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名張毒ブドウ酒事件とOJシンプソン事件

河合幹雄 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

名張毒ブドウ酒事件再審請求が棄却された。悪い意味で予想どおりの決定だ。事件に対する私の評価を率直に述べれば、物証や鑑定は信用できないもので再審の必要性がある。ただし、奥西死刑囚は、検察と弁護団のやり取りから読み取れる状況判断からは、おそらく真犯人との心証である。裁判官の心のうちが覗けるわけではないが、裁判官も私とそう異なった心証ではないと推察している。現在日本の裁判所の傾向として、無実の可能性が極めて高いときでさえ大変苦労してようやく再審が認められる。そうだとすれば、黒であると文句なしには言えないという程度の名張毒ブドウ酒事件の再審が認められることはむずかしいと予想していた。

 「疑わしきは被告人の有利に」をめぐる論点は法律家にまかせて、捜査の話をしたい。妻と愛人をめぐる三角関係といった背景が出てくると、単純に、それが原因で二人を殺すという動機があったと見てしまう。殺人事件を深く考察すればそんな理由で殺人が起きることに納得してはいけない。しかし、自分もわかったような気になるし、他人もそう思うであろうから公判も簡単に乗り切れると考えてしまいがちである。その結果は、物証を固める捜査を十分にしないし、「オマエダロ」と自白させてしまえということになる。一審津地裁が無罪を出しているぐらい証拠も自白もいいかげんなものである。

 この状況はアメリカで有名なOJシンプソン事件を想起させてくれる。シンプソンは、

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