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抜本改革なしの受信料値下げ、NHK職員は余裕

川本裕司 朝日新聞記者

受信料値下げに初めて踏み込んだが、パンチはいまひとつ? 来年10月からの受信料7%値下げを盛り込んだ2012年度から3年間のNHK経営計画が10月25日の経営委員会で議決された。ただ、通信と放送の本格的な融合など法体系の変更を必要とする抜本的な見直しは見送られた。地デジ化によって増えた衛星放送受信世帯の契約アップで潤沢となった営業収入で、値下げをひとまず乗り切る戦術に映る。

 値下げの源流は、小泉政権時代に総務相だった竹中平蔵氏が発足させた「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長・松原聡東洋大教授)にある。06年6月6日にまとめられたの報告書は過激だった。(1)経営委員会の一部委員の常勤化など抜本的改革(2)肥大化したNHKのチャンネルを8から5に減らす(3)娯楽・スポーツ部門を本体から分離する(4)番組アーカイブのブローバンドでの提供(5)国際放送のインターネット上での提供などによる強化(6)受信料の大幅引き下げと支払い義務化。

 当時、NHKでは不正経理などの不祥事が相次ぎ、守勢に立たされた。

 竹中懇の結論は6月20日、元総務相の片山虎之助自民党通信・放送産業高度化小委員長が押し返し、「NHKの保有チャンネルの削減については十分詰めた検討を行う」「受信料引き下げについての検討を早急に行い、必要な措置を取る」というあいまいな表現の政府・与党合意で決着した。

 安倍政権時代の07年6月、NHK経営委員長に就任した古森重隆氏(富士フイルムホールディングス社長)は07年9月、橋本元一会長(当時)の執行部が示した地上契約の月額100円(約7%)の値下げ案を「不十分」と承認せず、再検討を要請した。そして、08年10月、「12年度から受信料収入の10%還元」を打ち出した中期経営計画(09~11年度)を、福地茂雄会長(当時)らNHK執行部の反対を押し切って議決した。記者会見で報道陣から還元の意味を問われた古森委員長は「値下げと考えている」と答えた。これが「公約」となっていた。

 受信料10%は、地上契約の口座・クレジット払いの月額でいえば130円余り。経営委員からは「100円前後安くなるよりも、いい番組を放送した方が視聴者は喜ぶのでは」という声が強まりだした。

 広告収入の落ち込みで制作費の削減を続けてきた民放に比べ、NHKは番組制作費を落としていないことから、相対的に番組の質の差が開いている。報道・ドキュメンタリー番組での海外取材をはじめとした制作のかける費用、人数、日数において、民放はNHKの足元にも及ばない。民放の番組を手がけるある制作会社社長は「海外のコーディネーターの費用などをNHKは金に糸目もかけず相場を上げるので困る」と、NHKの潤沢な制作費をうらめしそうに話す。

 今年7月の地上波テレビのデジタル化で、地上波、BS、CSの3波を視聴できるチューナーが普及、BS受信世帯が増加。それに合わせてNHKのBS契約が増え、収入面の貢献が大きくなっていた。

 今回議決した数土文夫経営委員長(JFEホールディングス相談役)は、10月25日の会見で自画自賛に終始

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