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バレエ、オペラを上演できる公立ホールが大阪市内にない

菘あつこ フリージャーナリスト

 大阪の劇場不足が深刻だ。

 特にここでは、私が一番の専門分野にしているクラシック・バレエが上演できる劇場が不足していることについて語りたい。とはいえ、クラシック・バレエ全幕が上演できる劇場というのは、つまりオペラ劇場が理想で、オペラも同じ問題を抱えていることが想像できる。

 古典全幕のオペラやバレエを上演する劇場の条件をまず思いつくところで挙げてみよう。とにかく出演人数の多い演目が多いので、舞台の広さや奥行きが必要だ。そして、その人数が控えることができる舞台袖、舞台裏。大がかりな装置を使うなら、袖や奥に舞台上の見えている場所と同等以上のスペースがあると良い。そして、舞台の前にはオーケストラボックス──少なくとも、それくらいは必要だろう。

 そういうホールが大阪市内には、今、ない。東京には、東京都による東京文化会館が、名古屋には、愛知県による愛知芸術劇場があり、また、東京には他に新国立劇場もある。他にもいくつかの都市には、県立等のオペラ劇場がある。だが、日本第二の都市と位置づけられる大阪には、府立や市立のオペラ劇場はない。ヨーロッパやロシアでは、街の中心にオペラ劇場があるのは当たり前、西欧文化というけれど、いまや、オーストラリアやニュージーランド、中国、韓国などのアジアも含め、ある程度の先進国の都市ならそれが当たり前になっている。

 「大阪にオペラやバレエをやってる人や観る人がいてへんからちゃうのん?」という、大阪人のツッコミ(かな?)が聞こえて来た。いやいや、そんなことはない。バレエで言えば、60年以上の歴史を持つ法村友井バレエ団を筆頭に、東京の新国立劇場のプリンシパルを何人も育てているK☆バレエスタジオ、英国ロイヤル・バレエ入団後早くも主役に抜擢された金子扶生を育てた地主薫エコール・ド・バレエなど、大阪には実力あるバレエ団体が結構ある(地主バレエは、2年ほど前に吹田市江坂に移転したが)。オペラだって、定期的に上演する関西二期会や関西歌劇団の住所を見ると大阪市内だ。観るのが好きな人だって、それなりにいるに違いない。

 じゃぁ、その人たちは、これまで大阪のどこでバレエやオペラを観て来たのか? それは、大阪・中之島のフェスティバルホールだった。府立や市立ではない、朝日新聞グループのホール。それが、新朝日ビル建て替えのため、2008年末に休館。ほぼ時を同じくして、そんなにオペラ・バレエ向きではないにしても舞台の大きさとして使えなくはない四つ橋の大阪厚生年金会館も厚生年金問題で閉館(現在、オリックス劇場となり営業されている。オペラ、バレエというよりも、エンターティメント色が強くなっているように見える)。それで、大阪市内には全幕オペラやバレエを上演できる劇場は皆無に。上記の大阪のオペラ・バレエ団体は、吹田・メイシアターや兵庫県・尼崎市のあましんアルカイックホールなど大阪市外、府外で公演を行うようになっていったのだ。

 それって、どうなんだろう──と、ホンネの口語調になってしまう。劇場にはいろんなあり方があるけれど、都市ならひとつくらいは、公共の劇場があるべきだと私は思う。一生劇場に行くことのない人も、世の中にはいるだろう。だけど、できれば行く機会があった方がいい。「人は、なんのために生きるのだろう?」と考えるとき、私は“感動するため”なんじゃないかなと思うのだ。食べるため

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