勝をインテル、ACミラン、ユベントスの3強が独占する状態が続いている。

 ただ、ヨーロッパサッカーは、国内リーグ戦の終了がシーズンの終わりにならない。国内リーグ戦の上位クラブには、チャンピオンズ・リーグなどのヨーロッパサッカー連盟(UEFA)が主催する各種トーナメントに出場する資格が与えられる。ヨーロッパでの優勝争いを演じた後、国際サッカー連盟(FIFA)が主催する世界一を目指して争うトーナメント(一般的に「トヨタ杯」と言う)の決勝戦が終わった時点で当該シーズンの終了になる。

 従って、個々のクラブが戦力を強化すれば、世界一のクラブとして君臨でき、それと同時に、UEFAやFIFAが主催する大会を通じて多額の「賞金」を得ることができるので、クラブの経営は充実・安定する。また、国内のリーグ戦の後に、大陸ごとに、更には世界一を目指すトーナメント大会が控える場合、ヨーロッパサッカーに「戦力均衡」の規制をかけることは、ヨーロッパ以外の世界中のリーグにも同様の規制をかけなければならず、理論的・実務的に無理がある。FIFAを頂点に世界のサッカー全体をあたかも一つの組織とする場合、自由競争でなければ収まりがつかない。

 ヨーロッパサッカーと異なり、アメリカのプロリーグは「戦力均衡」を経営の大方針にしている。資本主義自由経済の旗頭であるアメリカが社会主義的システムを採用していることが面白い。アメリカでは、なぜ、「戦力均衡」が重視されるのだろうか?

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