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渋谷の輝きは不変、「東横線」には陰り

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 16日から、東急東横線が渋谷を抜けて新宿三丁目、池袋、その先東武東上線(和光市から)と西武池袋線(練馬から)までつながり、相互乗り入れ運転が開始された。これは新宿東口対渋谷のみならず、横浜周辺、JR対東急も含めた多様な論点が存在する。商業立地の定量的検討が不得手な筆者からは、せめてシンクタンカーとしての得手な分野から、個人的に両方とも30年近く利用してきた新宿東口対渋谷についての、周辺論点を整理してみたい。

 筆者は、都市交通から情報通信に得意分野がシフトしていった経歴を持つため、その両者で共通する法則をいくつか知っている。その一つに「ネットワークが充実すると、地域の均衡ある発展を破壊し、人の流れと富の集中を起こし、優劣を助長させる」というものがある。いま盛んにニュースショーや雑誌の特集などで「新宿が若者の取り込み」「渋谷が大人の取り込み」と持ち上げて報じているが、行きたい街と店は、すでに消費者の中で決まっていて、これを覆すインパクトを作れる新規「マーケティング(既存製品をどう売るかの工夫)」は難しい。人は、店に向かって、商品・サービスに向かって出かける。銀座や浅草がそうであったように、変えられるもの、変えられないものが、それぞれの街に店にしみついていて、これを覆す力は、店側・街側のメッセージではない。人々の思い込みだ。

 わかりやすい例として、テニスグッズのマーケットを挙げる。新宿と渋谷でこれほど市場規模の違う商品群も珍しい。すでに高齢者まで広がり若者のサブカルチャーから遠ざかったはずのテニス専門ショップの店舗売上で言うと、渋谷の店舗群で全国(首都圏ではない!)の2割弱を占める。大手テニスショップの新宿店はいずれもこじんまりしており、渋谷店に遠く及ばない。首都圏のテニスグッズとその最新情報は、ネット販売を除けば、今もわざわざ渋谷に買いに行くものである。

 マーケティングは難しいが、マーチャンダイジング(新商品開発)による新ブランド形成は、投資は大きいが新たな誘引効果を見込める。有楽町のように復活を遂げたケースもある。この点、旧・東急文化会館のリニューアルなったヒカリエという「新商品」を投入し、その奥側の古い雑居ビル街も再開発した渋谷に、どうもアドバンテージがある。東横線のターミナル駅廃止にともない、その上部で隣接する、今や中高年向けに特化した感のある東急百貨店東横店の東館リニューアルにも着手している。

 新宿三丁目~新宿東口の南側も、伊勢丹のリニューアルと、すでに開店半年たった旧・三越の「ビックロ」を目玉に若者の取り込みを進めようとしているが、ゼロベースのリニューアルはなく、どうもマイナーチェンジに終始しそうに見える。むしろ若者をひきつける力は、高島屋を中心とした南口にあるように見えるが、当のタイムズスクエアビルは撤退が相次ぎ、新宿高島屋は赤字に苦しんでいる。靖国通りをはさんだ東口北側は、交通や流通小売のトレンドとは無関係に、限られたターゲットによる日本最大の大遊戯場であり続けている。

 新宿東口には(南口にも)、一般消費者が滞留・回遊でき、消費をひきつける「街」はない。あるのは「店」と「1つ2つの通り」であり、それ以外のこの「街」の消費用途は東口北側をはじめ、限られたターゲットの消費(しかし「飲む打つ買う」を中心にそこそこ高額な消費)しか寄せ付けない。この改善策も講じられているが、雰囲気としてやや苦しい。渋谷の方が、

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