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『ネットと愛国』が描き出す「ナショナルな気分」

西岡研介 フリーランスライター

『ネットと愛国-在特会の「闇」を追いかけて』(安田浩一著、講談社刊)というノンフィクションがまさに、そのインターネットやツイッター上で話題になっている。

 この本の主役である「在特会」(在日特権を許さない市民の会)は、ネットの掲示板で、国粋的、保守的な書き込みを好んで行う、いわゆる「ネット右翼」と呼ばれる人々を中心に、2007年に結成された「市民保守団体」だ。「弱者のふりをした在日朝鮮人が数々の特権を享受し、日本人を苦しめている」などと主張している。

 彼らの主張する「在日特権」がいかに妄想に基づくものかは本書に譲るとして、在特会は、この主張をネット上で繰り返すだけでなく、支持者らとともに集団街宣やデモを行うというまさに「街頭におどり出たネット右翼」である。

 09年12月には、京都朝鮮第一初級学校に「抗議」に訪れたメンバーが威力業務妨害などの容疑で逮捕(10年8月)されるなど複数の事件も起こしていることから、ご記憶の方もおられるだろう。本書は、この在特会の実態に迫り、その正体だけでなく、彼らを生んだ現代社会の「空気」をも描いていく。

 動画サイトなど、ネットメディアを主戦場とする在特会のメンバーに、著者の安田氏はあくまでリアルの世界で迫ろうとする。ペンネームで活動するリーダー「桜井誠」氏の実名を割り出し、彼が生まれ育った北九州市で、その幼少時代を知る人々を訪ね歩く。そして高校時代はおとなしくて目立たない「クラスで最も地味なヤツ」だった桜井氏が、カン高い声で絶叫しながら、拳を振り回して街頭を練り歩く「ネット右翼のカリスマ」になるまでの軌跡を丹念に追っていくのだ。

 また前述の「京都事件」で逮捕されたメンバーの自宅を一軒一軒訪れ、彼らがなぜ事件を起こすに至ったかを問い続ける一方で、イラン人の母や、韓国籍の祖父を持つにもかかわらず、在特会に入り、在日朝鮮人(外国人)に対し、ヘイトスピーチ(人種等を理由に他者を貶めるような言動)を繰り返す若者たちと食事を共にし、彼らの心の奥底に沈んだ悲しみや怒りを掴みとろうとする。

 そして在特会とは直接的な関係はないものの、明らかに彼らの行動に触発された、フジテレビに対する「反韓・嫌韓(流)」デモにも足を運び、それに参加した「普通の人々」の思いに耳を傾ける。

 そこから見えてきたものは、在特会のメンバーや支持者の、権利や仕事、富など様々なものを外国人によって「奪われた」という屈折した被害者意識や、「自らの存在を他者に認めて欲しい」という承認要求、そして

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