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国策としては正しいが、国内では当面売れない4Kテレビ

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄住金総研研究主幹

 いらないものは売れない。いるようになったら売れる。そのとき見てもらえる。

 身もふたもないが、4Kテレビの問題はこれがすべてである。

 世の議論を見ると、論点が混在しているようだ。問題を整理してみる。

 まず技術。現行のハイビジョンの横方向の画素数(2Kとは2000のこと)が2倍になる4K、4倍になる8K、というスーパーハイビジョンの映像技術自体は、WebRonzaの科学・環境アリーナで伊藤智義氏が書かれている(2013年02月15日「4Kテレビに思う『技術力の本質』」)とおり、もう10年以上前から、主に映画館やデジタルサイネージなどの大画面向けに試作品が存在するもので、現時点ではすでに完成した技術と言っていい。同氏が言う「製品化が遅すぎる」という点は同感で、筆者も「4K? ずいぶんなつかしい言葉だな」と思ってこの4K放送前倒しのニュースを聞いた。高精細映像の技術自体は今後もさらに成長する。それは視聴料を得て国家的技術開発に取り組むNHKの面目躍如であり、活動自体は多方面の産業の伸びしろを支える可能性を持つ点で、後段に登場する人々の所業に比べ、とてもよいことだ。

 次に制作。4K放送を制作するには、撮影機材や編集機材の置き換えはもちろんのこと、照明やセットなどスタジオ側の設備の改善、それらを扱うスタッフや出演者の新たなノウハウ獲得、に対してさらにコストをかけていく必要がある。いかなる見解があろうと、「映像の面白さはコストに忠実に比例する」ことは業界の歴史が証明してきた。この追加コストを下支えしてくれる制作資金は、テレビ業界全体を見渡しても、NHKの視聴料以外にはもう残っていない。アベノミクスの消費浮揚程度では民放が(広告収入がそこそこ上がりはするが)往年のような映像技術費はかけられない。BSやCSやCATVやOTT-V(ネット動画配信)で多チャンネル有料映像の収入増になるかというと、それらをじっくりたくさん見るリテラシーとライフスタイルがこれ以上日本人に広がらないことは、ブロードバンド・ユビキタス騒動の約10年で証明済である。4K8Kについて、放送局の動きは根本的に鈍い。

 その次に伝送。今回総務省が前倒しで周波数をCS放送(スカパー!)で用意するという話はここだ。当分は試験放送であり、サッカーW杯や五輪を目指しての実証実験と見るべきものである。筆者はWebRonzaにおいてたびたび総務省放送行政施策の歪みについて述べてきた。国家資産たる周波数帯を有効活用しているふりをしないと、国内的にも国際的にも召し上げられてしまう、それは理屈抜きに許せないことなので、民間から必要性を訴えられたと説明しながら手を変え品を変えの予算措置で仕事を作り続ける、新産業形成の結果責任は負わないと言い切る、という構造は今回も変わらない。ただ今回、高画質対応の帯域確保を順を追って着手するという、この施策のベクトル自体は的確だと言っていい。遠い昔から「映像なんていらない」「カラーなんていらない」「デジタルなんて‥」「ハイビジョンなんて‥」という議論は都度起き、敗れ去って消えていったので、長期的な必要性が生じるという未来予測は筆者も賛同する。なお、総務省が新産業形成の責任を持つのはあくまでも免許を発行する放送事業者であり、その一部株主に過ぎないメーカーにはまったく無関心無責任であること、官庁としてはそれで適切であること、を認識しておく必要がある。

 そしてようやく、端末による視聴の論点になる。テレビメーカーがこぞって決定的挽回策として事業の柱に据えている。総じてメーカーの担当者は強気の発言、周辺の評論はネガティブだ。前者はマーケティングの見通しについて何も語っていない。後者は曰く、マーケティングとして破たんしていると語る。歴史的にテレビは10年に一度買い替えるものであり、地デジ完了時に需要を先食いしてしまったので、3Dと言おうが4Kと言おうがいらないものはいらない、韓国メーカーも品質がいいし、国産も安くたたき売りされているし、4Kを録画再生するHDDレコーダーのキャパもない、そもそも50インチなんて1人や2人住まいの家に置く場所がない、こんなこともわからないから、兆の規模の赤字を出して今日の明日にも会社がつぶれるんだ、という論法だ。

 メーカーの事業担当役員クラスが、 ・・・続きを読む
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筆者

倉沢鉄也

倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄住金総研研究主幹

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

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