薄雲鈴代
2013年04月02日
それにしても桜の開花が告げられると、京都は観光客で溢れかえる。3月22日からは清水寺で夜間拝観も始まって、産寧坂から二年坂を通って高台寺、円徳院のライトアップコースが凄まじい。今では春秋の決まりごとになっている京都のライトアップだが、それを発案したのは高台寺円徳院なので、その凝りようは年々壮大。枯山水に光線のスペクタクル、アミューズメントパークのような賑わいである。‘ねねの道’といわれる石畳は、夜桜見物の人々でごった返す。
京都という印象から、しっとりと夜桜を観したいと思う旅行者もいるだろうが、思惑とは違う京の春宵の喧騒である。
京都市内は、週末にかぎらず平日から観光バスでひしめき合っている。よく見ると海外旅行者向けのナンバープレートが目につく。二条城をはじめ世界遺産の冠をもつ寺社をめぐるほかに、海外旅行者は何を求めて京都へ来るのか。これが東京ならば、ブランド品や日本製の家電を買い占めに大挙して押し寄せるのだろうが、京都では一体なにを買うのか。よもや修学旅行生のように八ッ橋や仏像フィギュアではなく、寺町通の古美術古典籍の店や、古門前通の骨董店に旅行者は出没する。それも外国人向けの浮世絵などには目もくれず、‘本物’を買い求めに来るのだ。
古いものがすべて美術館や博物館に保管されているわけではない。寺院が秘密裏に手放した仏画や古典籍が個人に渡り、時を経て京の古書店に隠れていることが間々ある。それらはむかし、大陸を渡って日本にもたらされた名品である。わたしが寺町の古書店で取材をしていた時、たまたま店に居合わせた中国・敦煌から来た旅行者は、六世紀に描かれた敦煌の仏画を眺め、「自分の国で見たこともない」とため息を
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