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竹島=独島騒動を韓国で体験してみれば

澁谷知美

澁谷知美

 この記事の目的は、この夏の竹島=独島騒動を韓国ソウルで体験してみてどうだったか、を報告することである。結論から述べると、危険な目や嫌な目にあったことは一度もなかった。韓国人がたくさんいる街中に毎日のように外出し、日本人ヅラ下げて日本語なまり丸出しの韓国語でしゃべっていたけれど、本当になにもなかった。あいかわらず人びとは情に厚く、キムチは辛くて、バナナ牛乳はおいしかった。いつもの韓国であった。

 わざわざ報告する内容ではないのかもしれない。たんに私が恵まれていただけかもしれない。「火消しに必死だな ワラ」と悪口も書かれるであろう。だが、本当にそうだったのだから仕方ない。目を血走らせ、口角に泡をためてヘイトスピーチをがなり立てる……と擬人化してもおかしくない日本のネット状況を前に、この小文で火消しができるとも思っていない。

 もしこの文章にいささかの意義があるとすれば、現在、ネット上で目立っている言説とは別種のものを提出することだろう。韓国語を勉強するていどには韓国に関心のあった日本人女性モデルが、この夏の韓国旅行で嫌な目にあったことをブログに書き、大きな注目を浴びた★1。彼女の体験も現実なら、私の体験も現実である。特定のリアリティだけがクローズアップされてよい理由はない。目立たなくとも別の「現実」を添えることには意味があると考えている。

 散漫だが、以下、日記ふうに出来事を列挙する(時系列にあらず)。下手にまとめるより、ソウル住まいのリアリティが伝わりやすいと考えたためである。

■台風の日の2つの事実

 8月28日、ソウルに台風が直撃した。窓ガラスに新聞紙を貼りつけたり、テープでバッテン印をつける家を見た。準備万端である。

 単身韓国にやってきてはじめて台風を経験する私を気づかって、3人の韓国の友人が「大丈夫? 気をつけてね」というメールをくれた。その温かさにホロリとし、はたして自分が日本にいる時、海外から来た友人にこのように親切に接したか反省した。

 同じ日にたまたま在韓日本大使館のホームページを見た。最近の日韓情勢の悪化を受け、大使館に汚物が投げこまれたり、放火されたり、デモがあったり、脅迫電話もかかってきている。在韓邦人の皆さんも注意されたしという文言が掲げてあった★2。

 大使館員に同情した。なにがあろうとも暴力はダメである。親切にメールをくれるのも韓国の人、大使館にクソを投げこむのも韓国の人、である。

■愛国心にたいする韓国人の違和感

 7月中旬、FMラジオをつけていると、「太極旗を目にする時、サッカーを観る時、独島のニュースを聴くとき、私は思う。大韓民国を愛していると。あなたの愛国心はどうですか?」(大意)という公共CMが流れてきた。キャンペーンは数週間つづいたと記憶している。10分ごとにヘビロテで流れてきたこともある。

 耐えきれずチャンネルを変えた。どの国のものであれ、政府が国民に愛国心を持てと促すのを耳にするのは生理的に受けつけない。

 数日後、韓国の知人がかのCMを話題にした。「あれはヘンだよね。ほかの人もヘンだといっている」。後日、韓国語のブログを検索してみると、一生懸命働き、家族を養い、税金をおさめているだけで十分に愛国者なのに、それ以上のことを要求されるのは……とこのCMのテレビ版に疑義を呈するブログを見つけた★3。もちろん、キャンペーンがつづいた以上は好意的な反応もあったのだろう。韓国国民の中にもいろいろな意見がある。

■竹島=独島問題についての友人との会話

 8月下旬。8月10日の李明博大統領の竹島=独島訪問意後、韓国の友人と会う。彼女は日本のドラマが大好きな日本びいきである。このたびの日韓関係の悪化で日本に行けなくなってしまうのではないかと恐れていた。そして、 ・・・続きを読む
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筆者

澁谷知美

澁谷知美(しぶや・ともみ) 東京経済大准教授(社会学)

東京経済大准教授。1972年大阪市生まれの千葉県育ち。東大大学院教育学研究科博士課程修了。専門は社会学および教育社会学、主な研究テーマは男性のセクシュアリティの社会史。単著に『日本の童貞』『平成オトコ塾 悩める男子のための全6章』『立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史』、共著に『性的なことば』などがある。【2015年6月WEBRONZA退任】

 

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