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問われる日本ハムの戦略――糸井嘉男をトレードに出したのは正解か?

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 プロ野球(NPB)の各球団が2月1日からのキャンプインに備える一方で、選手たちが自主トレーニングの最終段階に入った1月23日、北海道日本ハムファイターズとオリックスバファローズとの間で、糸井嘉男外野手、八木智哉投手と木佐貫洋投手、大引啓次内野手、赤田将吾外野手との交換トレードが成立した。

 このトレードに対して大方の人が、オリックスのほうが得をしたのではないか、と日ハムの判断に疑問を呈している。その根拠の一つに挙げられるのが糸井の実績だ。

オリックスのユニホームを着た糸井(右)と八木=2013年1月26日

 糸井は4年連続で打撃3割を打ち、中田翔と陽岱鋼との外野手トリオは12球団随一の鉄壁の守備力と謳われていた。加えて、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の代表候補にも選出された。

 彼は日ハムの看板選手だったし、日本を代表する選手の一人なのだ。しかも、彼は2013年シーズン終了後にポスティングを利用して米国メジャーリーグ(MLB)に挑戦したい旨を球団に申し入れていたそうだから、今年末、日ハムはポスティングから入る移籍金を戦力強化に活用することもできた。

 日ハムにとって彼は戦力の中枢に位置する選手の一人であると同時に、金の卵でもあったはず。そんな重要な選手にもかかわらず、このトレードは日ハムが主導したというのだから、多くの人が日ハムの判断基準を理解しきれないでいるのが実情のようだ。

 日ハムの内部を覗いてみると、確かに、投手部門では2012年に大活躍した吉川光夫と成長すれば8~10勝程度を計算できる斎藤祐樹の両投手が故障で少なくもペナントレースの序盤は戦列を離脱するのが確実だ。

 野手部門もFAの田中賢介と故障で長期離脱の金子誠の2選手の穴埋めが急務であることは間違いない。その意味ではある程度やむを得ない決断だったのかも知れない。球団の判断が正しかったか否かが分かるのは2013年シーズン末、場合によっては2014年末まで待たなければならない。

 ところで、日ハムは独特な手法で選手を評価していることで知られている。ITを駆使したやり方を球団は「ベースボール・オペレーションシステム」と呼んでいる。もちろん、同じようなシステムを読売ジャイアンツなど他球団も活用しているので、12球団の中で日ハムだけの珍しい方法ではない。

 しかし、日ハムのフロントは、このシステムを使えば、監督・選手が変わっても戦力を維持できると公言している。現に昨シーズンは、エースだったダルビッシュ有がMLBに移り、新監督の栗山秀樹氏にコーチや監督の経験が全くなかったにもかかわらずリーグ優勝を果たした。

 さらに、2012年の末はMLB入りを表明した大谷翔平をドラフト1位で指名し、彼のMLB行きの意思を翻した。これら一連の動きを見ると、明らかに、日ハムが他球団と異なる座標軸を有していることは間違いない。

 したがって、今回の糸井のトレードも、単なる目先の戦力補強のためではなく、日ハムらしい戦略的な判断があったのではないかと推測されるのだ。 

 プロ野球の球団は、オーナーと社長(役員)を支える財務・経理・総務・人事の管理、収入(営業)に携わるビジネス・オペレーション、グラウンドの上で働く監督・コーチ・選手を管理下に置くベースボール・オペレーションの部門で構成される。

 ベースボール・オペレーションは、オーナー(社長)-ジェネラル・マネジャー(GM)-監督(とコーチ)―選手の指揮系統の下で行われる。資金の供給はオーナーの責任で、オーナーが設定した予算の範囲内で監督と選手を揃えるのがGM、そして、監督はGMから与えられた選手で優勝を争う責任を負う。従って、チームが優勝争いから早々に離脱した時、オーナー/GM/監督の誰が責任を負うべきかを明らかにすることができる。

 日ハムの場合、GMの役割を編成本部長以下オフィスの事務方が担っているので、ここに他球団との違いが見出せるようだ。言いかえれば、ITの数字をもとに集団で監督や選手の人事案を決定しているので、「鶴の一声」で決定が一夜にして覆ることは起こらない。その代わりに、結果が出ない時に誰が責任を取るのか、責任の所在が不明瞭になりかねない危険も潜んでいる。

 チーム編成においてもう一つ重要なことがある。

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