大坪正則(スポーツ経営学)
2012年01月05日
「継続は力なり」とはよく言ったもので、1年間レポート提出を続けると彼らが着実に力を付けているのが実感できる。私の方も彼らの意見はスポーツ界の今後の動向を洞察する上で参考になる。
11月と12月の彼らのレポートは読売ジャイアンツ関連が多かった。彼らの意見が私の日頃の授業内容に影響を受けるのは避けられない。だから、彼らがバイアス(偏向)のかかった見方をしていることを考慮する必要がある。そのことを勘案しても、おおよそ80%が巨人の一連の行動・言動に否定的意見だったのには驚いた。
学生の反応を読み取る限り、巨人は時の流れや環境の変化を見誤ってボタンの掛け違いを犯したようだ。学生のテーマと意見を集約すると以下のようになる。
一つ目は菅野智之投手。焦点は「職業選択の自由」。
ドラフト指名の抽選を日本ハムに引かれた菅野投手に同情をするが、ドラフトはリーグの新人雇用システムであり、球団の個別採用ではない。だから、ドラフトでは新人選手に職業選択の自由はない。もし、菅野投手が競合なしで巨人に入団することになっていれば、巨人の「無抽選」は長野久義外野手、澤村拓一投手に続いて3年連続となる。巨人の囲い込みは酷過ぎる。これではドラフトは骨抜きだから、ドラフトをする意味がない。
二つ目は清武英利GM(当時)の記者会見。ポイントは「文化的公共財」。
記者会見よりも清武氏が読売新聞の臨時取締役会で解任されたことが問題。意思決定が巨人ではなく読売新聞がおこなったのがショック。これで球団経営にくちばしを入れる親会社の存在が明確になり、親会社の利益が優先された。これでは巨人は文化的公共財ではない。
三つ目はフリーエージェント(FA)や自由契約になった選手の獲得。争点は「戦力の均衡」
FA宣言をした村田修一内野手と自由契約になったD・J・ホールトン投手を獲得。加えてFAの杉内俊哉投手も入団が決定した。野球協約には違反していないが、他の球団の四番打者やエースを金の力で集めるのには反対。せっかく若手選手を育成していたのに、昔のやり方に戻るのに賛成できない。戦力の均衡が大事。巨人の考えは古い。
7年前大学で教え始めた頃、学生の大半はサッカーよりも野球に興味を示したが、最近は「する」「見る」両方で、サッカーが野球を圧倒している。彼らは親会社(出資会社)が露骨な干渉をしないJリーグに慣れ親しんでおり、プロ野球が球団名に親会社の名前を付けることに否定的姿勢を示す場合が多い。
例えば、買収後の「横浜ベイスターズ」の球団名に「DeNA」を組み入れるやり方に賛成する学生は少数だった。このように、学生のプロスポーツに対する見方も変化している。読売新聞と巨人が、「巨人が勝てば観客は戻る」と考えて一度決めたことを覆したり、過去に通用した強引な選手獲得に走ったことを、学生及び恐らく多くの野球ファンは奇異に感じながら見つめていたと思われる。
とはいえ、読売新聞と巨人には彼らなりの理由があったはず。そして、なぜ彼らは世間受けしない手法を取らざるを得なかったのか、その背景を分析することが重要だと考える。
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